日記一覧
┗204.今は昔、
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1 :
鶴_丸_国_永
06/28(日) 01:11
記憶の残滓を留める場所。>>>204#虚実半完混在/捏造設定過多/時折主発言有#交流緩慢/乱入不可/更新気儘/基本独白>>0,3/>>0,4/>>0,2
# 本 棚/ 付 箋 / 余 白[
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47 :
鶴_丸_国_永
12/02(水) 21:42
>今は今、の話。
大_坂_城も無事に最終階に到達したからには、もうゆっくりしても良いだろう?
…という俺の言葉に耳を傾ける主じゃあなかったな。ああ、知ってたさ、知ってたとも。
出陣こそ多少なりとも減らしてはくれたが、師走だというので新年を迎える為のあれやこれに追われている。掃除がどうの、注連縄がどうの、もちつきがどうの……何だかんだでこの国の行事やいべんと事が大好きな主だ。何百年と生きてきた俺にとっても馴染み深い伝統を大切にしてくれるのは有難いと思う。
本丸での初めての年越に向けて大いに張り切っている主を止めるのは、まあ無理だわな。
仕方ない。これも子供っぽい主の元に顕現した爺として、その笑顔を見る為に一働きしてみようじゃあないか。
>だからその後、年末年始こそは休みを下さいお願いします。
#####
>十二月十二日
最近恐ろしく眠い。眠過ぎる。
鶴も冬眠をするのか――なんて揶揄を真顔で飛ばさないでくれ、鶯_丸。俺は名前に鶴と付いてはいるが、鶴そのものじゃあないんだぜ。刀だ、付喪神だ。
あんまりそんな冗談ばかり言っていると、早春になったら君にホケホケ鳴いて貰うぜ?
#####
>一月九日
疾うに明けていて目出度かったな!……今更?ははっ、出遅れにも程が有るが挨拶くらいはさせてくれよ。けじめって奴さ。俺も存外真面目だろう、なんてな。
それはさておき、前に筆を執って以降俺――というか正確には山_姥_切_国_広の方なんだが、最早生息地が手入れ部屋状態だ。原因は単なる風邪。望んだ通り年末年始の休みは僅かながら貰えたものの急な部隊編成により益々多忙になった御蔭で帰りは遅く、年末年始以外の非番は潰れ、養生する暇が殆ど無くもう一月ほど患い続けている。こんなに長い風邪っ引きを見るのは初めてで驚きだぜ…。
手入れ部屋と戦場とを往復するだけの生活なんて息が詰まらないのかと思うが、当の山_姥_切_国_広はそうでもないらしい。様子を窺ってみると、夜な夜な誰かが手入れ部屋に通っている気配が無くも無い。…君、一応病持ちなんだから程々にな!まあ幸せなのは良い事さ、ああ。これも物_吉の御利益って奴だろうか。
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46 :
鶴_丸_国_永
10/28(水) 22:36
>今は今、の話。
>めたってるぜ。
#こいつはび_っ_く_り_ぽ_んだぜ…!
出陣中、思わず口走ってしまった俺を振り返った一_期_一_振の顔が凄かった。正直すまなかった。
…やっぱり近侍ってのは良くないな。主の口癖がうつっちまう。と、他人の所為にしておこう。
#####
>只今。
…“お帰り”という言葉の持つ力を改めて実感した。暖かいもんだなあ、本当に。
#####
折角少しずつ時間が取れるようになって来たからには、話相手の一口や二口居てほしいものだなあ。
自分で募ろうとすると、どうも案文を書き終えた時点で満足感が湧いちまう。
それならばと既に貼り出されている刀探しの掲示を眺めてみても目移りしてしまう。我ながら困ったもんだぜ。
…それもその筈、取り立てて強い希望ってものが俺には無いんだよなあ。あの刀と話したい、この刀の姿を借りたい、そんな話をしたい…明確なものが無い。誰と話そうが、俺がどの刀で在ろうが、何を話そうが――どうしても苦手なものにさえ引っ掛からなければ、どんなものにだって驚きは潜んでいる。それを探すのが楽しいってもんさ。
そういう意味では割と懐は広い、つもりなんだが。それ故に他の刀に声を掛ける時は大層難儀するという話だ。やれやれ。
#####
>十一月八日
帰って来た、筈なんだが。これほど筆が滞るとはこれいかに。我ながらび_っ_く_り_ぽ――…いや、驚きだぜ!
それはさておき、例の友刃の他にもう一口、文を交わす相手が出来た。有難い事だよなあ、本当に。
その刀は話したい事が幾らでも溢れて来るような奴で、恐ろしく長い和紙を使っているにも関わらず、余白の存在感が皆無な程に小さな字がみっちり詰め込まれている。初めて受け取った文を開いた時には驚いたの何の。俺は筆が遅いという致命傷があるが、それさえ寛恕して貰えれば長文に長文で返すのは吝かじゃあない。寧ろ好きな性質だ。
…という訳で大変な長文合戦が繰り広げられている。正直負けそうだ。だがそれもまた小さな驚きってもんだ、そうだろう?
…和紙を前にうんうん唸る時間が増えた分、この帳面と里への出陣が聊か疎かになっちまってるのが気掛かりではあるんだが。
俺にはそれだけ彼是楽しみたい事があるんだなあ、と刃生を満喫している事実を改めて実感している。幸せだ。
#####
>十一月十四日
此処数日は玉集め以外でも少しばかり出陣が立て込んでいた。全く刀使いの荒い主だぜ。
昨夜は漸くそれが一段落着いたって事で宴会があった訳なんだが、諸事情により何故か馳走を食いっぱぐれた俺だ!戦に次ぐ戦の中、誉を取った回数が三本の指に入る程に驚きの働きを齎した俺が、何故事実上の飯抜きになっているんだい?
…こんな驚きなら要らなかったぜ。
さて。此処からは少しだけ小休止。その後はまた出陣が立て込みそうだ。今の内に疲労を回復しておかないとな。
#####
>十一月廿二日
少し休んで少し慌ただしくなって、また少し休んで。今年一杯はそんな感じになりそうだな。
かれんだーと無縁な主の思考回路っぷりが異常。
#今日は平日だね。せっせと働かなきゃね!
→出陣の嵐。
#今日は赤い日だね。早朝は道が空いてるから遠くへ行き易いよね!
→遠征。
…こいつは吃驚にも程が無いか?因みに休みは気が向くとくれるぜ。連休は滅多に無いが。
そんな感じで俺もすっかり日付感覚を失っちまっていたが、現世は三連休とやらに洒落込んでいるんだってな。道理で友刃から文が届かない訳だぜ。
それならばと、少しだけ持て余した時間を大_坂_城での引き籠りに当てている。
先頃は物_吉、今度は後_藤…主が躍起になるのも解らなくはない。が、やっぱりもう少し休みをくれと声を大にして言いたい。
>只でさえ君の近侍は乳母の如くぷらいべーととやらが無いんだぜ?
