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190 :げらっち
2023/09/10(日) 11:28:12

【アンソロジー目次】
1 やっきー >>2-4>>84
2 げらっち >>8-10>>31-33>>36-38>>88>>173-175
3 ラピス >>17>>78>>184,185
4 迅 >>19-21,25-27>>41-44,50-53,58-62
5 黒帽子 >>22>>91
6 露空 >>35>>83
7 すき焼きのタレ >>66
8 ベリー >>86>>94>>176-179
9 92 >>89>>103
10 ダーク・ナイト >>151>>154,159

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191 :ベリー
2023/12/05(火) 22:54:28

『緩やかに、世界をとかして嚥下する』


 この街は、かつては観光地として有名であった。とある芸術家が共同で芸術作品を作ろうと市長にあおぎ、市長も街おこしになるからと芸術家の提案にのった。そして生まれたのが、街を囲うガラスドームであった。
 またたく間に人は集まり、繁盛し、観光地として名を轟かせた。
 しかしそれも昔の話だ。
 食人病という、突然変異で生まれたウィルスによる病。名の通り、人を食らいたい衝動に駆られる奇病である。それがこの街から生まれてしまった。
 感染した者は身体中の色が抜け、頭が回らなくなり、体が腐ろうがもげようがお構いなしに、まるでゾンビのように人肉を求め続けるのだ。
 世界が食糧難ということもあり、この街は即座に切り捨てられた。かつて街のシンボルであり、街の人々を見守っていたガラスドームは、食人病に感染した者を隔離する道具と成り果てる。
 街の人々はガラスドームから外へでれぬまま。いつゾンビに襲われるのか、いつ自分も食人病に感染するのか、恐々として日々を過ごした。
 かつてあれほど陽の光を反射し輝いていた街は見る影もない。人口が徐々に減り、赤黒い液体があたりに飛び散り、崩れかける家々がならぶ廃れた街へとなってしまった。

 そんな街に住む一人の少女、ストレーリチア。彼女は父も母もいない。生まれて間もない頃に孤児院の前に捨てられた。ゾンビも病も蔓延り、しかも外へでられない環境であるこの街では珍しいことではなかった。
 ストレーリチアは孤児院で、病の脅威に怯えながらそれでもすくすくと育った。
 ガラスドームの出入り口には外から岩が敷き詰められていて、村の外にはでられない。生き残ったってその先には何もない。ゾンビとなって人を食うか食われるか。彼らの末路はそれしかない。そんな絶望に目を背け、ストレーリチアは日々を過ごした。
 しかし、そんなストレーリチアにも希望はあった。

「やぁ、みんな元気かい?」

 無秩序な街にできた自警団に所属する青年。ルレザンである。彼は定期的に食料を届けに孤児院へやってくる。

「やぁチア、元気かい?」

 自身の名を呼ばれ、ストレーリチアは頬を赤らめながら頷く。

「はい、お陰様で……。またお食事の材料を持ってきてくれたんですの? いつも助かっておりますわ」

「それは何よりだ。といっても、日に日に量が減ってることはチアも分かってるだろう?」

「それは……」

「けどこっちもカツカツなんだ。飲み込んでくれ、としかいえない。不甲斐ない僕で、ごめんね」

「そんなことっ……!」

 ストレーリチアは腰までの髪とともに前へ飛び、ルレザンの両手を握る。

「私(わたくし)はあなたに救われています。あなたは、私の英雄なんですもの」

 ゾンビから人々を守り、かつての治安を取り戻さんとする自警団。そこに所属するルレザンは、ストレーリチアにとって心の支え、英雄であった。
 彼という光があるから、この地獄で生きようと思えるのだ。

「そっか、それは照れるな。僕達も、チアみたいに元気に過ごす人達の笑顔が希望だよ」

 ルレザンはストレーリチアの頭に手をやり、その栗色の髪を上から下へとすいた。ルレザンの体温と大きな手を感じて、ストレーリチアは幸せな気分だ。

「そうだ、ルレザン。また三つ編みをしてくれませんこと?」

「またか? いい加減自分で結べるようになれよー?」

 そう、ルレザンはストレーリチアへ座るよう促し、他の孤児の子にクシを持ってきてほしいと頼む。その間、ルレザンは手でストレーリチアの髪をといた。
(いい加減自分で結べるようになれ、だなんて。おかしいことっ)
 そうストレーリチアは胸中で笑う。だって、ストレーリチアはとうの昔から、三つ編みなんて自分でできるのだから。けれどそれは言わない。言ってしまったら、もうルレザンが髪を結んでくれなくなってしまうかもしれないのだから。

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192 :ベリー
2023/12/05(火) 22:54:46

頭からルレザンの体温を感じる。まるで大切なものを触るかのように丁寧に、ルレザンは髪を梳く。そんなこの時間が、ストレーリチアは好きだった。ルレザンが髪を二つの房に分け、その片方を更に三つに分けたその時。

「いやあぁっ!!」

 孤児院に悲鳴が轟いた。ルレザンは髪を梳く手を止めすぐさま悲鳴の方へ向かう。自分に何も言わず走り去ったルレザンに、ストレーリチアはため息をつく。
(相変わらず正義感が強い人。でもそこがいいのですけれど。でもでも、なにか一言置いていってもバチは当たらないでしょう)
 ルレザンには自分だけを見て欲しい。彼の優しさも義侠心も自分だけのものにしたい。けれど、自分以外の人を疎かにするようなルレザンなんて、そんなのルレザンではない。見たくない。矛盾した己の感情に、ストレーリチアは頬を膨らませた。
(ルレザンは私だけのヒーローでいいのに……)
 ふと、背後から足音がした。悲鳴が聞こえたにも拘わらず呑気なストレーリチアは、無防備にゆっくり振り向いた。

「──え」

 突発的に溢れでた驚きが声となる。息が詰まる。ストレーリチアはその栗色の瞳を丸くして、呼吸を止めた。

「ちあ、ちゃん──」

 目の前には、ストレーリチアの友がいた。しかし様子がおかしい。黒髪だった彼女の髪は脱色していて、瞳も色が抜けて血の色に染まっている。
 食人病の初期症状。ストレーリチアの頭にはそれが一番にうかんだ。しかし、

「いや、なんで──」

 受け止めることはできなかった。物心ついた時から一緒に孤児院で過ごした友。家族と言ってもいい存在が、食人病に犯されてしまった。その衝撃は計り知れない。
 その友の口からはボタボタとよだれをたらしている。その虚ろな赤い瞳にはストレーリチアしか映っていない。

「お腹が、すいて……。ちあちゃん、お願い。逃げ、て」

 ストレーリチアは先の展開が読めた。しかし体は動かない。日々恐れていた食人病の魔の手が現れた衝撃と、友が病に感染したというショックと、その友が自身を食料として見ているという恐怖と、絶望。

「嫌っ、そんなの、いや──」

 ストレーリチアのか細い声。世界に届けと、半ば救いを求めるように絞りだされたその声は、誰にも聞こえない。
 友が地を蹴る。ストレーリチアは、その首を友に噛まれた。

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193 :ベリー
2023/12/05(火) 22:54:58

 ◇◇◇


「三年前のあの時、私すごく怖くて、ショックで。絶望していましたの」

 窓から差し込む陽の光をカーテンが遮る。薄暗い部屋の中で、ストレーリチアはぽつぽつと語る。

「そのとき助けてくれたのが、あなた。私の英雄様、ルレザン」

 自身の名を呼ばれ、ルレザンは手を止める。しかしストレーリチアが「やめないでくださいまし」と頬を膨らましたため、ルレザンは手を動かす。
 まるで蚕の糸のように細いその“白髪”を、ルレザンはクシで梳く。

「英雄、か。孤児院の中に侵入したゾンビに気付けず、結果誰も救えなかった僕が、英雄なんて……」

「自分を卑下しないでくださいまし! 結果的に私が救われたでしょう!」

 ルレザンは眉を下げて悲しそうに笑う。その表情は椅子に座るストレーリチアには見えない。しかし、ストレーリチアはルレザンがどんな顔をしているかなんて手に取るようにわかっていた。

「僕は、君を救えたことになるのかな。食人病の魔の手から救えなかったのに」

 まだへりくだるルレザンにストレーリチアは振り向く。八の字を逆にした眉に、真っ赤な瞳を爛々ともやしルレザンを映す。
 そう。あの時ストレーリチアはゾンビと化した友に噛まれた。そして食人病におかされてしまったのだ。しかし運良く食人病に適応し、体の色が抜けただけで、人を喰らいたくなる欲望をもつことなく済んだ。更に、ストレーリチアは食人病におかされたゾンビを操る力も手にした。しかしこちらはあまり使うことがない。

「何を言っているんですの! ルレザンがいなかったらきっと、私はずっと一人でしたわ。適応したといえど食人病に感染した私を仲間に入れてくれるコミュニティなんてないですもの。ルレザンのお陰で、私は幸せに今を生きていられる。ルレザンは私の光。英雄なのです!!」

「わかったわかった。君の気持ちは十分に分かったから前向いて。髪が編めない」

 ルレザンは額に手を当て、照れを隠す。ストレーリチアは「わかったならいいのです」と満足気に前を向いた。

「いい加減、自分で編めるようになれよ」

「うふふ、三年前も同じことを言われましたわ」

「三年前どころか、孤児院にいたときからずっと言ってるよ」

 孤児院の者全員が死亡してから。唯一生き残ったストレーリチアはルレザンの家に引き取られた。それからは、ストレーリチアとルレザン二人で暮らしている。

「それにしても、何故目隠しをしているのに髪を編めるのです? 私、いっつも気になって仕方がないのです」

 ルレザンは黒い目隠しをしている。それなのに丁寧にストレーリチアの髪を編めている。それがストレーリチアは不思議でたまらなかった。
 ルレザンが目隠しを始めたのはつい最近だ。なんでも、自警団での任務中に目を切ってしまったのだとか。

「外から中は見えないけど中から外は見える目隠しなのさ」

「あら不思議。それよりお目目は大丈夫ですの? 切っているなら目は見えないのでは──」

「みえるものはみえるんだ。それよりチア、動かないでくれるかい? 綺麗に編めない」

 有無を言わせぬ物言いにストレーリチアは黙ることしかできなかった。
 ルレザンの大きな手が大切なものを触るように繊細に、ストレーリチアの髪を編む。この時間が、ストレーリチアはずっと昔から好きだった。なんてったってルレザンが自分を見てくれているのだから。大切にされていることが伝わり、ルレザンの体温がストレーリチアの中に溶ける。いつもルレザンに三つ編みを頼むのは、ストレーリチアがこの幸せな時間を味わいたいからなのかもしれない。
 はい、終わり。極楽な時間の終了の合図。それさえもストレーリチアは好きであった。

