Don't call me cute.

>>

　なんでもかんでもかわいいって甘やかすのは教育上良くないと思うの、アンタに教育されているつもりはさらさらないけれど。……別にそう言われるのが嫌なわけじゃないのよ、ただダメなことはダメって言ってくれないと、増長してわがままに拍車がかかってしまったら困るのはアンタでしょ。……前も言ったわね、こんなこと。その時もアンタは「増長なんかしたとこでたかが知れてるだろお前は」なんて言って鼻で笑ったのよ。アタシは真剣にアンタの負担を危惧して話していたっていうのに、全くもう。

　実は、あれからずっとアンタが困るようなひどいわがままについて考えて居たんだけど、例えば……そう、アンタが誰かと話している傍らで、むすっとした顔をしながら「アタシ以外と話さないで」なんて失礼極まることを言い出したらどう？　それってとっても困るんじゃない？　思い付かないことに対して揶揄われたのが悔しかったから時間はかかったけれど捻り出してやったわ、これをアタシがやるかどうかは別としてね。だってこんな無礼な真似、美しくないじゃない。
　……？？　ん？　もしかして、増長してもやらないことを言っても仕方なかったりする……？
　自分でも察してる通りお前がやる訳ない事を言われてもなあ？まあ万が一そんな事言い出した日には当然その誰かに断りを入れて引っ込むだろうな。そんな事言い出すなんてよっぽどどこかしら調子が悪いんだろうから布団に突っ込んでそれこそ甘やかしてやるよ。
　ほらもう、流れるように甘やかす。引っ込むのは百歩譲ってよしとしても、そこはきちんと叱るべきところでしょ……なんて、仮定の話でやいやい言っても仕方ないわね。調子が悪くなくてもベッドへ連れて、甘やかして。アンタの手できちんとアタシの全てを検めるのよ。


>> 以下私信。

ミセス・コヤナギへ。

　ええ、そうなの……体調面に引き摺られて、何も上手くいかないことになんだかとても焦ってしまって。……でも根気強く支えてくれる彼と、アナタの共感と優しい言葉のお陰でフィジカルもメンタルも持ち直したわ。ひどいぬかるみからようやく脱出できた気分よ、ありがとう。忙しさに追われるアナタに、そっと心配と感謝を寄せて記しておきましょう。返信はお気遣いなく、どうかアナタも身体と心を大切にね。

>>

　アンタの帰ってくる声が、音が好き。アタシが諸々を終えて休んでいる間、帰ってくるその少し前に『そろそろ戻る』とスマホに連絡がくる。案外マメよね、アンタって。それを聞いたアタシが待ち遠しさを返事に滲ませる姿が、アンタには見えない耳や尻尾をぴんと立てているように見えているんでしょう。全く、格好がつかないこと。……でも、そんな風に自分の気持ちが抑えきれないくらい、アンタが帰ってくることが嬉しいのよ。犬のようだと揶揄われる事は分かっていてもね。
　そうして期待と嬉しさでそわそわとアンタを待つ内に、少しだけ草臥れた様子のアンタがやってきて……アタシがおかえりなさいと告げて、アンタはただいまと返して緩く笑う。アタシはその声が好き。アンタが好き。

　ふたりきりのときの、特別に甘い声が好き。揶揄や皮肉の効いた言葉に、ふたりきりなのにって少し拗ねたり心配したりするアンタが好き。愛情のこもった言葉が好き。アタシの前だけの特別なアンタが好き。好きをあらゆる手段で伝えているときの、アタシを見るアンタの目が好き。真っ直ぐな愛情の好きなアンタが好き。アンタのすべてが好き。どんなアンタもアタシは大好きよ。

>>

　明日起きてきてこれを読んだアンタが、少しでも嬉しい気持ちになってくれたらいい。