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45 :
鶴_丸_国_永
10/26(月) 22:58
念願叶って初陣を迎えた日。当然のように部隊長は近侍の君、俺はその隣に居た。他には比較的最近顕現した刀達。未だこの戦いに慣れていない面々を成長させようという主の考えなんだろう。
君はまるで保護者だな、と冗談を言うと、君は何とも返事をし難いといった様子で軽く眉を顰めただけだった。
道すがら、君は隣で色々な事を教えてくれた。
敵に見付かり難い進み方、敵の場所の探り方、布陣の事――…単なる刀として戦場に連れられて行っていた頃に当時の主達がしていた事を、いざ己がやろうとするとどうにも難儀して仕舞う。それを軽々と隣でやってのける君は大したもんだと、純粋に感心したものだ。
#あんたに戦を教えるよう、主から命令されている。それなのに情けない姿など見せられる訳が無いだろう?
#…あんたこそ、慣れたらもっと優れた戦い方が出来る。そうなって貰わなくては困る。
そういえば、さりげなく君も随分と主に従順だなあ。主命、主命と繰り返すあの刀とは性質が異なるが。何のかんのと主に言われれば、命令なら、と受け入れている。…君が俺の世話を焼くのも、“命令だから”なんだろう。
不意に風が舞って、薄汚れた白布が翻った。その所為で一瞬だけ垣間見えた君の腰、其処に佩いた刀に添えられた球。先頃までは君の髪に似た輝きを放っていた筈のそれは、美しくはあるものの鈍い光に変わっている。
>…君、その刀_装は。
#嫌な空気が漂っている。あんた、見て来てくれないか。
敵の探り方は先程教えた通りだ――俺が言い掛けた言葉を遮るように、否を返す余地を与えない物言い。普段は顔を隠すように布を被っているくせに、その下から覗く双の翡翠は真っ直ぐに俺を見ている。…はは、狡いじゃあないか。普段は碌に目を合わせてすらくれないのに、こういう時ばっかり。
一先ず、言われた通りに敵の動きを探りに出向く。金属音が響かないよう、俺は自分の太刀を押さえるように握り締めた。その振動が伝わってか、三個の球が揺れた拍子に陽の光を反射して金色の光を放つ。
…嬉しくない驚きだわな、これは。
俺が早く出陣したいと駄々を捏ねた所為か、或いはそれこそ主の“命令だから”なのか。問い質したって、きっと君は答えちゃくれないだろう。
すっきりしないものが初めて首を擡げたこの日。それから少しずつ少しずつ、知らぬ間に君と俺の距離は開いていった。
決してそれを望んだ訳では無かっただろうに、なあ。
(>>41前話)(次話>> )
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44 :
鶴_丸_国_永
10/26(月) 17:08
318の俺から回して貰ったぜ、有難う。
果たして君を満足させる事が出来るかは解らないが、近い内に楽しく答えさせて貰おう。という確保。
好きなものバトン
(好きなものと理由を簡単に答えてください)
■色
■数字
■季節
■言葉
■漢字
■曲
■歌手
■料理
■飲み物
■本
■画家
■匂い
■花
■動物
■身体の部位
御疲れ様でした。
誰かに回しますか?
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41 :
鶴_丸_国_永
09/23(水) 01:05
部屋で寝転がりながら、出陣を許して貰えない不満を吐き零す日々。
隣で腰を下ろしながらそれに毎度耳を傾けてくれる君は、申し訳無さそうにこう言うんだ。
#済まない、だが主はあんたを大切にしている。それだけは解って遣ってくれ。
…大切だから出陣させない、というのは解らなくはなかった。万が一俺が折れるのが怖いんだろう?
だが戦う為に顕現したのに本丸で転がってばかりじゃあどうしようもないじゃないか。
#いずれは戦に出すつもりでいる。…それが中々叶わないのは、俺にも責任が有る。済まない。
どうして君が謝るんだ、と言葉を詰まらせた。寧ろ俺こそ君を責めているみたいじゃないか。どうにも気不味い心地がして、俺の方こそ済まない、と意味も解らない儘に形ばかりの謝罪を口にした。
…少しだけ、君の表情が晴れた気がした。
――数日後。
#鶴_丸、これを持ちなさい!
騒々しく部屋に駆け込んで来た主の腕には金色の珠が三個。
状況が掴めず呆然とする俺に、主の後ろをついて来たらしい君が小さく耳打ちをする。やっと良い装備が出来たのだ、と。
俺が壊れる可能性を少しでも下げる為に、特上の刀_装が完成するまで出陣させたくなかったらしい。
>…主は、刀を鍛えるだけでなく、刀_装作りも運が無いのかい?
小さく問い掛けた俺に、君は何とも言えない表情で視線を逸らした。
…この主の近侍を務める苦労は計り知れないもんだと、あの頃は未だ他人事だったんだ。
思い返せばこの頃が、俺にとっては一番楽しかった時期なのかもしれないな。
(>>35前話)(次話>>45)
45 :
鶴_丸_国_永
10/26(月) 22:58
念願叶って初陣を迎えた日。当然のように部隊長は近侍の君、俺はその隣に居た。他には比較的最近顕現した刀達。未だこの戦いに慣れていない面々を成長させようという主の考えなんだろう。
君はまるで保護者だな、と冗談を言うと、君は何とも返事をし難いといった様子で軽く眉を顰めただけだった。
道すがら、君は隣で色々な事を教えてくれた。
敵に見付かり難い進み方、敵の場所の探り方、布陣の事――…単なる刀として戦場に連れられて行っていた頃に当時の主達がしていた事を、いざ己がやろうとするとどうにも難儀して仕舞う。それを軽々と隣でやってのける君は大したもんだと、純粋に感心したものだ。
#あんたに戦を教えるよう、主から命令されている。それなのに情けない姿など見せられる訳が無いだろう?