「ありがとう、ルレザン」

「どういたしまして。さ、僕は仕事に行ってくるよ」

 ルレザンは壁にかけてあるライフルを手に取る。慣れた手つきでクルクルっと回しカッコつけた後(のち)、玄関の方へ向かう。

「行ってらっしゃい、ルレザン」

 編み終わった二つの三つ編みをゆらし、ストレーリチアは彼の背中へ手を振る。バタン。玄関の扉が閉まる音がして、ストレーリチアは立ち上がった。
 ルレザンの私室。そこには食人病やその病におかされた生物についての本が置いてある。ストレーリチアは迷いなく一つの本を手に取り、パラパラと黄ばんだ紙をめくる。

「食人病におかされると色が抜け、日に弱くなる。その代わりか、五感が異常なまでに発達する」

 赤瞳に映る文章をストレーリチアは音読してみる。そしてパサ、と本を放り、ルレザンの椅子に座る。

「私の英雄。みんなのヒーロー、ルレザン。こんな日がずっと、続けばよかったのに」

 机に突っ伏したストレーリチアの言葉は、小鳥のさえずりによってかき消されてしまった。

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194 :ベリー
2023/12/05(火) 22:55:43

 自分たちをガラスドームに軟禁した国がいうには、病が収まるまでこの状態を解くつもりはないと。病なんて収まるはずがない。特効薬を作る財力もウィルスを研究する人手もないのだから。実質、軟禁はとくつもりは無いと、ルレザンは国に言われたのだ。
 彼らに待つ終わりは、病に犯されゾンビとなるか、ゾンビに食われ死ぬか、餓死するかだ。生き残ったって絶望しかまっていない。

「クソッ、クソッ、クソクソクソッ!!」

 ルレザンの私室。彼は床に這いつくばり、何度も床を叩いた。
 この世界は地獄そのものだ。自警団という仕事柄、この切羽詰まった世界で人間の汚い部分を何度も見てきた。こんなこととなるならこの世に産まれてきたくなかった。
 神に何故、我々に命を吹き込んだか問えば、命を宿してみたんだと言うだろう。粗末なものだ。

「あぁああぁ──」

 ルレザンの口から、ボトボトと唾液がたれる。
 しかしこの地獄にも、救いはあった。ストレーリチアである。彼女は昔から、太陽のように笑う。どこまでも純粋で自分を英雄と呼んでくれるストレーリチアを、ルレザンは愛おしく思う。思うからこそ、
(その澄みきった瞳で、僕を見ないでくれ──)
 仕事柄人も、ゾンビも屠ってきたルレザンは苦しむ。
 今のこの感情をなんというのだろう。この痛みはなんと形容するのだろう。ああ、苦しい。胸も、頭も、腹も。肉が引きちぎられるように痛い。ああ、

「お腹が、すいた」

 出しては行けない言葉。そうずっと押さえ込んでいたつもりの欲求が口をついてでた。ルレザンは慌てて自身の口に手をあてる。
 食べたい。食べたい。食べてしまいたい。ストレーリチアのあの白皙の肌と、柔らかい唇を、引きちぎって咀嚼して嚥下して光悦としたい。
(いや、そんなことは許さない! この僕自身が、許さない!)
 緩やかに、彼女を血でどろどろにとかして、それをゴックンと。喉奥に流し込みたい。ルレザンは懇願する。
(お前は誰だ! こんなこと考えるなんて、僕じゃない! ストレーリチアは大切な僕の希望なんだ!)
 生きるためなんだ仕方ないよな。
 ストレーリチアの、味付けはどんな夢がいいかな。

「あああぁぁああぁっー!!!」

 全てをかき消すようにルレザンは叫ぶ。思考も欲も頭の声も、全て聞こえないように耳を塞ぐため。喉が枯れるほどに絶叫する。

「僕は誰だ! お前は誰だ!!」

 化け物がとり憑いた指先でルレザンは髪を掻きむしる。

「ルレザン! どうしましたのっ!」

 小鳥のような鳴き声が外からする。
 ああ、君のか細い声が胃袋を刺激してたまらない。

「来るなっ。ストレーリチア、来ないで、くれ……」

 貴方のその瞳に愚かな自分を映したくない。
 ルレザンは覚めない夢のような感情が泥まみれに落っこちて、感じたこともないこの惨状が現実だと知る。

「ルレザン!」

 ストレーリチアは小走りで自室をでる。そして隣の部屋である、ルレザンの私室を開けた。

「──るれ、ざん?」

 ストレーリチアに一番に飛び込んできたのは這い蹲るルレザン。口から唾液を落とし、カーペットにそれが広がっている。頭を掻きむしるルレザンは、目隠しをしていなかった。

「──ルレザン」

 全てを悟ったように、ため息を吐くようにストレーリチアは呼ぶ。
 ストレーリチアを映すルレザンの瞳は色が抜け、血の色に真っ赤に染まっていた。

「任務で目を切ったというのは、嘘だったのですね。病に犯されたことを、隠すための」

 ストレーリチアは落ち着いて言葉を落とした。鉛のように重いそれはルレザンに激突し、ルレザンはうなだれる。

「ちが、うんだ、チア。僕はチアとの生活を壊し、たくなくて──ごめん」

 ルレザンは声を潰し懺悔する。ボタボタと垂れる透明な粘液は、もはや涙か唾液が判断がつかない。

「私も、謝らなければならないことがありますの」

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195 :ベリー
2023/12/05(火) 22:56:00

 ストレーリチアはルレザンの元へ歩む。床に広がった唾液がストレーリチアの靴下にじわりと染みた。

「あなたが食人病にかかっていたことは、知っていましたの。私も食人病にかかっていますから、わかって、しまいましたの──」

 ルレザンの瞳が見開かられる。彼の赤瞳に映るストレーリチアは、口を結んで罰の悪い顔をしていた。

「私も貴方と同じ。この日常を壊したくなくて黙っていましたわ。ごめん、なさい」

「いいんだ。もういいんだチア。ありがとう。お陰で、僕は今日まで君との時間に浸れた。幸せだった。だから、逃げてくれ。もう限界なんだ……」

 ルレザンはやにわにストレーリチアを突き飛ばす。きゃ、と軽い悲鳴がしてルレザンに罪悪感がへばりついた。

「君を食べたくて、仕方がない。逃げて、くれ」

 食べる。それは殺すと同義。殺害予告をされたストレーリチアだったが、彼女の表情はこの部屋に来た時から変わっていなかった。ルレザンという、自身の英雄の弱みを見据える澄ました顔だ。そこに恐怖も緊張も介在しない。ストレーリチアは立ち上がり、軽く寝巻きを払う。

「私が逃げて、その後貴方はどうするのです?」

 ルレザンは何も言わない。ストレーリチアの質問に頭を回すほどの余裕もないのだから。だから、懇願する。切なに声を絞り出す。

「逃げて、くれ──」

 ストレーリチアは滑るように膝をついてルレザンの肩を掴む。怒りが入り込んでいるのだろうか。ストレーリチアの力は強かった。

「私が逃げたその後、貴方はどうするのです! ゾンビとなって人を食べるのですか!」

「あ、ぅ──」

 ルレザンは俯く。図星だったのだ。無性に乾く喉を満たし人の肉を食いちぎりたい、空腹の欲。それは津波のようにルレザンの理性を流してしまう。
 彼にとって今一番重要なのはストレーリチアを食べてしまわないことで、それ以外はどうでもいいのだ。言い換えるなら、二番に重要なのはこの空腹を満たすこと。ルレザンは、それをストレーリチアに見透かされた。

「でもチア、お腹が、すいて。僕は満たされたいんだ。けどチアは食べたくない。殺したくない、失いたくないっ! だからチア、逃げ──」

「──私の英雄様は、間違ったことをしませんの」

 ピシャリと言い放ったストレーリチアにルレザンの言葉はかき消される。この状況で何を言うのだとルレザンは目を見開く。

「私の英雄様は、ヒーローは! 誰彼構わず人を助けてしまうお人好しで、情に弱くて、食人病にかかってしまったこんな私を養ってくれる心優しい人なんですの!」

 ルレザンの赤瞳にうつるストレーリチアは、ぽろぽろと涙を流す。顎を伝って落ちていくそれに、更にルレザンは唾液を落としてしまう。その気持ちのすれ違いを空目するようにストレーリチアは大声を上げた。

「人を食べるなんて私が、私の英雄様が、貴方自身が、許さないでしょう!!」

「はは、チア。なら、僕に死ねというのか? 僕は、嫌だよ」

 実際のところルレザンは、ストレーリチアが思うほど完璧な人間ではない。人相応に汚い欲も考えもあった。英雄などとは程遠い。彼は一般民衆である。死にたくないのは当たり前だ。しかしそれはストレーリチアが認めない。

「私の英雄様はそんな事言わない。真っ先に自分を殺せと、そういうのです」

「英雄様、ね。そうか、君の中で僕は、まだ英雄でいられるのか」

 ルレザンは瞑目し、また開いてストレーリチアを見上げる。
 ストレーリチアが思い描く英雄とルレザンは程遠いものだ。しかし、ルレザンが思い描く“救い”であるストレーリチアは偶像などではない。純粋で、自分をヒーローと慕う愛らしい娘。
(僕は、永遠にチアの英雄でいたい)
 親にも愛されなかったルレザンは、ストレーリチアの愛だけは、失いたくなかった。

「チア、僕を殺せ」

 38口径の拳銃を床にストレーリチアへ向けてスライドさせる。

「あなたなら、そう言う、はずですわ」

 ストレーリチアは拳銃を手に持つ。その腕は震えている。自身の英雄を永遠のものとするために、英雄という偶像を壊さないために、ストレーリチアはルレザンを殺さなければならない。
 自身のエゴのために、大切な人を殺さなければならない。
 しかしそれでいいのだ。ルレザンがストレーリチアのヒーローであり続けるには、彼を殺す他に方法はない。

「さようなら、私の、英雄様」

 パァン。
 月の雫が、落ちる音がした。





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196 :ベリー
2023/12/05(火) 22:56:25

 「あら?」

 唾液と涙と、それと血液で汚れたカーペットを片付けているストレーリチア。そのカーペットをめくると、変なものを見つけた。

「なにかしらこれ」

 どうやら地下の入口らしい。
(家に地下があるだなんて、三年住んでいるのに知りませんでしたわ)
 ストレーリチアはその地下へ足を進めた。コツコツと無機質な音が響く。階段を降りきってあったのは鉄扉だ。ストレーリチアはその扉をゆっくりと開ける。ギギギ、と鉄が擦り合う音。それと共にむわりと、鉄の匂いが広がった。

「──」

 ストレーリチアは絶句する。目の前に広がるのは有象無象の骨々だった。動物の骨だろうか。いや頭蓋骨がある。間違いなく人間の骨だ。

「なんで、こんな──」

 ストレーリチアは鼻を塞いで涙目ながらに進む。やってきた扉から反対の方にも、もう一つ扉がついていた。そこを開けると上へ続く階段があり、庭に繋がった。

「──」

 ストレーリチアの頭の中で全てが繋がる。ルレザンは人を食べていたのだ。それもそうだろう。ルレザンが目隠しをし始めたのは最近、といっても二ヶ月前だ。二ヶ月間、何も食べずに生きていられるわけがない。理性を保っていられるわけがない。
 ルレザンはストレーリチアに黙って、人を食べていたのだ。

