幾百幾千幾万と、我は数多の生命を奪ってきた。
身に宿るはその奪った生命と引換えに我を蝕み続ける業。それを一切と苦に思ったことはない…我が身朽ち果てようとも我は我を救ってくださったあの方の為、あの方との契約を果たす為、この身をも全て捧げ槍を振るい続けるのが我を今世に繋ぎ止める。
それだけでいい、それだけで我はこの業障に飲み込まれぬ様抗い続ける意味となるのに…あの御方は我の身体を大切にせよと、あの御方の添い在るべき彼奴まで我を友と呼ぶ。我に生きよと新たに我に生きる意味を与えてくれた…
我にはまだ、人の世の在り方も、その世への馴染み方も、我が業を積もらせぬ生き方も見付かりはしない。ましてや、身を添わせる等……分かるはずもない。
だが、それでも…我はあの御方に救われるより前の我よりは俗世を見れているだろうか。
彼奴等はとうに散り朽ち果てた筈なのに…笑う声が聞こえてくる。
実に不愉快だ…
そうだ…不愉快だ。我に、安寧を齎す彼奴等の声など…そこで見ているだけでいい。でなければ、我は貴様らに…………

どんなに偉大な大魔術師であっても成し遂げられない事はある。
そう、この僕にだって予想外な出来事はあるものなんだよ…君は想像した事があるかい？
愛しい妹が僕を爆発させるなんて
好奇心に負けたの。なんて真顔で言われた時にはリネットがついにどうにかなっちゃったのかと思ったよ。僕は大魔術師…華麗にかわした訳だけれど…皆は真似しちゃ駄目だからね？近くにあった爆弾を好奇心で爆発させちゃいけない。覚えたかな？それでもやっぱり難しいと思うことは多々とあるんだ。それは人の心。
マジックにおいて人の心を読むということは基本であり大切なことなんだ。如何に相手の注意力や意識を自分に向けるかが鍵となる。ありきたりなものでは駄目、目新しいものを手元に飾り釘付けにしてから華麗なマジックを見せる…まるでそれが魔法や夢のようと思わせたなら僕の勝ち。そう、マジックとは心に深く刻むことで完成するんだ。
だけど、それだけで終わらせられなかったり予想不可能な事は沢山ある。僕は沢山の嘘と真実の狭間に生きている…それは逆に僕の心も相手の心も疑ってしまう事もあるんだ。
リネットやフレミネ、楽団の皆…家族と呼べる人は勿論誰よりも信頼している。でも、新たに繋ぐこの手は本当に嘘偽りの無いまっさらなものなのだろうか…ってね。嘘偽りが多いのはこの僕だってのに、相手の嘘偽りを怖いと思ってしまう…寧ろ常にそんな舞台にいるからこそ真実を信じていたいのかもしれない。
そう考えるうちに繋げたかもしれない縁を手放してしまうのは馬鹿だったかなぁ…ってリネットに話したらそんなリネはいつものこと…馬鹿だとは思うけれど、ゆっくりでいいんじゃない…って。本当、リネットは確信をついてくる。けど、やっぱりリネットだなって…そうだなぁ、ゆっくりと僕のペースでやっていこう。きっと真実も偽りも表だけを見ていても分かりっこないんだから。