#…あんたこそ、慣れたらもっと優れた戦い方が出来る。そうなって貰わなくては困る。
そういえば、さりげなく君も随分と主に従順だなあ。主命、主命と繰り返すあの刀とは性質が異なるが。何のかんのと主に言われれば、命令なら、と受け入れている。…君が俺の世話を焼くのも、“命令だから”なんだろう。
不意に風が舞って、薄汚れた白布が翻った。その所為で一瞬だけ垣間見えた君の腰、其処に佩いた刀に添えられた球。先頃までは君の髪に似た輝きを放っていた筈のそれは、美しくはあるものの鈍い光に変わっている。
>…君、その刀_装は。
#嫌な空気が漂っている。あんた、見て来てくれないか。
敵の探り方は先程教えた通りだ――俺が言い掛けた言葉を遮るように、否を返す余地を与えない物言い。普段は顔を隠すように布を被っているくせに、その下から覗く双の翡翠は真っ直ぐに俺を見ている。…はは、狡いじゃあないか。普段は碌に目を合わせてすらくれないのに、こういう時ばっかり。
一先ず、言われた通りに敵の動きを探りに出向く。金属音が響かないよう、俺は自分の太刀を押さえるように握り締めた。その振動が伝わってか、三個の球が揺れた拍子に陽の光を反射して金色の光を放つ。
…嬉しくない驚きだわな、これは。
俺が早く出陣したいと駄々を捏ねた所為か、或いはそれこそ主の“命令だから”なのか。問い質したって、きっと君は答えちゃくれないだろう。
すっきりしないものが初めて首を擡げたこの日。それから少しずつ少しずつ、知らぬ間に君と俺の距離は開いていった。
決してそれを望んだ訳では無かっただろうに、なあ。
(>>41前話)(次話>> )
35 :
鶴_丸_国_永
09/08(火) 18:22
うちの主は大変な気紛れで、何を考えているのかさっぱり解らん。単に何も考えていないのかもしれないが。
俺が顕現した時には馬鹿みたいに出陣を繰り返していた。新入りの俺は留守番だ。此処での生活を近侍から教わるように俺に言いつけておきながら、その近侍を常に出陣させていて俺の放置を決め込むとは恐れ入る。
それが暫くすると飽いたのか将又戦略なのか何なのかは解らないが、とんと出陣命令を下さなくなった。そんな訳でその後は山_姥_切_国_広と過ごす時間を多少は取る事が叶って、漸くこの本丸のいろはを教わる事が出来たって訳だ。いやあ、やっとだ、やっと!
如何せん俺も御_物として仕舞い込まれ続けて来た期間は退屈で退屈で仕方なかった上、時代の趨勢すらも殆ど耳には入って来なかった。今起こっている事態や俺達が人の身を得た理由を正確に把握した所で――こういう表現は不謹慎かもしれないが、久々に武具としての生き方が出来ると判れば自然と心が昂ぶるってもんさ。
なあ、それで俺はいつ出陣させて貰えるんだ?
#…さあ?
…さあ?って何だそれは、おい。
なあ、それで俺はいつ出陣以下略。
#んー…今気分じゃないからなあ。
…気分?って何だそれは以下略。
なあ、それで俺は以下略。
#今忙しいの、おやつ食べてるから。
…忙しい?って以下略。
毎日毎日主の部屋に押し掛け絡んではあからさまに理由の欠ける返答しか貰えない。近侍としての仕事(という名前のあからさまな主の我儘に付き合う係)を熟す為にいつも其処に居た山_姥_切_国_広は、そんな俺を横目に見遣っては呆れたような困ったような様子で溜息を漏らして肩を竦めていたなあ。
それは最早俺達の日課になっていた。結果的には数日間の出来事に過ぎなかった訳なんだが、当時はとてつもなく長い時間に感じる程に燻っていた。目の前にぶら提げられた御馳走にあと数寸という所で手が届かない、そんな感覚だ。
あの頃は大層不満にも思い退屈を覚えていたが、今となってはそういった平穏も決して悪いもんじゃなかったんだと考えなくもない。…はは、可笑しいだろう?俺がそんな感傷に浸るなんてトンチキ極まりないと、そう嗤ってくれても良いんだぜ。
>――尤も、今此処に君が居たとして、君はそんな事をする刀ではないんだろうが。
(>>31前話)(次話>>41)
31 :
鶴_丸_国_永
09/01(火) 23:16
案内された場所は驚く程に小ざっぱりとした部屋だった。生活感が無い。必要最小限の物しか無い。
幾ら刀といえど最早人の形を持つ身。四六時中戦いに出ている訳でもない以上、多少なりの余暇は有る筈だろうに、この部屋にはそれを楽しむ為の物は一切無い。
…君は普段、何をしているんだい?
#?近侍として、主の傍に居る。
…そんなに忙しいのかい、近侍とやらは。
#そうだな、すべき事は沢山有る。…それ以外にも主の他愛無い話や愚痴や悩み事に付き合ったり、洗濯物を兄弟の元へ運んだり取って来たり、頼まれた菓子や飲み物を買って来たり、あれを取ってくれとかそれを持って来てくれとか――。
いやいやいや、待て!待ってくれ。それは明らかに近侍の仕事じゃない、只のぱしりだろう!…と言いたい所を飲み込んで、“大変なんだな”とだけ返して口を噤んだ。全く、この本丸の主は驚くべき物臭らしい。近侍なんざなるものじゃないようだ。
改めて余暇の使い方を問うてみれば、取り立てて何をしているという訳でも無いらしい。
ぼんやり庭先を眺めたり、短刀達の面倒を見たり――此処には一_期_一_振が居ないから、一番最初から居る(外見年齢という意味で)年長者たる此奴が主に言われて世話をしていたらしい。
予想通り、俺にとっては驚きに欠ける生活だった。…おいおい、冗談だろう?俺にまでそんな生活を強いられたら死んでしまうぜ?…と一瞬本気で悩んだが、俺は別に自由に過ごして良いらしい。部屋の中も多少なら弄ったり物を増やしたりしても構わないとの事だった。
とはいえ、俺も未だまだ新参者で此処での生活のいろはも解らん身だったからな。当分は大人しくしていたさ。…そのいろはを教えて貰う為に同室にされたというのに、君は出陣か主の部屋に行ってばかりで留守がち。俺は放置も良い所だったしなあ。
退屈に殺されそうだったもんで、ふらりと庭を散策してみた。思いの外に色んな花や木が植えられていて目の保養になった。いやあ、本来なら物珍しくも無い自然の光景が新鮮に感じるなんて、俺も本当に息を引き取る寸前まで行っていったって所だろうか。ははは!