「そんな、そん、な。嘘よ嘘よ嘘嘘っ!!」

 ストレーリチアの中で崩れゆく、ルレザンの英雄像。今まで心の支えにしていたヒーローがボロボロと消えてゆく。

「嘘、ルレザンは間違ってなんかッ。でも人を食べてしまって、ヒーローが。英雄様がっ!!」

 人を食べ、しかもそれを隠していた。ストレーリチアの英雄がしてはならないことだ。なぜなら、英雄は間違ったことをしないのだから。
(間違ったこと? そうよ、人を食べることが間違ったことの、はずがない)
 ストレーリチアはゆるりと立ち上がり、空に浮かぶ月を見上げる。

「そうよ。そうよそうよそうよっ!!」

 まるで母を見つけた赤子のように、掴み取った答えへの喜びを反芻する。ストレーリチアは何回も何回も喜びを噛み締め、空へ向かって正解を叫ぶ。

「人を食べることが間違いなんていう、世界が間違っているんだわ!」

 すぐさまストレーリチアは走る。ヨダレと血で滲んだ靴下が土に汚れる。そのまま廊下を歩き、私室の戸を勢いよく開けた。

「英雄様っ!」

 そこには、ストレーリチアのベットに横になるルレザン──の死体があった。

「ねぇねぇルレザン。英雄様っ」

 まるで意中の相手の部屋に招待されたかのように、ルンルンとストレーリチアはルレザンの元へステップする。とろりととろけたその赤瞳をなぞるまつ毛は、白く星のように輝いている。

「貴方は永遠に私の英雄様なの。でもきっと、皆は貴方を英雄と認めない。人を食べちゃったんですもん。でもね──」

 ストレーリチアはゆるりとルレザンにまたがる。その艶めいた桃色の唇を、ルレザンの首筋に重ねる。

「世界を変えてしまえば、どうってことないんですの。私は、貴方を永遠の英雄にしてみせますわ──」

 がぶり。ストレーリチアはルレザンの首筋を噛み、それを引きちぎる。ゆっくりそれを口の中で溶かし、ごくり。嚥下する。

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197 :ベリー
2023/12/05(火) 22:57:25

「ねぇねぇ聞いた? お金持ちさんが鍋を振舞ってくれるって!」

「聞いた聞いた! しかもタダなんだって! いこういこう!」

 とある村。二人の少女と少年が満面の笑みで走りゆく。食糧難のこの世界でタダ飯にありつけるのはありがたいことだった。

「ありがとう!」

 二人はくだんの場所へたどり着き、鍋をよそって貰う。よそってくれた相手は深く外套を被っていて顔が見えないが、それでも二人は精一杯感謝を述べた。後ろを見ると、噂を聞き付けた人々が長い列を作っている。少女達はすぐさまそこを離れ、器に入った鍋を食べる。

「おいしい、けど変な味がするね」

「そう? 確かに、このお肉食べたことがない、味が──」

 カラン。片方の少女がおわんを落とす。どうしたの?! と、少年が少女のかたをゆする。少女は震えていて様子がおかしい。

「どうし──」

 ──たの? そう少年が言いかけた時。

「お腹、が、すいた。」

 少女が少年に襲いかかる。ここだけでなく、鍋を食した村人皆がゾンビと化し、人間のままである村人に襲いかかっていた。

「うふ、うふふ、あははは!」

 鍋の前に立っていた人物──ストレーリチアは外套で顔を隠すのをやめ、両手を広げ天を仰ぐ。
 この鍋にはゾンビの肉が入っていた。食人病に感染した肉を食べればその人も感染する。それだけでは無い。共食いもはたすこととなり、鍋を食べた者もゾンビ化し食人するようになる。
 みんなみんな同族を貪る。求める。
 この世界の人々がカニバリズムを行い、ゾンビと化したとき。食人が罪という概念が消えたそのときこそが、ストレーリチアが求めるもの。
 ルレザンが、紛うことなき英雄になるときだ。

「まっててくださいまし、私の英雄様──」

 ストレーリチアはゴクリと、緩やかにとける世界を嚥下した。


────
文芸鯖の企画で書いたものです。折角なのでゲラフィでもあげました。
>>191-197 『緩やかに、世界をとかして嚥下する』でした。

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198 :げらっち
2023/12/06(水) 17:28:49

面白いが、やっぱりベリーは長編向きだと思ったw
7レスでは回収しきれていないバックグラウンドが滲み出ているw

白皙好きすぎだなっ!

いきなり「38口径」が出てきたのは若干違和感。そこも、戦いのシーンが描けていない尺の都合とは思うけど。
途中に出てくるライフルを38口径に差し替えれば、フラグにもなるし良かったかもしれない。

「ストレーリチアは食人病におかされたゾンビを操る力も手にした」が、作中ではあまりにも死に設定だったので、短編においてはこの設定は省略しても良かった気がする。

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199 :げらっち
2023/12/06(水) 17:33:04

追伸・ベリーは食人が好きなのか?俺為にもあったし(こちらは拷問だが)

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200 :ベリー
2023/12/07(木) 21:33:55

実際の曲を元に作るという短編で、歌詞に「38口径の拳銃」があるのです。ゾンビ操り設定はー! 
チアちゃんがゾンビを操ってガラスをバリバリに壊して、骨組みだけ残ったガラスドームをみて「鳥かごみたいね」って下りをやりたかったんです! けど! この短編一万文字以内におさめないといけなくてぇー! 伏線回収できなかったんですー! うわーん! 回収できないならこの伏線いりませんね。消しとこっと。
 
>>199
ちがうもん! 好きじゃないよ! けど私の創作って軽率にカニバりますよね。わかる。

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201 :げらっち
2023/12/07(木) 22:49:55

あ、歌詞だったのねん。
ほら、やっぱり短編じゃ収まりきってない…

ベリーは「コメディ・ライト短編」を1本でもいいから書きなさーい!
それだけでかなり幅が広がる

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202 :ベリー
2023/12/09(土) 22:17:37

コメディ・ライト、書き方が分からないよ!! 俺為を舞台にしたら幾分か書きやすくなるかな……。ええい! そういうなら、お手本で俺為世界を舞台にげらっちさんがコメディ・ライトを書いてくださいよ!!!!(((
コメディ・ライトね……コメディ・ライトかぁ。何を書けばいいんだろう……分からない……。

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203 :ベリー
2023/12/11(月) 22:13:42

『白鳥の王子様』

 ふと、考えることがあるの。私だけの王子様がやってきて、この酷いお家から私をさらってくれないかしら、って。そんなことありえるはずがない。わかっているわ。
 朝は日のでる前に起きて水をはこび、火をもやし、煮にものをし、せんたくをする。それだけでも大変なのに、私のお姉様二人はもっと意地悪をする。
 私の母の形見である首飾りを奪ったり、豆を灰の中にぶちまけて拾わせようとしたり。
 しまいには、私にかまどの中へ寝ろっていうの。灰だらけのあんな場所で寝るなんて、もちろん嫌だと拒否したわ。けれど継母までもがかまどで寝ろと言いだしたの。これ以上反発したら何をされるか分からない。しかたなく、かまどの中で灰かぶりになって寝ているの。
 そしたらお姉様たち、私を「シンデレラ」っていって面白おかしく笑うんですの。私のエラって名前と、灰って意味を混ぜて作った言葉なんですって。それほど私は汚ならしいみたい。灰かぶりにしたのはお姉様たちなのに……。
 そうだわ。明日、お姉様たちは義理のお母さまと一緒に、舞踏会へいくといっていたわ。明日までにドレスのサイズを調整しろって無茶振りもいわれた。早く仕立てあげないと、また機嫌を悪くさせてしまうわ。

 ◇

 次の日の夜、お姉様たちはドレスや宝石を身にまとって舞踏会へ行きましたわ。ああ、舞踏会。なんでも王子の婚約相手を探す会なんですって。私も行きたいわ。けれどそれはお姉様たちが許さない。家にいろってキツくいわれたわ。お姉様たちに内緒で舞踏会へ行こうにも、舞踏会へいけるようなドレスはもっていない。
 ああ、素敵な王子様。どんな方かしら。こんな家からつれだしてくれないかしら。そんな甘い希望の未来。今の窮屈な木の靴じゃなくて、金の靴で、王子様と踊るのよ。

「それはいい。君も舞踏会へいったらどうかね」

 あら、声がする。ここには私以外いないはずなのに不思議だわ。どこから声がしたのかしら。あら、窓の外に鳥さんがいるわ。しかも真っ白。白い鳥さん。珍しいから、ちょっと窓を開けてみましょう。

「開けてくれてありがとう、エラさん」

「あら、私の名前を知っているの? 不思議な鳥さん」

「もっと不思議がるところがあると思うけどね。僕は魔法の鳥なんだ。苦しむ君を見かねてやってきた」

「あら、それは親切に。ありがとうございますわ」

「それだけじゃない。君の願いも叶えてやろうと思ってね」

「願い? 叶えてくれるって、そんな……」

 なんだか現実じゃないみたいだわ。この鳥さん、私の名前を知っているし、喋るし、私の苦しみも知っているし、不思議で仕方がない。私は夢でもみているのかしら?