取り敢えず少しでも退屈凌ぎになればと、適当に花や枝葉を摘み手折って部屋に持ち帰ってみた。丁度廊下で遭遇した歌_仙_兼_定を強引に捉まえ、道すがら立ち寄った物置から空いている花瓶を取って来て、な。
適当に活けては駄目出しを受ける事数十回、結局まともなものは完成しなかったが良い時間潰しにはなったぜ。御_物とはいえ太刀としての性質を強く持つ俺には雅な事などさっぱり向いていないらしい。己の無粋さは元より自覚していた事だから驚きは無かったが、縁遠い事に挑戦したのは面白かったし、歌_仙_兼_定の美的感覚の素晴らしさには驚嘆した。
手直しをして貰ったにも関わらず聊か不格好な花を部屋に片隅に飾っておく。
どうやら手古摺ったらしい出陣から帰還した君は殺伐とした雰囲気を漂わせながら部屋に入って来たが、その彩を翡翠に映すやほんの僅かに双眸を見開いた後、これまた極微かに眼元を和らげたのを、俺は見逃さなかったぜ。
ああ、こんな表情も出来るのかと。こういうささやかな驚きも良いもんだと、満足したのを良く覚えている。
>それはまるで遠いような近い過去の出来事。
(>>29前話)(次話>>35)
29 :
鶴_丸_国_永
08/31(月) 14:25
#俺が出て来て驚いたか?
本丸に顕現したあの日。俺のその第一声に対して、主はそりゃあもう嬉しそうに頷いてくれたんで、俺も大層満足したってもんだ。
他の奴を驚かせるのは好きだが、それは喜楽に繋がってこそだというのが俺の信念なんでね。どんなに驚いて貰っても、泣かれ悲しまれ憤られては戴けない。心を生かす驚きってのは、やはり前向きなものがあってこそだろう?
だから俺は主の反応を目にして重畳、重畳――だったんだが。その隣に佇む近侍の表情へと視線を移した瞬間、そんな気持ちはすっかり吹っ飛んじまった。
確かに其処には驚きや喜びが在った、それは一目で解る。
だが他の何かも在った、それは決して負の感情じゃあない。正でも負でもない。じゃあ何だい、それは。
横暴の限りを尽くしてでも手に入れたいと人に求められて来た俺が、驚きや歓迎よりも他の感情で以て迎えられたんだぜ。こんな初めての経験は驚きでいっぱい、ってな。
初めて会った同胞がそんな態度だったんだ、正体を測り兼ねるその大きな何かの正体を知りたいと思って仕舞っても仕方が無いってものさ。いつかそれを知れたなら、其処に新たな驚きが俺を待っているかもしれないだろう?
#俺が出て来て驚いたか?
主の指示で同室となった俺を部屋まで案内するべく先を行く君の背に、もう一度問い掛けてみた。
>…そうだな。
短く、抑揚の乏しい返答。それが俺の心に漣を起こした理由が、驚きでも退屈でもない全く別のものだったと、今でなら解るんだがなあ。
もしも、なんて話をしても意味は無い。それでも、もしもあの時それに気付いていたならば――そう考えて仕舞う俺は、希少価値の割に使えない太刀だったんだろうよ。ははっ。
>もしも。もしも今、もう一度君に出会えたなら、現実とは違う未来に手が届いただろうか。
(>>28前話)(次話>>31)
26 :
山_姥_切_国_広
08/22(土) 20:50
この布は便利だと思う。
元々は他者に見られるのを好まぬが故に被っていただけだった。顔を、体を隠す為のそれは、今では傷を、血を隠すのに秀でた働きをしている。
負傷した連中を手入れ部屋に押し込んだ後、厠に籠る習慣が出来た。此処なら一口きりになれる。…不自然に長時間占領する事さえしなければ。
其処で取り敢えずの止血をして適当な布でも巻いておけば、本体である刀そのものはさておき、顕現した人としての体はまだ使える。まだ動ける。問題無い。
そうしてから自室に戻ると、同室の刀が物言いたげな表情で此方を見て来るのが常だ。
だがそれだけで、口を開く事は無い。それは俺にとって救いだった。
#…本当に行く気か?
ある日。部屋で出陣の準備をしている最中、例の刀に掛けられた言葉の意味が解らず手を止めた。布の陰になりつつも怪訝さを湛えた瞳を真っ直ぐに向ける。
だが、奴はそれ以上何も言わなかった。じっと見つめ返して来るだけで、その眼差しの強さから逃げるように体ごと奴から背けた。
>――行って来る。
背後で空気が揺れたのが解った。急ぎ足に部屋を出て、後ろ手に襖戸を閉め背後の存在の気配を断ち切る。
小さく息を吐き出してから、共に出陣する仲間の元へ重い体を引き摺るようにしながら向かった。
戦って朽ち果てるのなら、本望だ。
>そう、これが俺の最後の戦いだった。
(>>24前話)(次話>>28)
24 :
山_姥_切_国_広
08/11(火) 16:45
遠征に出る事が日常的になっていた所為か、突然出陣命令が下った時にどうして良いか解らなくなる事が増えた。
行う事はいずれも同じ――ただ敵を斬り伏せて勝利を得る、それだけの事の筈なのに。時間も掛かれば目的も様々な遠征に体が慣れてしまうと、より迅速により正攻法で片を付けるべき戦いに挑むには勘が鈍っている事を思い知らされる。
…俺だけの問題で済むならば、良い。しかし隊長として送り出されるからには、僅かな過失が他の連中を巻き込む命取りになる。それだけはあってはならない、と思う。
それなのに。解っているのに。
鈍った勘を戻すのには時間が必要で、何度仲間を傷付けてしまった事だろう。
#戦いに出れば負傷する事も覚悟の上だよ。
#この程度、いつもしてる程度の怪我だって!
…そうなのだろうか。いつも隊長として前線に居た頃の記憶がもう曖昧で、皆がこんなに負傷する事が当たり前だったかどうかすら、思い出せないんだ。
大丈夫だと、俺の所為ではないと、そう言ってくれる言葉すら信じて良いのか解らない。
ただ其処にある、仲間が負傷したという事実だけを受け止める。
そんな俺に出来るのは、連中を真っ先に手入れ部屋へ押し込む事だけだった。
…己が刀身に罅が入っている事は、誰にも言わずに。
それは自業自得。故に、俺なんかは後回しで良いんだ。
>俺よりも隊長に、そして近侍に相応しい刀が、もう居るのだから。
>後顧の憂いは無い。なら、最期まで存分に戦ってみせる。ただ、それだけだ。
(>>23前話)(次話>>26)
23 :
山_姥_切_国_広
08/10(月) 21:38
少しずつ、少しずつ。俺が近侍から外れる事が多くなっていく。
――そしてその時、近侍になるのは決まってあの刀だ。
主は効率主義だ。育てたい刀達を出陣させるに当たっては、必ず部隊一にそいつ等を揃えて行かせる。他の三部隊は適宜刀を入れ替えながら只管遠征。
近侍が誰かというのは、恐らく余り気にしていない。使える刀なら良いのだと思う。しかしながら近侍が変われば、当然仕事の仕方を教え込まねばならず、今まで通じていた筈の「あれ」「それ」が伝わらなくなってしまう。若干億劫がる性質の主にとってはそれが極めて不便であるが故、出陣や育成に関わらない際の近侍を俺に任せ続けていたのだろう。最初から傍に居たのが、俺だったから。ただそれだけの理由に相違無い。
そんな主が、あの刀に近侍を任せる事が多くなった。面倒臭がらずに「あれ」「それ」の意味から教えている。それはいずれ普段の近侍を俺からあの刀に変える為なのだろう。
それは疾うに覚悟していた事。予見していた未来の話。今更卑屈になる事は無いが――…一抹の喪失感が胸中に生まれるのは、やはり俺が未熟だからだろうか。
…何となく、あいつと同じ部屋に帰るのは足が重くなる事がある。
遠征が続いて殆ど留守にしていられる事が有難いとは、全く以て皮肉な話だな。
>少しずつ、少しずつ。心の整理をつけていけるように。
>純粋な気持ちで、この任を託せるようになりたい。
>…そう、思っていたんだ。
(>>22前話)(次話>>24)
22 :
山_姥_切_国_広
08/09(日) 23:17
そう、それは全て取り繕う為に自分で自分に覆い被せた嘘だったんだろう。
本当は、心の何処かできっと気付いていた。それを知らぬ振りをする事で、些末な事に拘泥しない刀に成れたのだと思いたかったんだ。
…被害妄想にも似た劣等感は捨て去るに越した事は無い、だが客観的に判ずべき“劣等”という事実からは目を背けてはいけなかった。
>何もかも、結果論に過ぎないのだとしても。
(>>20前話)(次話>>23)
20 :
山_姥_切_国_広
08/03(月) 16:07
最初の頃は畑仕事を命じられると複雑な気持ちになった。ああ、泥に塗れているのが似合いの刀だと、写しなんて所詮その程度の存在なんだろうと、そう主に思われているんだろうと思ったからだ。
だが名剣名刀であろうと構わず畑当番を命じる主の姿を見て、考えを改めた。確かに刀が畑の手入れをするのは可笑しいと言えば可笑しい、だが今や食事をせねばならない人の身を持つ存在が畑の世話をするのは当然と言えば当然だろう。
作物に水を遣り、草を毟る。黙々と進めればいずれ終わり、成果は目に見えて分かる。その達成感を覚えるのは、嫌じゃない。
#雑草を抜くのは結構大変だよね。植物にはそんなに詳しくないから、雑草と作物との区別がつかない時もあるよ。
ある炎天下の日、共に畑当番に入っていた兄弟が腰を擦りながら言った。
#ねえ、兄弟はどう?
草毟りについて問うたのだろうと、今思えば解る。だがその時の俺は別の考え事をしていて、聊か的外れな返答を紡いでしまった。
>…雑草という名前の草は無い。
#…え?
>どんな草にも本当は名前が有る。だが畑という場所に於いては、育てられているもの以外は雑草と看做され、除去すべき対象になるんだな。
>どんなに作物に似ていても、美味く食せる草であっても、畑では雑草になる。
#………。
それは本歌と写しに似ている、とぼんやり考えていた。
どんなに容姿が似ていたとしても、どんなに良く斬れる刀であっても、写しには絶対に越えられない壁がある。
譬え俺が国_広の傑作でも、良く斬れても、山_姥_切_国_広という俺だけの名前が与えられていても――“山_姥_切の写し”という一言によって山_姥_切の他の写し達(存在しているのかは知らないが、居たとして)と一括りにされてしまう存在だ。
その事実に対して憤る事は無い。事実は事実、受け入れるだけだ。…ただ、国_広の傑作と称される程の存在になるのなら、国_広の独創的な刀として誕生したかったと感傷に浸ってしまうのはいけない事だろうか。
#…兄弟、そろそろ帰ろうか。
考え事に意識を向けながらも手は動かし続けていたら、いつの間にか草毟りも十分に終わっていたらしい。
相槌を打って腰を上げると、兄弟の手に一束の草が在る事に気付く。
>…それは?
#これ?スベリヒユだよ。この前、燭_台_切_光_忠と一緒に畑当番をした時、食べられる草だって言ってたのを思い出したんだ。
#僕はどうすれば食べられるか分からないけど、今日の食事当番は燭_台_切_光_忠だから、渡せばきっと料理してくれると思うよ。
屈託無く笑う兄弟の顔をじっと見ていた。
普通に兄弟として接しているのが当たり前過ぎて忘れてしまっているが、此奴こそ本物の国_広かどうかとやかく言われる刀だったのだという事をふと思い出す。
曖昧な己の出自に拘る事無く、和_泉_守_兼_定の相棒として前の主に愛された事を誇るこの兄弟は強くて美しいと改めて思った。
>…なら、俺も。
引き抜かれて畑の脇に積まれているスベリヒユを一掴みすると、兄弟は一瞬双眸を丸めてから、もう一度笑った。
#僕達だけおかずが一品増えるね、兄弟。
その日の夕餉。赤っぽいのと緑のが入り混じったぬるぬるの物体が、俺と兄弟の膳にだけ添えられていた。
…見た目はちょっと頂けなかった。食えたからそれで良いが。
(>>19前話)(次話>>22)
19 :
山_姥_切_国_広
07/28(火) 16:06
俺達が生まれた時代とは比べ物にならない程、便利な世の中になったものだ。
それは服装もまた同様。
今でこそ動き易さを重視して軽装の者も居れば、それなりに具足を着用している者も居る。正に刀それぞれだ。
世が世なら皆が鎧兜を身に着けて敵と戦っていたかもしれない――そう考えると、顕現したのがこの時代で良かったと心の底から思う。
素早く動けた方が俺は戦い易い。この服装は軽くて動き易いので、それなりに気に入っている。
>今となっては具足を正しく身に着けられる自信が無い。
皆で衣装の話をしていた際、ついぽつりと零してしまった。
#幾らもう具足を着込む時代でなくなったとはいえ、武具の嗜みとしてそれは知っておく方が良いと思うな。これを貸そう。
そう言いながら蜂_須_賀_虎_徹が差し出して来たのは『単_騎_要_略』だった。甲冑の着用方法が忘れ去られつつあった泰平の世に、指南書として刊行された書物だ。存在は知っていたが、目にするのは初めてだった。
有難く拝借して頁を捲ってみる。
#褌の付け方。
……?
次の頁を捲る。
#下着の着方。
………?
…おい、蜂_須_賀_虎_徹。
#何かな?
…甲冑を着る時は褌と下着の着方が普段とは違うのか?
#え。
普段通りで良いのなら態々其処から始める必要は無いだろう?