「夢じゃない。現実だよ」

 あららこの白い鳥さん、心まで読めるみたいだわ。ほんとうに魔法の鳥さんなのね。

「そうだよ。君は本当に純粋な子だね。さて、ほら願いを言ってごらん。僕が叶えてあげる」

 そんな急に言われても、願いなんて思いつかないわ。

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204 :ベリー
2023/12/11(月) 22:15:40

「そうだ、今日は舞踏会があるんじゃないかい? 連れて行ってあげようか?」

 まあ、それは素敵な提案。でもお断りさせていただきますわ。

「それまた何故だい?」

 舞踏会にいったって、王子様の婚約相手に選ばれない限り、私の生活が変わることはないじゃない。私が王子様に選ばれるはずがない。一夜の夢を見たって、次の日から私は「灰かぶり」。シンデレラのままですもの。

「そうかなぁ。行動の前に諦めるなんて、勿体ない気がしない?」

「いいえ。しませんわ」

「そうかぁ。君がそういうなら、別の願いを考えよう」

 願い。どうしようかしら。この家からでたい。誰かに愛されたい。誰かに、私を見てほしいわ。そうだ。

「白い鳥さん、私をここから連れ出して?」

「僕が君を? それはどういう意味だい?」

「そのままよ。白い鳥さん。いいえ、王子様。私をここから連れだして? 私、あなたのことが好きになってしまったの」

「それまた唐突だね。この短時間で、君が僕を好きになる要素がどこにある?」

「だってあなたさっき、『苦しむ君を見かねてやってきた』って言ってたじゃない。誰も私のことなんかみていなかった。けれどあなただけは、私の日々の苦しみを知ってくれている。見ていてくれていた。私は、私を見てくれたあなたが好きですわ」

 白い鳥さんは自分の羽を口にあて、まるで人間みたいに驚いたポーズをとりましたわ。頬も少し紅潮して、こっちまで顔が熱くなりそう。

「こんな僕で、よければ。君をここから連れだそう。森の奥の、僕のお家へ来てくれるかい?」

「ええ、喜んで!」

 すると私の体を光が包んだ。気づけば私は金の靴に青いドレスを纏っていましたの。まあ不思議。これが魔法ね。
 顔を上げてみると、白い鳥さんは白い衣装をまとった王子様になっていました。

「じゃあ、シンデレラ。いこうか」

 白い鳥さん──いえ、王子様が手を差し伸べてくれる。私はその手をつかもうとして、そうだと思いつきましたの。この金の靴を片方でも、この家に置いていきましょう。

「どうして靴を置いていくんだい?」

「私が、ここにいた証を残したいの。さあ、いきましょう王子様」

 ちゅ、と王子様の頬に軽いキッス。すると王子様は照れて目を背けた。お可愛いことっ。王子様は私を連れて窓枠からジャンプ。ここは二階だけど、落ちることはなかったわ。魔法の力で浮いていますもの。私と王子様は、鳥のようにあの森の方へ、飛んでいきましたわ。
 ああ、私今、最高に幸せだわ。ありがとう王子様。さようなら、意地悪なお姉様たち。

 ◇

 後日、エラが去ったことで家事が回らなくなり、困った継母たちが置いてあった金の靴を頼りに、エラを探しに行くのは、また別のお話。


──

オラァ、コメディ・ライトじゃああ! これコメディか……? 小説サイトの新釈グリム童話企画で書いたものです。私にしては珍しく綺麗なハッピーエンドになったので投稿。
本当は、シンデレラに『お姉様方に復讐したい××(滅茶苦茶酷いこと)をお姉様たちにさせてあげて。アハハハ!』的なのを書こうとしたのですが、なんかキャラが暴れちゃって私をハッピーエンドに導いてくれました。いい意味でキャラが暴れた短編でした。
『白鳥の王子様』>>203-204

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205 :げらっち
2023/12/15(金) 11:07:25

コメディかはわからんが、雑さで笑えたぞい

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206 :げらっち
2024/01/12(金) 20:30:28

SSS 天堂任三郎正義の1日


 彼の名は天堂任三郎。日本を守る護国戦隊、日の丸戦隊ニッポンジャーのニッポンレッド、日の丸を背負う男である。

 2025年、或る夕方、ニッポンジャーの詰め所に1本の電話が入った。それは民間人からの通報だった。
 任三郎の部下であるカプ子はその内容を親玉に伝えた。
「任三郎さん! すぐ近くの住宅街で火災です!! 出動しましょう!」
「なに、それは大変だ!! 歯磨きが終わったらすぐ出動する!」
 任三郎は歯を磨いていた。
「その間に助かる命も助からなくなりますよー!! 一刻も早く出動しましょう!」
「ダメだ! 正義のヒーローたるもの、きちんと歯を磨かなくちゃいかん!! 口内環境も守れない俗物に日本の平和が守れてたまるか!」
 任三郎はカプ子にコップを投げつけた。

 任三郎は10分かけて入念に歯を磨くと、コスチュームに着替え始めた。

 任三郎は日本国旗をマント代わりに羽織った。すると、国旗がほつれているのが目に入ったのか、彼は言った。
「代わりを持ってこい!」
「任三郎さん! マントなんて引っかかったり現場では邪魔なだけですよー!!」
「この非国民!! 私は日の丸を背負って戦っているのだ!! こんなだらしない日本国旗でいいわけが無いだろッ! 今すぐ代わりを持ってこい! 1分1秒を争う世界だ、もたつくな!!」
 カプ子は急いで新品の日本国旗を用意した。
 任三郎はそれを羽織り、トイレを済ませると、ようやく出動した。

 他の隊員は訓練に励んでいたり社内研修を受けていたり非番だったりしたので任三郎とカプ子のみの出撃になった。

 住宅街の一角から炎が上がっており、多数の野次馬がそれを取り囲んでいる。
「何人か逃げ遅れてるみたいだぞ……」
「あ! ニッポンジャーのお出ましだ!! もう大丈夫だぞ!」
 任三郎は人垣を押し除け、炎光を見た。
 既に3軒もの住宅に延焼していた。まるで巨大なガスコンロを見ているかのようだった。家屋が焼かれているのだ。その中から、助けを乞う、臨死の声が聞こえる。
「くっ……もう少し来るのが早ければな」
 そう言う任三郎に対し、カプ子はあんたが歯磨きをしたりマントに拘るせいだろと言いかけたが、処罰を恐れ心の中でつぶやくだけにとどめた。
「まあいい。ここは正義のヒーローとして当然の事をするまでだ!」
 任三郎は腕時計のダイヤルを回す。途端に彼の体は赤いスーツで包まれる。

「大和魂、スタンダップ! 日の丸戦隊ニッポンジャー! ニッポンレッド!!」

 野次馬から歓声が湧く。
 すると任三郎は、火災現場の観察を始めた。燃える建物の中からは悲鳴。一向に救出に行く姿勢は見られないので、カプ子は叫んだ。
「何してるんですかー!!」
「何って見りゃわかるだろー!!!」
 任三郎は逆に怒鳴った。
「今後火災が起きた時どのように救出するのかを考えるために火災についての分析をしているのだ!! 私は大和の国を背負っている。正義のヒーローならこのくらい当たり前だろー!!」

 カプ子はブチ切れた。

「正義のヒーローなら目の前の人を助けろボケがー!!!!」

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207 :げらっち
2024/01/12(金) 20:42:43

 カプ子はニッポンイエローに変身し、火災現場から4人を救出した。皆重症だった。

 任三郎は記者の取材を受けていた。
「なに、正義のヒーローとして当然の事をしたまでです」

 カプ子は任三郎の歯をへし折ってやろうか迷ったが、減給を恐れ踏みとどまった。月20万を下回ると大好きな怪獣映画のフィギュア収集ができなくなってしまう。
 レスキューファイブが火を消した後、カプ子は単身火災現場を調べ、これが放火魔の仕業であると看破した。

「任三郎さん、これ放火ですよー! 天井に穴が開いてました! 相当の放火好きの犯行と見られます! パトロールを強化しましょう! 今からでもパトロールしますよー!!」
 だがもう深夜だった。
「呆れかえるほどの、抜け作めッ!! 正義のヒーローならば早寝早起きは不文律、夜道を出歩くなど以ての外だ!! 早く帰って寝なくっちゃ! 寒いし風邪をひいてしまう!!」
 任三郎は家に帰ろうとしたが、カプ子は止めた。
「私は寒くてもパトロールしますよ!! 自分と日本の平和、どっちが大事なんですかー!!?」

 任三郎は胸を張って答えた。

「私が風邪を引いちゃったら日本全体の危機だ!!!」

 任三郎は帰ってしまった。


 カプ子はニッポンジャーを退職し、民間戦隊に加入することにした。


おわり

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199 :げらっち
2023/12/06(水) 17:33:04

追伸・ベリーは食人が好きなのか?俺為にもあったし(こちらは拷問だが)

17 :ラピスラズリ
2022/06/30(木) 19:15:53

「小指」「贈り物」「止まる」より
☆.。.:*・°☆.。.:*

 あいしてる、なんて言葉だけでは不安だったのです。
 わたくしのあまりにも低い自己肯定感が邪魔をするのですから。今のように楽しく談笑していたって、貴方の心がわたくしではない他の何者かに向けられているのではないか、と怖くなります。
 だから、いっそのこと、と。別れ話を切り出したのでした。
 貴方の表情は固まり、時間が止まるようにも錯覚しましたが、わたくしが次の言葉を紡ぎます。

「愛を証明してください」

 わたくしの故郷には、古い習わしがあります。真実の愛を誓うとき、想い人にとある贈り物をするのです。
 彼もそれを知っていましたが、きっとそんな古びた文化に従う気はないのでしょう。こんなに怯えた顔をしていますもの。
 つまりは、その程度のことなのでしょう。わたくしはひと粒涙を溢して、部屋を出ていこうとしました。でも、掠れた声に引き止められます。
 彼は微笑んでいました。そうして、台所から持ってきた包丁を右手にしっかりと握っています。笑顔のまま、彼は床に置いた左手に、包丁をゆっくり近づけます。狙ったのは小指でした。
 古い習わしとは、真実の愛を証明するとき、想い人に体の一部を差し出すというものでした。

 ああ、わたくし達の愛は本物のようです。

22 :黒帽子
2022/07/01(金) 00:00:53

超掌編
「忍者・雲隠十三 盆邪城の巻物」

江戸内海に突如流れ着いた巨大な城があった。その名は盆邪城。
異国のにおいが立ち込める盆邪城、その中には膨大な秘宝が数多く眠っているようだった。
幕府はこの城を怪しく思い、兵を出しては追い払おうとしたのだが、城の守りは堅い。よほど秘密にしたいものが保管されているのだろう。
ここで最終兵器ともいうべき忍者、雲隠十三を呼び、盆邪城への潜入任務を言い渡した。
十三は生きて帰れる保証のない魔城へと足を踏み入れたのであった。

「これが盆邪城、それにしてもけったいな見た目だな。城も門番も。」
門番も某氏を外せば半球上、詰襟の服を着ていた。門番は城に入れる唯一の橋を通せんぼするかのように守っている。堂々と近づくことは死を意味するものである、十三はそう認識し、クナイを門番の首にぶつけた。

「あべし!」といったかどうか定かではないが門番はそのまま海へと落ちていった。
次の門番が出る前に十三は橋を渡り、盆邪城の中へと入っていった。
次から次へと怪しそうな集団が現れる。面と向かって戦いが長引くと確実に殺されるため、十三は的確に急所を狙う作戦を実行した。一瞬にして積み重なる兵の山。十三は大急ぎで城の上部を目指した。

城の最上階にて主が待ち構えていた。主は鎖で繋がって二本の鉄の棒を規制を上げながら振り回している。
「アチョオオオオオオ!」
迷わず忍者刀で応戦する十三、つばぜり合いがしばらく続いたが壁に追い詰められ、城主が優勢となってしまった。
十三は迷わず股の下を潜り抜けるよう滑り、背後からぶすりと一撃をくらわした。

「そ、そこの巻物だけはくれてやる。これで勝ったと思うなよ」
城主はこう言い残し、息絶えた。

十三は大凧で城を脱出し、江戸城に巻物を献上した。しかしそれは白紙であった。
これは現代でいうトイレットペーパーのようなものであったからだ。

十三は試合に勝ったが勝負に負けてしまったのであった。

35 :露空
2022/08/04(木) 20:29:43

一話

どうしてこんな事になったんだ―——絶対死なせない。私が必ず守ってやるのだ。
大怪我を負ったふろ禰をおぶって、雪の降る道無き道を駆けていた。

炭を背負い子に入れ、町に売りに行く用意をしている時。
「炭げらっち、顔が真っ黒ですよ。拭きますからこっちへ」
その優しい声に甘え、雪華のもとに寄った。
「雪が降って危ないですから行かなくてもいいんですよ?」
「大丈夫だ。正月になったら皆にたくさん食べさせてやりたいのだ」
ありがとう、と言われると、家の裏から弟妹達がやってきた。
「炭げらっち兄ちゃん、町に行くの?」
「私も行きたい!」
「だめよ、あなた達は炭げらっちみたいに速く歩けないでしょう?それに、今日は荷車を引いていかないから乗せてもらって休んだりできないんです」
たしなめても駄々をこねる弟達と見送ってくれる雪華に行ってきますと告げ、町に歩きだしていった。
「お兄ちゃん!」
家から少し離れたところをふろ禰がゆっくり歩いていた。六太を寝かしつけてたんだ、と静かに言う。
「お父さんが死んじゃって寂しいんだと思う。だから甘えん坊なのかな」
行ってらっしゃいと見送られ、手を振る。
生活は楽じゃないが、幸せだ。
でも。
幸せが壊れる時はいつも、血の匂いがする。

炭も全部売れ、頼まれた手伝いも終わらせて帰路に着くと、三檸檬に呼び止められた。
「今から帰るの?泊めるからやめなよ」
「私は鼻が効くから大丈夫なのだ」
「いいからこっち来て。鬼、出るよ」
根負けして三檸檬宅の中に入ると、かなり柑橘類の匂いがした。出された料理も檸檬という柑橘が使われたハイカラなものだった。「明日早起きして帰ればいい」と敷いてくれた布団もやはり柑橘の匂いがした。
寝る前に話をした。
「鬼は何をするのだ?」
「人を襲い、喰べる」
「鬼は家の中にまで入ってくるのか?」
「うん」
「皆、鬼に喰われてしまう……」
「そうならないように、『鬼狩り様』が鬼を斬ってくれるんだ」
朝。檸檬屋敷を後にして我が家に向かっていく。雪は今のところ止んでいるが、またすぐに降りそうだ。
幸せが壊れる時は、いつも…………
「っ!血の匂い……!」
慌てて家に近づくと、私は信じられない光景を見た。

66 :すき焼きのタレ
2022/12/10(土) 03:07:20

久しぶりに小説アプリを開いてみたらなんか訳分からんとこで執筆やめてた、プロットも一切ない話の内容一切分からない謎作品があったので深夜テンションで読み切りにしてみました。ドキュメンタリーだと思って読んでください。





 朝目覚めたら家族がパクチーパクチー言うようになっていた。
「ドゥーユーノーパクチー」
 まだ春も来てないけれど、今年の流行語はこれで間違いないだろう。にしても、どこから流行り始めたんだろうか。全く意味が理解出来ないから、とりあえず「早く飯くえよ」ってことなのかな、と思っておく。寝坊したし。
  天気予報もパクチー。お日様活発だし見るからに雨は降らなさそうだ。他には時計がパクチー。LEDパクチー。母さんの靴下の柄がパクチー。あと家の庭もパクチー。
 で、案の定食卓もパクチーだらけ――というわけではなかった。パクチーパクチーうるさすぎて早速耐えられなくなりそうだったけど、食パンが食べられる生活に改めて感謝したい。イチゴジャム最高!



      「はちく」


 
 学校に着くと―知ってたけど―パクチーの話題であちこち盛り上がっていた。というか、パクチー連呼でうるさいだけなんだけど。
 数学教師もパクチーに毒されていた。数式のちょっと空いてるところにパクチーの絵をモリモリ描いている。ヤクチュウの描いた絵くらい下手くそだ。あとルートパクチーって何だよ。
 まあいいや。まともに話聞かなくても、「パクチー」ってノートに書いておけば、とりあえず帰ることはできる気がする。
 帰る前にパクチー買ってくか。肥料は要るんだろうか。
  
「パクチーすき?」
 一人のときに物音がしたときくらいビビった。聞き慣れた言語なのに、一瞬頭をすり抜けてってしまった。今日の地球はドゥユノパクチ、だかを軸にして既に半分くらい回ったんだから仕方ない。
「パクチー……多分、すき」
「どこがスキやねん」
  パクチーの好きなところ……あの……あれあれ……例えばこんな……、ごめん分からない。
 ぶっちゃけた話をすると自分はパクチーにわかだ。
「ワタシは美味しいと思います」
「?……なるほど」
「、……………」
「…………」
 こいつもパクチーにわかかよ。美味しいの一言で会話が途切れてしまった。歩きながらパクチー発してる人に話しかけたほうがまだもう少しキャッチボール出来たと思うよ。
 でも実際はパクチーガチ勢にデッドボールくらわせ乱闘騒ぎだろう……誤った知識でもの好きを名乗ってはいけないと、ほんとに思う。最初に投げたのがパクチー無知勢だったことがせめてもの救いだっただろう。早く気付いてくれ。
 
 そんなこんなで家に帰ってしまった。家族には会いたくなかった。イチゴジャムで片面を固めた食パンが今日はあまり美味しく感じられなかったからだ。無知からするとパクチーは汚いイメージがある。何でかは分からないけど。
 とりあえず家の庭に出て、15円レジ袋いっぱいに摘めてきたパクチーを一つずつ並べ始める。肥料はとりあえず効き目が良さそうな「まぜるな危険」シリーズにしておいた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
 怖っ!!!
 ビックリしてまぜるな危険をぶちまけてしまった。身にかからなくてよかった。
 しかし突撃してきた家族どもはもっと怖かった。
「アアアアアアア!!アアアアアアアア!!」
 瞬間四面楚歌。360°いたるところからタックルされた。運悪く、まぜるな危険プールにパシャパシャしてしまった。これ溶ける?やばくね?
 でもそんなことより家族を慰めることに必死だった。
「ごめん!なんか分からないけど、ほんとごめん!パクチーにわかで、ごめん!」
 すると呪いが解けたかのように家族は皆倒れた。と思いきやすぐに起き上がり、
「今日の料理はパクチーバイキングよ」
 と耳元で囁いてきた。耳は2つしかないのに家族3人分の声がそばで聞こえた謎にもそのときは気付かなかった。
 そんなことより、
「パクチーって、食べられるの?」
 てか、パクチーって、何ぞ?

「ドゥーユーノーパクチー」
 手当たり次第に声をかけてみたが、振り向いてくれる人はおらず。
 ようやく1人振り向いてくれたが、気付けば視界が緑がかった?暗闇になっていた。目瞑ったときにぼんやり見える目蓋みたいな色。
 パクチーを顔に貼り付けられていた。
 もはや怒りの感情は湧かなかった。
 
「パクチー、臭っ」

78 :ラピス
2022/12/15(木) 08:02:33

毒を食らわば冠まで
♱⋰ 🌹⋱✮⋰ 🌹⋱♱⋰ 🌹⋱✮⋰ ♱


「あの女は魔女だ! 妾は嵌められたのだ! あの女は、あの女は……!」

 まるで毒を食んだかのように、白く血色の悪い顔色の女を、皆が更に白い目で見ていた。

「ひどい。御母様、なんてひどいことを」

 取り乱す母親の姿に怯える娘と、彼女を愛する国中の民。白雪姫、可哀想に。ああ、俺達の愛らしい姫君。七人の小人が娘を気遣って優しい声をかけている。その様子を、民達もまた、優しげな目で見遣る。自分に味方が誰一人いないのだと知ると、女は毒に力尽きたかのように崩れ落ちた。

「──言い訳はそれだけか。王妃。いいや……醜い魔女めが」

 誰かが言った。その声に賛同するように、軽蔑と野次と罵声が飛んでくる。それらは狩人の放つ矢の如く、女の精神を突き刺して穴だらけにした。

「嗚呼……クソ! 白雪姫! やはりあのとき、自らの手で殺しておくべきだった!!」

 白い顔のまま、女は金切り声を上げる。その様子を、可哀想な娘は泣き出しそうな目で見つめるばかりだ。

「やっと正体を現したか、醜い魔女」

 民は王妃だった女を処刑した。そうして、空いた王座にちょこんと座るのは、あの可愛らしい姫君であった。

「御母様は、どうして……」

 憂うような瞳の姫を、白い月が照らす。血色を感じさせぬ青白い肌でも、病的には見えず、雪と見紛うほど美しかった。
 彼女は、老婆に化けた王妃から毒林檎を受け取った日のことを思い出す。
 宝石のように紅く艶めく林檎に口づけをして、娘は愛らしい笑みを浮かべた。

「知ってますのよ、御母様。これは毒の果実なのでしょう?」

 目論見を見破られた老婆は、顔を引き攣らせて娘を睨みつける。

「こんなもので、私を殺せると思ったの。可哀想な御母様」

 白雪姫は林檎にもう一度口づけをし、そのまま齧りついた。毒の破片を口に含んだまま、彼女は笑う。

「私は皆に愛されている。あなたよりずっと美しい。あなたのように誰かに嫉妬しない。誰かを害そうなどと考えない。そして、その嫉妬すらも受け入れる」

 ごくん、と嚥下する音。

「完璧でしょう? 理想的でしょう? 魔法の鏡が言う、最高の美しさは、私のもの。御母様。あなた、一生私に勝てませんのよ」

 笑う。白雪姫は鋭利な殺意すらも飲み下して笑う。こんなに愛らしい嘲笑を、今までに見たことがあっただろうか。
 老婆は思わず、毒に倒れる姫の体を支えた。毒林檎如きでは殺せない。そう思って、彼女の首元に掴みかかって、そして。そのきめ細かな肌と、自らの骨ばった手指を見比べて。
 もう二度と、自分は一番になれないのだと悟った。目を瞑った娘が、尚も緩く笑んでいるのを知って、老婆は逃げ出した。
 意識のなかった姫はその情景を知らないはずなのに、まざまざと脳裏に浮かんで見えた。

「御母様はどうして……あんなにも愚かな女だったのでしょうね?」

 月しか見ていない夜。国一番の美女は、そっと微笑んだ。


♱⋰ 🌹⋱✮⋰ 🌹⋱♱⋰ 🌹⋱✮⋰ ♱
使用ワード 嘲笑、言い訳、毒

83 :露空
2022/12/31(土) 22:21:49

儚くそして強かな 言葉を綴る
ただ無垢に 浮かんだままに
そして かけ離れた意味へ  
私が一度忘れてしまえば
直ぐ この世に存在しないものとなるから
浮世の夜明けの如く
貴方に届けることができないから
化けろ 唯一の頂点へ