#ど、どうだったかな。
…嗜みとして、あんたは覚えているんじゃないのか?ちょっと締めて見せてくr
#ちょっと落ち着いてくれないか!!!
怒られた。
挙句、書物も強制的に返却させられてしまった。御蔭で甲冑の付け方は元より、褌の締め方も思い出せない。
横では俺達の遣り取りを見ていた他の連中が爆笑していた。
…俺は大真面目だったというのに。遺憾だ。
(>>16前話)(次話>>20)
#####
>今は今、の話。
今日は非番だからと、堀_川_国_広がせっせと洗濯やら掃除やらをしていた。その序でに俺のこの冊子も付箋を何か所か付けられた。
…後々整理するのは億劫になる。早め早めにしておくと確かに便利だな。
16 :
山_姥_切_国_広
07/21(火) 21:44
>何処に行っていたんだ?
>いつ戻って来たんだ?
数度問い掛けはしたものの、返って来るのはのらりくらりとした曖昧な言葉と貼り付けたような笑みばかり。これは問い詰めるだけ無駄だろう、そう思って溜息を吐いた。…そうだ、此奴はそういう刀なんだ。
ただ主から世話を命じられている以上、こういった事は今後謹んで欲しいと一言釘を刺すに留めた。返されるのはやはり、不明瞭な相槌だった訳だが。
――思い返せば、此奴が此処に来たのはほんの少し前の事。それはこの本丸にとって、奇跡的な出来事だったろう。
>どうにも主は運に見放されているらしい。
それはどの刀も察しつつ、口にはしない事だった。
刀を鍛えても鍛えても既に良く見知った刀ばかりが出来る。出陣して拾い集めて来るのも同様。装備も歩兵の並ばかり。
最初こそ近侍たる俺の力不足かと自嘲もしたが、遠征に出て他の刀に近侍の役割を託している時も変わりない。近侍や俺の問題ではなく、此処まで来ると主本人の問題だと、誰もがそう感じるようになっていた。そして、それはそれで主らしくて良いんじゃないかという和やかな雰囲気も同時に漂っていたんだ。
それがある日、奇跡が起きた。鍛えて完成したのは、希少価値の高い太刀――即ち、彼奴だ。その時の主の喜びようといったらない。流石の俺も密かに唇を緩めた程には。
成長すればこの本丸で一番強い刀になるだろう。そう期待して、主は俺に世話を任せた。本丸内での生活の規範を教え、出陣の際には指揮の執り方を見せる。いずれは俺など容易く追い抜かれるだろう、…それでも構わない。そうなったら、今度は俺が追う番だ。きっとそんな日々もそれなりに充実するに違いない。
…そう、自然と前向きに考えられるようになっていたんだ。
#因みに主の運の無さは相変わらず現在に至るまで継続している。
…こればっかりはどうしようもない、らしい。哀れだな。
(>>15前話)(次話>>19)
15 :
山_姥_切_国_広
07/19(日) 01:17
基本的に近侍を務め続けているが、時折外れる事がある。大抵の場合、一旦隊を異動して遠征要員になる為だ。
――あの日も正にそうだった。
その頃、丁度新しく鍛えられた刀が居た。段々と仲間が増えて一刀一部屋とは行かなくなって来た時期である事に加え、本丸での生活を教えてやるように主から命じられた俺は、そいつと同室で暮らしていた。
遠征に出向く事になった日、日付が変わる迄に戻れるかどうか危ういと聞いていた俺は、同室のそいつにその旨を伝えておいた…訳、なんだが。
思いの外順調に進軍し目的を果たして帰還したのは、未だ月が天頂に届くよりは前。それでも夜は深まりつつある時間帯で、本丸の中はほぼ皆寝静まっていたようだった。
草臥れた体を休めるべく自室に向かうと、一人分の蒲団が敷かれている。しかし其処には誰も寝ていない。部屋にも誰も居ない。…何処へ行ったんだ、彼奴は。
探してみても見当たらない。建物の中は勿論、庭なども。
それでも彼奴の影すら掴めない。
…さて、どうしたものか。
自室に戻って悩んでいる内、知らぬ間に意識が途切れてしまったらしい。其処から記憶が無い。
今思い起こしても己の不甲斐無さに嫌悪を覚える夜だった。
>目が覚めたら彼奴はちゃっかりと布団で寝ていたから、やり場の無い憤りを鎮めるのに苦労した事は言うまでもない。
(>>14前話)(次話>>16)
#文にも満たない呟き
…随分と難儀な病を抱えて仕舞ったようだが、回復が早いとの事で安堵した。
本調子となる迄にはまだ時間が掛かるのだろうが、それが少しでも近い日である事を願う。…大事にしてくれ。
14 :
山_姥_切_国_広
07/14(火) 18:10
#新入りが来る度に、何処か不安そうな眼をするよな。
唐突に掛けられた言葉。思い当たる節は無く、俺は少々間の抜けた顔を晒してしまったのだろう。いや、きっとそうに違いない。薬_研_藤_四_郎は明朗な笑い声を立てた。
#無自覚かい?なに、そんな心配なんかしなくとも、大将が一番信頼してるのは言うまでも無く唯一口。近侍を変えるつもりなんざそうそう無いだろうよ。
#勿論俺っち達も頼りにしてるぜ?何てったってこの本丸に来てからというもの、生活の仕方も敵との戦い方も何もかもを教えて貰った。存外面倒見が良いよなあ、顔に似合わず。
まあ、いち兄には負けるかもしれねえけどな――最後にそんな軽口を残し、俺の肩をぽんぽんと叩いて、薬_研_藤_四_郎は何処かへ駈け出して行った。その背を眺めながら、そういえば今日の馬当番は彼奴だったなとぼんやり思い起こす。
俺以外にも一口、二口と刀が増えて来たこの本丸。今まで俺一口で全てを熟して来た仕事は徐々に分担されるようになって、心身共に負担は減った筈だった。疲労を感じる事も余り無い。
…それなのに、何故か眠れない日が続いていた。成り行き任せに睡眠を取るのも嫌いじゃないが、如何せん人の身を借りている以上、不摂生が続けばいつか任務に支障を来すのではないかと、流石に不安を覚え始めた所だった。
薬_研_藤_四_郎はそんな俺の気持ちを見抜いたのか?いや、違う。俺の抱えるそれと、彼奴の言った不安は別物な気がする。
何となく靄の掛かる思いを胸にした儘、縁側に腰掛けて庭先を眺める。落ち着いて物思いに耽ろうと思っていたが、いつしか視界の片隅に短刀達が集まって戯れ始めていた。
短刀とはいえ名剣名刀揃いだ。国_広の傑作でありながら、胸を張って名刀だと自負出来ない俺とは違う。実年齢はさておき、人の子同様の素直さと伸びやかさを持って顕現した所為か、成長も目覚ましく速い。今でこそ此処では俺が最も強い刀だが、それは所詮一番最初に顕現し経験を多く積んだという結果に過ぎない。いずれは俺が追いつかれ、追い抜かれ、やがて主も俺なんか――と思案に耽った所で我に返った。
#ねーえ、ねえったら!