84 :やっきー
2022/12/31(土) 23:11:36

当たり前に空はある
当たり前に海は繋がっている
当たり前の、青、蒼、碧
近いようで遠いような
そばに在るのが当たり前のような
そうでないような
梅雨になったっていつかは晴れて
氷河だっていつかは溶けて
また、あの青が、その蒼が、この碧が
きっとそばに在るのでしょう
私はどうやら、どのアオも好きらしい

86 :ベリー
2023/01/09(月) 02:25:40

 フィクションの世界は素晴らしい。
 
 皆が成長できる過程があるから。心打たれる場面が沢山あるから。皆が幸せになれる終わりを作ることができるから。

 ご都合主義が起こり得るから。

 現実とフィクションは違う。
 成長できる過程は自分で作らなければならない。心打たれても行動しなければならない。誰かが幸せになると、誰かが必ず不幸になる。

 そんなこと皆知っている。そんなこと僕でも知っている。

 けれど、皆思ってしまうんだ。
 フィクションと同じ事をしたら、その物語と似たような世界になるんじゃないかって。

 誰かが言った。

「今は辛いけど、必ず幸せは来るから!」

 周りに元気を与える系主人公が言いそうな言葉。

 大きさに寄るけれど、辛い出来事が連続で起こるなんて然う然うない。それを気付かせてくれる言葉。
 その”然う然う”は必ず無いと決めつけて、励ましてくれる素敵な言葉。

 誰かが言った。

「価値が無い人間なんて無い! 皆、主人公なんだよ?」

 落ち込んでいるネームドキャラを救おうとする王道主人公が言ってそうな言葉。

 自身の上位互換が溢れるこの世界。差別化が測れるというだけで、劣等でも価値があると教えてくれる言葉。
 本当に主人公じゃない僕を騙して、励まそうとしてくれる、素敵な言葉。

 誰かが言った。

「死ぬなんて言わないで! 貴方が死ぬと沢山の人が悲しむの!」

 絶望の渦中のキャラを止めようとする、真っ直ぐな主人公が言ってくれそうな言葉。

 家族、友人、知り合いの他。死後の処理をする知らない人。死亡の報道を見る知らない人。
 欠片も愛を受けない事が難しい現代。自身の死を悲しんでくれる人は必ず居ると教えてくれる言葉。
 自身の苦しみよりも、周りを優先しろという教え。それを、あくまで相手を気遣っている体で伝えられる、素敵な言葉。

 誰かが言った。

「死んじゃダメっ! 死んで良い人間なんて居ないの!」

 誰かを救うために、真摯に話してくれる光系主人公が言ってくれそうな言葉。

「明日いい事あるかもよ? ちょっと生きてみようよ!」

 本来、自然界に善悪は無い。だから、自身が生きやすくするために人の輪を作り、その中で善悪を決める。
 皆が幸せになるために作られた、悪を教えてくれる言葉。

「だから戻って来て! その場から離れて!」

 個人の苦しみよりも、皆の幸せを優先すべきという合理的な考え。皆生きなければならないという

「──素敵な言葉」


 誰かが言った。

 死ぬのは怖いと。死は恐ろしいと。
 精神が追い込まれた時よりも、何倍も辛いと。

 誰彼が言った。

 それらは綺麗事だと。
 フィクションのような美しい終わりを目指す人が言う、馬鹿げた言葉だと。みんなを救う主人公を目指す、哀れな人が言う言葉だと。

 誰が言った。

 それがいけない言葉だと。

 いくらそれで現実が変わらなかろうと、いくらそれが偽善だろうと、いくらそれに嫌悪を抱こうと。
 綺麗事と同じ内容の言葉を、心の底から吐いた人が必ず居る。

 それは、各々の人生を表した言葉。
 いけない言葉な訳が無い。
 当てはまるかどうかは、人に寄るだけ。
 押し付けるのが、いけないだけ。

 僕が言った。

「死ぬのは、怖い」

 モブが死ぬのを止めるために、脅しと似たニュアンスで主人公が言いそうな言葉。

 そんなこと、死にかけないと分からない。けれど、死にかけた事がある人なんて居ない。
 きっと、死にかけた事がある人が言った言葉。自身と同じ恐怖を味わって欲しくないと思ったであろう、先人の言葉。

 そして。

 それに今更気付いた。

 僕 だ っ た 肉 の 言 葉

◇◇◇

ふと思いついて書いたSS? です……。書けちゃったので、折角だから……。本当にパッと思いついて適当に書いたものなのでタイトルも何も無いんですが……
情景描写とか心理描写とか皆無ですけれど……。
あの、なんか、すみません。他の方と比べクオリティも低く、まともな物を書いていないSSを出してしまって、すみません……。

88 :げらっち
2023/01/14(土) 16:31:27

 俺の名はクリボー。

 種族名であり個体名ではない。俺らに個体名は無い。俺の代わりなどいくらでも居る。踏み潰されようが燃やされようが、土管から無限に湧き出す。その生命力が取り柄。
 かのマリオも気を抜けばクリボーが死因となる。当たって砕けろ、数の暴力が俺らの矜持。

 そんな俺ら、クッパ軍団での待遇は良くない。いや、悪い。
 配置されるとしたら草原や地下。本城は愚か支城にさえ置いて貰えることは無く、クッパ様に謁見する機会も無い。
 同僚や上司からの風当たりも強い。主任カメック様はこう言う。
「生意気なことを言うんじゃないよ、クリボー如きが! お前らは1-1の守衛でもして居な! 支城の敷居を跨ごうなんて烏滸がましいんだよ! 裏切り者の分際で!」

 俺は生まれた時からクッパ様に忠誠を誓い、クッパ様に命を捧げる覚悟をしている。
 では誰が裏切ったか。

 俺たちの「先祖」だ。

 キノコ王国を裏切り、クッパ軍団に寝返ったキノコがあった。
 初代クリボー。驚異の繁殖力で無尽蔵に子孫を残した。その遺児たちが、クッパ軍団でこき使われている。

「カメックのババアデスクワークばかりで現場の苦労を知らねえんだ。あれで俺らの給料の3倍は貰ってるときちゃやってらんねえよな」
 隊長がそう言った。
「はい。でもマリオを殺せば特別賞与があると聞きます。俺たち雑魚にも、夢はあります」
「そうだな」
 隊長はニヤリと笑った。
「だがマリオもいくらでも蘇る。果たしてマリオと俺らクリボー、どちらの方が生命力があるのか」
「新米である俺にはそんなことはわかりません。そもそも、俺らとマリオでは生命のシステムが違っている筈です」

「では時間だ。クリボー軍団、出発!」

 持ち場に向かっていると、空中に固定されたブロックの床の上から俺らを見下し、声を掛ける者があった。

「おい裏切り者の雑魚! 命を捨ててでもマリオの残機をちっとは削っておけよ! 俺らの仕事が楽になるようにな! ヒャッはっは!」
 ハンマーブロスがハンマーを投擲してきた。俺たちはそれをかわす。当たったら簡単に死ぬ。
 こいつらは亀一族の上級兵士なので俺らより余程位が高く、クリボーを殺しても看過される。そりゃ、飛び道具がありゃ出世もするよ……

 道中多くの先輩たちとすれ違う。

 ジュゲム。こいつも亀一族。有給をしょっちゅう使って職場から姿を消す。俺たちには有給なんて使わせてくれないのに……

 テレサ。夜勤専従だし抑々部署が違うのでほとんど顔を合わすことが無いが、会ったらパワハラまがいの嫌がらせをしてくる卑劣な奴。

 ボム兵。物言わぬ特攻隊。
 少し親近感が湧くが、ただの兵器なので、意思疎通は図れない。

 ヘイホー。元はクッパ様ではなくマムーという異世界の悪党に付き従っていた奴らだ。だのに、今は契約社員としてクッパ軍に居る。
 外国人のように言葉が通じず、コミュニケーションが取りづらい。俺らとは違う人種だ。

 1-1入りする。

 ノコノコ。俺たちと同じセクションに配置されている他、各地で見かける。
 緊張感無く踊り歩いていやがる。これでもクッパ様と同じ亀一族というだけで俺らより給料が高い。
 こいつらの不注意でコウラの流れ弾を喰らい、多くの兄弟が死んだ。ヒヤリ・ハット報告書は、何故かクリボーがか書かされている。

 こんな奴らが俺らより格上とは、ムカつくぜ……

「よし、マリオがうっかりぶつかってしまうような位置につけ!」
 隊長の掛け声にて俺らは三々五々、散って行った。

 だが、何処に行けばいいのだろう。新米の俺にはわからない。
「隊長、どうすれば?」
「俺が必勝法を教えてやろう。穴のすぐ傍に陣取るのだ。マリオは着地時が最も脆く、穴を避ける余り穴の近くに居る俺たちにぶつかってしまうことが多い」
「成程、流石隊長! 殺したマリオは星の数!」

 隊長はスタスタと穴の近くに歩いて行く。俺はそれを追う。

「ギリギリまで穴に近付くんだ」
「はい」

 隊長は尚も歩く。

「そろそろいいんじゃないですか?」
「もっとだ」
「え?」
「ギリギリを攻める」

 隊長は歩調を緩めることなく奈落に迫って行く。俺にその勇気は無い。
 流石クリボーの中のクリボー。痛みを痛みと思わず、怯まずマリオにぶつかって行き、功績を上げた人だ。
 俺は尊敬のまなざしで隊長を見ていた。隊長は何かに憑りつかれたように、穴に向かって行く。このままだと、落ちる。

「隊長、止まって下さい!!」

 隊長は止まらない。

「たいちょおおおおおおおおお!!?」

 隊長は真っ直ぐに、穴に落っこちていった。

89 :92
2023/01/16(月) 20:04:05

ちょっと被ったかもしれない

イチイチクリボー

髭面のオッサンが目の前で変な踊りを始めた。かと思えば、
いきなり走り出し、こちらへ突っ込んできた。俺はオッサンに噛みつき、おっさんを倒す。視界が真っ暗になり、またオッサンが目の前に立っている。コイツを倒すのが俺の目的。与えられた仕事。俺はここ1-1の最初の敵として、オッサンを倒さなければならないのだから。

今の仕事に不満があるわけではない。向かってくるオッサンが変な踊りを始めた時には流石にムカつくが、俺のオッサン撃退率は中々のものだし、決して待遇が悪いわけでもない。まあせいぜい仕事に不満を言うとすれば、オッサンしか目の前に現れないことぐらいだ。例えば姫とか美人なやつが来たら、もう少しテンションが上がる気がする。

オッサンだらけになった頭を振り、気分を変える。オッサンはまた俺にぶつかってきた。学ばない奴だと思いつつ、噛み付く。奴は何回か俺にぶつかった後、ようやく俺の頭を飛び越えて猛スピードで走り抜けていった。あの調子じゃ誰かにぶつかるような気もするし、オッサンに負けたという事実もあるのに何故だか清々しかった。俺みたいな雑魚じゃなく、せめてもうちょっと格上の敵に負けて欲しいような気がする。

まあ文句を言うとするならばやっぱり、もうちょっと美人な奴に来て欲しいってところだ。

91 :黒帽子
2023/01/20(金) 10:17:39

私はノコノコである。クッパ様に忠誠を誓ったカメ軍団の一人で、ピーチ姫を奪い取ろうとするマリオを撃退するのが仕事だ。さて、今日のシフトは「第3地区第1拠点」近辺の階段でマリオを待ち伏せることだ。最近の解析で分かったことは、第1地区と第4地区の地下エリアにて、マリオの奴が我々の帰還用土管を勝手に使ってクッパ城のある第8地区までやってくるようになったことだ。第2、第3地区は案外ローリスクな仕事となっているし、ファイアマリオが来ないことを祈ろう。
早速警報だ、奴が攻めてきたな?土管を使わず片っ端から拠点を攻めていくのは余程自信があるやつか、訳もわからず突き進む方向音痴のはずだ。まあ、方向音痴の可能性が高いだろうけど。
「敵襲!緑の帽子です!」

高いところで見ているが、いつものマリオと違って緑色の帽子をかぶっている。噂でよく聞く、マリオの弟のことか。滅多に姿を見せないが、兄顔負けの勢いでやってくる。

「ぐわあ!」
「うぎゃあ!」
「ギエピー!」
同胞が次々と倒されていく。ファイアマリオのような姿でもないし、ましてや虹色に光ってない。今回は化け物か!

近づいてきたので、階段を駆け降りた。マリオの弟は、階段付近で一気にジャンプ、1秒後には私の頭上だった。
私は踏まれて咄嗟に甲羅にこもった。あとは蹴られるだけか。
それにしても痛い!階段だからか逃げ場がない!遠慮なくガンガン踏まれる。3年ローンで買った甲羅がもう凹んで使い物にならなさそうだ。
だが時間をここで潰してくれれば増援がやってきて、奴も捕まるだろう。早くやってきてくれ。

しかし、苦しみからは予想よりも早く解放された。
踏まれる感触は無くなった。ルイージはあっさりと拠点へ侵入してしまった。ああ、今日の報酬が半額になってしまう。

甲羅から頭と手足を出して、階段を上がって陥落された拠点を確認した。拠点からマリオの弟が出ていくではないか。しかもさっきは一人だったのに100人ほどの大群となって次のエリアを攻めている。ああもうおしまいだ。

その時、一本の連絡が来た。
「マリオが単身でクッパ城に突入してきた。」
兄弟揃ってカメ軍団を壊滅させる気だ。明日から仕事どうしよう。

fin

94 :ベリー
2023/02/10(金) 23:58:09

ああ、思い出しただけで鳥肌が立つ。
口にするのもおぞましい。

それでも君はこの話を聞くのかい?
そうか、なら仕方ない。途中でナシは、無しだからな? ヨシ、では話そう。

碧がどっぷりと漆黒に沈んだ丑三つ時。ふと、俺は目が覚めたんだ。
知らない天井だ──という展開はなく、俺の視界には何時もの俺の部屋の景色が飛び込んできた。

ただ、異様な点は一つ。

腹に違和感を覚えたんだ。
それは、とても形容しがたい感覚でな。胃が不気味に独りでに藻掻いて、その振動が喉までやってきたんだ。
痛くも無ければ苦しくもない。ただ、居心地は悪い。

俺は胃の命のまま、自室を出たんだ。

フラフラと、いつもより暗く薄い色彩の廊下を歩いてたどり着いた部屋。
そして目の前には、箱があった。
真っ白で、とても自然的に出来たとは思えないツルツルで綺麗な箱。

俺は、躊躇わずにその箱を開ける。すると途端に入る白を極めた針が俺の目を突き刺したんだ。
ジンジンと痛む自分の眼球を抑えるが、それでも胃は命を下ろすことを辞めない。

俺の体は勝手に動き、箱の中に入ったおぞましい物物を取り出した。
1つは、哺乳類の肉とは思えない、宝石のような膨らみを持つ真っ赤な死骸。
もう1つは、羽虫ぐらいの大きさの白い死屍累々。
更にもう1つは、第一関節程小さな腐肉色をした輪の集合体。
最後に、飲むともがき苦しみ死に至る、古血色の液体。

 それらを揃えた瞬間、俺は恐怖でどうにかなりそうだった。
 戦慄という名の稲妻が足から全身に走ると同時に、さっきよりも冷たい部屋の空気が俺を肌を突き刺す。ただ、課せられかけている”罪”に押しつぶされ、どろっとした内蔵が口から飛び出そうだった。

 そんな俺を見ても、胃は命をし続けた。

俺は行けないことと分かりながらも、死屍累々を抉りとる。
そこに、新鮮な死骸を無慈悲に置いて腐肉色の輪を乗せた。最後に、毒液をたらり。

 あぁ、もう後戻りは出来ない。

俺の心身は既に”罪”に押しつぶされていて、折れた肋骨が腹に刺さるほどの心の痛みを感じた。
 そして、棒2本手に取る。

 毒液がかけられたルビーと言われても違和感がない死骸を棒で囲み、死屍累々と腐肉色の輪諸共掴みあげた。
 そして、それを。

 ──口に運ぶ。

 初めに口内を襲ったのは死骸だった。俺の舌に死骸自身の長所を押し付けて、無責任に溶けてゆく。
 ただ、それだけでは俺は屈しない。
 そこで出てきたのが毒液。毒液らしく俺にしょっぱい刺激を刺して、死骸が如何に滑らかで優しかったかを叩き込む。
 そこに割り込む死屍累々と輪。死屍累々が毒液の刺激をカバーして、死骸と上手く融合。輪はシャキシャキと悲鳴をあげて、俺を楽しませた。
 毒液の努力は全て水の泡になったのだ。

 それらを嘲笑った俺は一言。

「マグロ丼うめぇぇ……!」


 朝起きたら、シンクの中に洗い物が一つ増えてたんだ。
 冷蔵庫の中には、特売のマグロの刺身と、お冷が無くなって、ネギと醤油は減っていた。
 それと昨晩の記憶を重ねると、もう恐ろしい……!

 お前も気をつけろよ?
 俺の話を聞いたからには、お前も深夜の飢餓感に耐えられなくなってマグロ丼を食ってるかもしれねぇ……。

 俺は、責任を一切も、追わないからな──

◇◇◇
読み直し無しで、衝動的に書きました。
誤字脱字絶対ある。失礼しました。

103 :92
2023/02/19(日) 16:14:15

「ねぇ、さっきの映画で食べたポップコーンマジで美味くなかった?」
一緒に映画を見た友人の一人・咲奈から声をかけられ、ふと優香は顔を上げた。
「え、ポップコーンって大体美味しいもんでしょ。美味しくないポップコーンって何?」
もう一人の友人の陽菜もしゃべりだし、ポップコーン談義が始まる。
「おいしくないポップコーン…百味ビーンとかじゃない?」
咲奈はこの前3人で行ったテーマパークに置いてあったお菓子の名前を挙げた。でも多分あれはポップコーンではない。優香は声を出した。
「百味ビーンはポップコーンじゃなくない?ただの豆でしょあんなもん。」
優香がバッサリ答えるも、咲奈は、ただの豆ではなくない?などとまだブツブツ言っていた。
「ねえ、次どこ行く?そろそろご飯食べたいんだけど。」
優香が尋ねると、勢いよく咲奈の手が上がった。
「わたしファストフード食べたい!」
ファストフード。
「よしコンビニで済まそう」
咲奈の言葉を完全に無視し、優香は立ち上がった。


まだ2月だからなのか、まだ寒い。手を擦りながら歩いた。
「ひーなー。優斗にバレンタインチョコ渡すって前言ってたよね。いよいよ明日じゃん!」
コンビニが見えてきた頃、咲奈が陽奈に喋りかけた。優斗は学年の中で一番と言われるほどの人気者で、好意を抱いている人も相当多いと聞く。
「やっぱ無理かもしれない。彼女いるって聞いたことあるし…」
「そっか。そんな時もあるよね。」
「気にしてないから大丈夫。さっさとご飯食べよう?」
コンビニに入ると、優香はアンパンとイチゴ牛乳を買って席取りのために外に出た。
空いているベンチに座り、一息つく。
「咲奈、陽菜、何買った?」
「優香、席取りお疲れ。私はから揚げ太郎と飴。咲奈はおにぎりとグミだってさ。優香は?」
「アンパンとイチゴ牛乳。」
優香が答えると、張り込みする刑事かよ!と笑われてしまった。美味しいんだけどな。
「ご飯食べ終わったらクレープ食べない?確かここまでにくる間にあったじゃん」
「あそこゲーセンの中にあるじゃん。校則でゲーセン入るなってことになってるしやめとこうよ。」
咲奈が提案するも、陽奈にバッサリ切り捨てられてしまった。
アンパンを頬張っていると、隣に座っていた咲奈が耳打ちしてきた。
「ねえ見て、あそこに優斗がいるよ。」
咲奈の目線を追うと、確かに優斗らしい人が見えた。隣に女の子を8人ほど連れている。
「え、めっちゃ女の子侍らせてるんだけど。最低。」
陰湿な目で優斗を見つめる咲奈と、女の子を8人侍らせるというあまりの衝撃に、優香も思わず笑ってしまった。
「ねえねえ、陽菜、見てあれ。告白できなくても良かったと思わない?」
優香は陽菜に声をかける。少しは気分も晴れるかもしれない。
「うっわ、何あれ。あの中に入ることになってたかもしれないと考えれば…これは確かに告白しないことにして良かったかもしれない。」
陽菜はため息をついた。
「よし、さっきはああ言ったけどクレープ食べちゃおう。あれ見た後で気にするものなんて何もないよね。」
優香は思わず拳を握ってガッツポーズを繰り出した。
じゃあ私チョコのにしようかな、期間限定のあるかなーー
年頃の少女たちの会話は止まらない。

151 :ダーク・ナイト
2023/02/23(木) 12:26:26

「幸せとは」

私は考える。
幸せとは何かと。
「幸せ」と言う言葉は現実に存在しているのだろうか。
言葉だけの、絶対にありえないことではないのだろうか。
どこかで戦争が起こってしまう。
どこかで喧嘩が起こってしまう。
「幸せ」を作るにはどうすればよいのだろう。

「幸せ」とは何か。
「幸せ」と言う言葉は永遠に行き続けるのだろうか。
一瞬だけの小さな小さな光ではないのだろうか。
どこかで病気が起こってしまう。
どこかで飢餓が起こってしまう。
「幸せ」の時間を長くするにはどうすればよいのだろう。

暗い道の中、「幸せ」「不幸」この二択は紙一重。
自分の行いによって
自分の進む道が決まる。
「幸せ」は本当は不幸で、「不幸」は本当は幸せかもしれない。
「幸せ」は本当はなくて、「不幸」も本当はないのかもしれない。