正に女子そのものと讃えたくなるような声と膨れっ面の乱_藤_四_郎の顔が、眼前に在った。
#さっきから呼んでるのに、もう!
#――あのね、あの木の実を食べたいけどボク達じゃ届かないんだ。貴方なら届くでしょ?だから取って取って!
無邪気ながらに拒否する暇を与えない調子で、にこやかに強請られる。
仕方が無いなと溜息を一つ零して腰を上げ、木の下にて手を伸ばすと容易く実に届いた。有難う、美味しい、もっともっと、自分の分も――あちこちで上がる声に応じるよう、木の実をもいでは与えて遣れば与えた分だけ、笑顔が惜しみなく咲いた。…こういうのも、悪くない。
…全ては杞憂だったんだろう。詰まらない不安。下らない悩みだからこそ、自覚したくなくて無意識に押し込めようとした。
俺達は何の為に居る?敵を倒して人の歴史を守る為だ。その目的を果たす為には、俺なんかより強い刀が居れば居るほど望ましいに決まっている。そうしてそんな奴らが近侍になった方が、主の為にもなるだろう。
そして、俺にとっても。強い奴が身近に居れば居る程、血が騒ぐに違いない。追いつこう追い抜こうと願って、励んで、高みを目指せば良い。何も怯える事じゃない。俺が俺である事と、他の連中と比較してどうこうという事は、全くの別問題だ。
手近にある実を取り尽くした所で、最後の一個は懐に忍ばせて厩に向かった。
当番でもないのに訪れた俺を訝しげに振り返った薬_研_藤_四_郎にそれを差し出せば、数度瞬きをしてから笑みを浮かべ受け取ってくれた。
#…ほら、頼りにされてるだろう?
そういう名目で利用されている気がする、と返すと、薬_研_藤_四_郎は大笑いをしながら実を齧り、美味いな、と顔を綻ばせた。
>――この夜から、自然と夜に眠れるようになった事は言うまでもない。
(>>12前話)(次話>>15)
12 :
山_姥_切_国_広
07/13(月) 02:58
元来、俺は周りに気を配るのは得手じゃない。己の事で直ぐ一杯一杯になる方だろう。
そんな俺が近侍として主を支えつつ本丸のあれやこれに目配りをするのは、正直な所、慣れるまで相当疲弊していた…らしい。自覚は無かったがな。睡眠があからさまに不規則だった。
外に在っては敵を斬り、内に在っては畑や馬の世話をして、主の傍らに於いては今後の方策を練る。
心身共に疲労が溜まれば眠気が訪れる時刻が早まる一方、いざ眠ってみれば直ぐに目が覚めてしまう。寝ては覚めてを繰り返す内、気付くと陽が地平線から顔を覗かせているのが障子越しに察せられて、満足に休まらなかった重い体を起こす。それでも何食わぬ顔をして、普段通りの勤めを熟さなくてはならない。当然だ。
中途半端な眠りに落ちる事さえ次第に億劫になって来て、睡眠時間を取ろうとする事を止めた。眠くなろうとも、眠れなければ寝ない。眠って目が覚めた後、無理に寝ようとはしない。全て成り行きに任せよう、と。
徐々に減る睡眠時間の代わりに、独りの時間が増えた。近侍として、或いは刀_剣_男_士として、じゃない。唯の“俺”として、の時間。
眠れなければ、月明かりを頼りに書物を読んだ。庭の散策もした。何をするでもなくぼんやりと過ごす事もあった。
それは写しである事実を負い目にして戦う事でしか自己を見い出せない“山_姥_切_国_広”ではなく、在るが儘を受け入れた一口の刀の姿だったろう。
朝になればまた“山_姥_切_国_広”に戻る。宵だけに姿を見せる、他の誰も知らない“俺”を糧にして。
#――お休み、また今夜。
傾き沈んでいく月を見上げて、小さく呟いた。
(>>11前話)(次話>>14)
11 :
山_姥_切_国_広
07/12(日) 03:01
主一人、刀一口の生活。
二口目の刀が現れるまで、俺が全ての事に目配りをしなければならない。剣を振るう事しか能の無い俺にとっては何とも斬新で目まぐるしく、主にとっては恐らく不安の連続だったんじゃないかと思う。
得手不得手はさておき、すべき事にはそれなりの姿勢で臨む。主の命令だからな。
それでもどうしても、馬や畑の世話は中々馴染めなかった。――雑用のように思えて、己が軽んじられているような気がしたというのもある。必要な仕事、誰かが熟さねばならない役目だと解っていても、俺がやるのか、俺にはその程度の仕事が似合いなのかと複雑な気持ちになった。…俺しか刀が居ないのだから、俺がやるのが当たり前だった訳だが、それでも気持ちが頭に追いつかない。
しかしそれ以上の違和感があった。刀が生き物の面倒を見る、という根本的な部分に対するものだったのだと思う。
命を奪う為に生を受けた刀が、命を育む行為を行う。…これ程までに奇怪な事はそうそう無いだろう。
豊かな毛並みを撫でながら、馬の瞳を見る。純朴な光を宿す其処に俺の姿が映っている。妙な居心地の悪さを覚えた。
雑草を引き抜き、水を遣る。水滴を纏う野菜達は、陽の光を浴びて生き生きと輝く。その姿が眩かった。
戦う事でしか己の存在意義を認められない俺は、出陣するとまず傷塗れになって帰還した。出迎える主の顔はいつだって曇りがちだった。
主の心配は俺そのものに対するものではなく、たった一口の刀を失いかねない事に対するものだろう――他者の善意を素直に受け取れない俺は、そんな卑屈極まりない解釈を自分に言い聞かせては主から目を逸らしていたんだ。
きっとその時の俺の目は暗く澱んでいたんじゃないか。馬の瞳とは似ても似つかない、酷いものだ。
傷を治す為に手入れを受ける最中も、折れてしまっても良かったのにと呟いては主に叱られた。
しかしそれはなまじっか嘘ではない。戦いにしか存在価値を見いだせない俺だから、戦いの最中に生を終えてしまいたいと思うのは、決して可笑しな事じゃない。
主に手を掛けられて生を長らえさせて貰う俺は、なかなか壊れる事の出来ない焦燥に沈んだ顔をしていたんじゃないか。それは生の輝きを放つ植物の芽とは比べ物にならない、醜いものだ。
>誰かに認めて貰いたい。
胸の内に湧いては打ち消すこの思い。欲を出す写しなど烏滸がましい。
それでも、もしも現身を得た事に何らかの意味があるのなら――気が付けばそう期待してしまって、葛藤を繰り返すばかりの日々だった。
#二口目の刀が現れる前の話。
(>>8前話)(次話>>12)
8 :
山_姥_切_国_広
07/01(水) 23:35
平穏な時代を遣り過ごせるようになるまでには、時間が要った。
普段は箱の中に一口だけで仕舞い込まれて、時折手入れの為に取り出され僅かながら外の空気を吸う。
極稀に展示されて、多くの人の視線を浴びる。…山_姥_切と並べられるという状況だと、その視線は宛ら鋭い錐のようだった。
…安穏とした日々は、俺にとって妙に息苦しい。俺の意思などそっちのけ、ただ生かされている感覚に戸惑った。
>いっそ折れてしまえたならどれほど良かった事だろう。
やがては慣れた――正確には、諦めたというべきか。
目を閉ざして、周囲の音を聞き流して、身動ぎをせず、不安定な空間に身を委ねる感覚。
そうしてどれだけの時が過ぎたのか、少しずつ五感が埋没していく中、不意に明瞭な声が頭に響いたような気がした。
何が起こったのか、最初は良く理解出来なかった。瞼を持ち上げれば、其処に待ち受けていたのはまるで過去に戻ったかと錯覚するような懐かしい景観。
>…此処は何処だ。
>一体今は“いつ”なんだ。
#此処は本丸。
#――今は西暦2205年。
世の中には存外、予測し得ない事態が転がっているらしい。
…もう二度と、俺が俺である事を模索出来る日が来るとは夢にも思っていなかったというのに。
(>>7前話)(次話>>11)
7 :
山_姥_切_国_広
07/01(水) 00:13
ただ並んで存在しているだけでは、見目ばかりが比較されてしまう。
俺はそれを良しと出来る程、大人ではなかった。
だから使われる事を願った。
戦う事を望んだ。
血で汚れる事を欲した。
生きるか死ぬかの瀬戸際で、俺を本歌と比較しながら振るう奴等居ないだろ。その瞬間だけは、俺はただの一口になれる。俺は俺だと、戦場でならただの刀になれる。その高揚が堪らなく好きだった。
生まれだけはどう足掻いてもどうにもならない。しかし生き様は俺と山_姥_切、それぞれ違う。其処に刃生を賭けられると思った――が。
#気が付けば乱世は終わっていた。
…何も、残せない儘に。
#本歌は霊剣。
>俺はただの刀。
平和を厭う訳じゃない。だがそれでも、安穏と命を永らえるのは時に苦痛だ。
美術品になりたい訳じゃない。容姿を愛でられたくなどない。
>いっそあの震災で壊れてしまえば良かったのに――。
(>>6前話)(次話>>8)
6 :
山_姥_切_国_広
06/29(月) 23:31
#似ている
>似てない
山_姥_切と共に居た時間は然程長くはない。しかしその限られた期間に、刃生でもう十分だという程の露骨な比較の眼差しを受け、言葉を耳にした。
…“写し”とは一体何なのか、と思う。
外見が似ていれば良いのか。切れ味が似ていれば良いのか。使い勝手が似ていれば良いのか。それとも手本としたもの、されたものという関係性がありさえすれば、似ていなくとも構わないのか。
そんな風に考える程、俺達は似ているようで、似ていないようでもある。
背丈は殆ど同じだが、差がある。顔立ちも面影はあるのに、雰囲気が違う。他にも色々、様々。
勝手な解釈だが、写しは本歌に容姿が似ている方が良いのだと思っていた。切れ味や使い勝手なら、他の刀でも似た物は存在するだろう。しかし外見ばかりは偶発的に似た物が居るとは限らないから、その姿を写し取る為に態々鍛えられるのだと、そう考えていた。
故に、俺は「似てない」と言われる事が恐ろしかった。“写し”としては駄作だと評されているような心持になったからだ。
その一方で、「似ている」と言われる事に懊悩した。山_姥_切無しには、俺の存在価値など無いと判じられているようで。
本歌に多かれ少なかれ依存したこの容姿が嫌いだ。
時に本歌より美しいと称される事が嫌いだ。
#似ていなくてはいけないような気がするのに、似ていたくない。
>似ていたくはないのに、似ていないと存在意義を見失いそうになる。
#似ている所を見られたくないから、長めに伸ばした前髪と大きな布で顔貌を隠してみた。
>似ていない所を見られたくないから、見苦しくしていれば綺麗だとは思われないだろ。
――この思惑が正しかったのか誤っていたのか、俺にはまだ解らない。
態と外見に差異を生じさせていく俺を山_姥_切がどんな気持ちで見ていたのか、今でも知らない。
愚かだと、嗤えば良いさ。
短い間とはいえ誰よりも傍に居たのに、俺はあんたの事をきっと誰よりも解っていなかった。解ろうとしなかった。
…あんたが悪い訳では、無いのにな。
(>>5前話)(次話>>7)
5 :
山_姥_切_国_広
06/28(日) 01:15
#熱い、と思った。
火床の中に入れられた時、槌で打たれた時、この身を研がれた時、全て。
――だがそれ以上に、完成した俺を持つ力強い手と、その男の視線が。
嘱望されて生まれて来たのだと思う。
全てを注がれて生まれたのだと思う。
だからこその、あの満足気な顔だ。結果的に俺は国_広の傑作と称される程の存在になった。それは俺の誇り。
…それでも。渇望されたのは“俺”ではなくて、“山_姥_切の写し”なんだろ。欲されたのは“山_姥_切の写し”。“俺”ではない。
もしも俺が“山_姥_切の写し”として生まれなかったのなら、国_広が自由に鍛えた結果として生まれていたのだったなら、“俺”が誰かに顧みられる事など果たしてあったかどうか――。
どうしてそんな“俺”が、主が最初に手にする刀とされたのか、良く解らない。
本歌の方が良かったんじゃないのか。
本物にもなりきれず、贋作でもない。一番中途半端な立場の刀。
そんな存在は、俺以外に居ない。
名_剣_名_刀揃いの世界に放り込まれた“俺”の存在意義は、一体何処に在るのだろうな。
#――熱い。
考えれば考える程に、あの熱が恋しい。
>“俺”を求めていたと、そう愛しむように触れる手が、そう告げてくれる眼差しが。
>国_広だけは、譬えどんな形で生まれていたとしても、きっと“俺”を望んでくれた。…そう信じても、良いだろうか。
(次話>>6)