人生をどう生きるか。
それを考えていくことは、進む道を選択することに当たるのではないだろうか。
人生を少しでも明るくするために
自分はどうするべきなのだろうか



やや詩っぽくなってしまいました。
コレは100%盗作ではありません。

154 :ダーク・ナイト
2023/02/24(金) 17:50:37

「悲しみの花束」

「はい。コレ。」
彼の口から出てきた言葉は、その言葉だった。
とても短い言葉だった。
やはり、私は彼から愛されていなかったのだ。
私は流れ落ちようとする涙を食い止めるのに必死だ。
彼は私の胸に、ピンク色の紙で包まれた花束を押しつけてきた。
彼が渡してきた花束の中には、愛のような色の花ばかり入っていた。
鮮やかなルビー色や白色の花がたくさん束ねてある。
私は付き合って1年の彼に裏切られてしまった。
彼が他の女性と歩いているところを見てしまったのだ。
とても悔しくて悲しかった。
彼は私だけを見ていたのではなかったの……?
私は、そんな灰色の思いを背負って約3ヶ月生活し続けた。
だが、とうとう引っ越すことにした。
そして、今にあたる。
彼は後ろを向くと駆け出した。
彼の黒いコートが風に揺れる。
「待って!」
私は彼を呼び止めた。
「あなたは……最後まで……私を……愛してくれなかったね……。」
涙混じりの声で一生懸命に言った。
「私は……本気、だっ、た、ん……だよ……。」
「美久! それは君の誤解だよ、エグッ。僕はズズッ。今までっ。本当にっ。愛していたんだっ……。」
「でも……なぜ、3ヶ月前くらいに女性と歩いていの……?」
「アレは、僕の姉だよっクスンッ。」
「え……そうだったの……?」
「そうだよ。君は誤解をしていたんだね……。僕は君を一生守りたい。だけど、君自身が僕を見捨てたら別の話だ。僕は諦めるよ。」
いつの間にか泣き止んだ彼は冷たい目に変わって言った。
「人を信用することもできない君は、もういらない。」
「やっぱり……そうじゃない。あなたは……。」

159 :ダーク・ナイト
2023/02/25(土) 12:52:37

「悲しみの花束」二話

私が勘違いしただけなのに。
勘違いだったなら優しく勘違いだって言ってくれたら良かったのに。
「人を信用することもできない君は、もういらない。」
その言葉が、心の中でエコーされていた。
「良いよ、もう。やっぱりあなたはそんな人だ。」
私は涙をぐっとこらえ、彼に向かって言った。
「私にもうあなたはいらない。」
できるだけゆっくりと言った。
涙がこぼれ落ちないように。
このくすんだ雫を見られないように。
「僕だって、君はもういらない。」
彼はそう言い残し、背中をくるっと向けて去っていった。
さっきまで2人を包んでいた暖かい風は、あっという間に冷たく変わってしまった。

ー数日後
私は、親戚の家で開かれたパーティーに呼ばれた。
この前の重みが背中にズシンと乗っているようだ。
どうしても気が進まなかったが、引っ越す日までの最後のパーティーとなるため、行くことにした。
「やほ! 美久! 綺麗になったねぇ!」
と、中学生時代の友人に言われた。
「ありがとう。」
とだけ返しておいた。
パーティーが始まって10分くらい経っただろうか。
友人が言った。
「そういえばさ、今はみんなどんな感じで恋愛進んでるー?」
みんな口々に、
「いやあ、実はね、新たな彼氏見つけちゃってー。」
「俺は婚活中。」
だとか、幸せな事ばっかり言っていた。
友人は、
「良いなぁ、みんなあ! あたしなんてまだ相手も決まってないよぉ。」
と言っていたが。
私はひとり黙っていた。
まさか、別れたなんて言えない。
「美久はどうなの? 最近は。」
と友人が言ってきた。

184 :ラピス
2023/09/05(火) 22:19:37

私もベリーさんと同じ企画参加したので、その時のss失礼しますわ。


【52ヘルツの怪物】

 真昼の海は青。夜中の海は黒だ。まるで絵の具で一筆、塗りつぶしたような単色。
 青はまだ透き通るが、黒は吸い込む。正に今、一人の女を飲み込もうと、怪物のような黒が大口を開けているのだから。

「何をしている、止めなさい」

 星月夜の明かりだけが頼りの白い砂浜。女は何も聞こえないふりをして、黒の波に足を沈めていった。途端、全ての温度を奪い取ろうと水温が絡みつく。足指の隙間を水流に浚われた砂が逃げていった。
 ただの人間でしかないその身体が、海水に溶けて泡となることはない。分かっていても、少しだけ期待した。“あんなふう”に儚く消えてしまえたら、誰かが同情してくれたかもしれないから。

 波を掻き分けて進むたび、黒い水が衣服にまとわりつき、彼女を引きずり込もうと指を這わせてくる。海は冷たかったが、陸よりもずっと女を歓迎しているふうであった。

 沈む。水温に四肢が痺れていく感覚。腹や背中を撫でる寒気に思わず身が竦む。少しだけ立ち止まって、でもそれがいけなかったのだろうか。いつの間にか追いついた男が、女の腕を掴んで、陸へと引き寄せた。女は無抵抗だった。というよりは何もかも諦め、海月のように水を漂った、という方が近かったかも知れない。
 身を任せた結果が、波打ち際の砂に転がることだった。濡れた肌に張り付くジャリとした感触と、夜風の温さに押し付けがましい生を感じる。

「……涙の味がする」

 彼女の第一声は、助けて下さってありがとうございますなどでは無かった。
 別に女は泣いてなどいなかった。ただ暗い緑色の瞳を虚空に漂わせているばかり。黒い水平線を名残惜しそうに見ているようで、ただその辺の白い砂の粒を眺めてるふうでもあった。

「海水の味だろう。口に入ったんだ」
「つまらない答えですわね、アンデルセン。貴方、作家のくせに案外退屈なこと言うのね。安心しましたわ」
「作家も一人の人間だからね。君も作家のくせに入水か。退屈な死に方じゃないか。君も同じだ、作家なんて物語から離れればつまらない人間なのだよ」

 アンデルセンと呼ばれた男は、言いながら濡れて張り付くシャツを捻った。染み出した雫が砂浜に点々と染みを作る。女はそれを見て、でも同じように海水で重たくへばりつく服をどうするでもなかった。

「あなたの作品を読みましたわ」

 女が独り言みたいに口にする。アンデルセンは、そういえば先日新作を発表したばかりだったな、と彼女の次の言葉を待った。

185 :ラピス
2023/09/05(火) 22:20:19

「読んで感じたのは、深い絶望でした。敵わないって思ったんです。あなたの描く海がきれいだった。同じくらい穢らわしかった。読まなければよかったって思うのに、私、こんな作品に出会えて幸せだと思う」

 滔々と語られる言葉に抑揚は無く、何処か夢でも見ているような、うつつとした口調だった。

「そうか。作者冥利に尽きる。熱烈なファンレターをありがとう」

 アンデルセンの声を聞くと、女は彷徨わせていた視線を彼の顔に縫い付ける。奈落の底から這い上がろうとする亡者のような、恐ろしい目をしていた。
 女は急に立ち上がり、震える声で捲し立てた。

「ファンレター? 笑わせないで下さる? これは呪詛ですわ。貴方の描く物語が憎くて憎くて仕方がないの! 同じ時代に生まれた作家として、これほどまでに人を恨まなければならないこと、こんな身を焦がすような、体の内側で火炙りにされるような気持ち、知りたくなかった!」

 女が言葉を切り、肩で息をするのを眺めて、アンデルセンは嗚呼、と短く声を零す。

「それで入水か。内なる炎は消えたかい」
「馬鹿言わないで。貴方が止めたから私、まだ陸にいるのでしょう? 貴方さえいなければ、きっと海の泡になって可哀想にって、誰もが同情するような最期を迎えられたのに」
「残念だが現実に泡沫と消えるお姫様なんていない。あのまま止めていなければ末路は水死体だ。君は死ぬまで塩辛い海水を飲み続け、醜く膨れた体で明日の朝、鯨のように浜辺に打ち上げられる。想像してみなさい」

 白い腹が、四肢が、顔が、塩水をたらふく飲み込んで、赤子のようにブクブクとくびれのない肉塊として、朝陽の差す波打ち際に転がっている。飛び出た目玉が黒黒として虚空を見る。その黒の上、蝿が手足を擦り合わせている。煩い羽音。絶えず寄せては返す波の音。わかめのように波に揺れる頭髪。アンデルセンは言葉で女の死骸を鮮明に描写して見せた。美しい架空の物語を描いた男が、今度はまざまざとグロテスクな現実を突きつけてくる。
 吐き気に顔を歪めた女を見て、アンデルセンはそのまま続けた。

「現実にファンタジーは起こらない。だから物語は、人に特有の光を与えるのだろう? そして、その光を与える者が作家だ。君も作家ならば、呪詛より物語を紡ぎ給えよ」

 女は大きく目を見開いて、深く、乾いた空気を吸い込んだ。そうして、痛々しげに息を吐く。次に紡ぐ声は、か細かった。

「ねえ、アンデルセン。打ちのめされるって、どんな気持ちか知っていて? 銀のナイフで心臓を抉られるような苦しみを知っていて? 王子様に声が届かないように、私ではどれだけ手を伸ばしても届かない。地獄は常に陸にあるのだわ。貴方の描くような海に、逃げたかったの。泡になれたらどんなに幸せだったかしら。この身を焼き尽くす苦痛を消したかったの。ねえ貴方、作家のくせに人の気持ちを想像できないのね。私、貴方のこと大嫌い……」

 二人は口を噤んだ。きっと、黙ったままでは痛みのある沈黙。波の音は静かにその傷を埋めてくれた。

「……私にはこの海、真っ黒な筆で塗り潰したようにしか見えない。でも貴方は、星月の煌めきが溶け込んで、パレットに乗せられた色以外の、ずっと鮮やかで、ずっと繊細で、いっとう美しい何色かに見えているのでしょう?」

 海は黒く蠢く。規則正しい音を繰り返しながら、星月の明かりを舐るように揺らしながら。ただ、黒くゆっくり鼓動しているようだった。女には、そういうふうにしか見えないのだ。

「さてな。しかし、俺にはこの海が黒には見えない。俺の見える景色が唯一無二だとして、お前の見る世界もまたお前だけのものだろう。誰一人として同じ色彩を見ることはないのだから、お前も作家なら、お前の思う色彩で筆を執れば良いだけではないのか」

 アンデルセンはあっけからんと言ってみせる。その姿が忌々しかった。

「簡単に、言わないで」

 女が唸るかのような声で口にすると、アンデルセンは興味を失ったふうに水平線を眺めた。

「そうかい。……ところで大変申し訳無い。君が作家であることは辛うじて覚えているが、名前は知らないな。どちら様で? 作家の集まりに顔を出していた気がするから、見覚えがあるのだがね。ほら君、特徴的な緑目をしているから」