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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗170

170 :げらっち
2024/06/01(土) 13:25:48

 夕刻。
 私は自室から梯子をつたい、階下の佐奈の部屋に向かった。
 ここのところ、毎日こうして彼女のところに行っているが、別に遊びにきているわけではない。
 佐奈は豚の応援に一切現れず、ずっと部屋に籠ってロボ制作をしている。だからその進捗を確かめるのと、単に佐奈とコミュニケーションを取るのが目的である。1人で缶詰めになっているのは肉体的にも精神的にもよくない。
 生存確認は必要だ。

 私、コボレのリーダーだし。

 梯子から降り立ち佐奈ズルームに着いた。
 初めて入った日と比べると、随分と散らかっていた。
 洒脱な挨拶を考えた挙句、私は「ただいまー」と言った。佐奈は私の方を見ることさえも大儀そうに、「ここ七海さんの部屋じゃないでしょ」と言った。密かに「おかえりー」を期待していたのにつらい……

 佐奈は今日も原稿用紙と睨み合っていた。
 下書きを何度も消して書き直したのだろう、用紙は消しゴムの跡で真っ黒になっていた。
 机の周りには弁当の容器やハンバーガーの包み、ラーメンのカップやポテチの袋が、山のように積まれている。全て私が差し入れた物だ。
 机の上には今も幾つかのポテチの袋が開けられていた。ポテチのちゃんぽんだ。用紙の上にもスナックのカスが散らばっている。以前は私が触れただけで拒絶反応を起こしたのに、偉い違いだ。それだけ追い込まれているという事だろう。何か臭いし。

「体に良くないからたまには外に出なよ。ちゃんと寝てる?」

 寝ていないのは返答を待たずとも佐奈の顔を見ればすぐに分かった。目の下にクマさんができていたから。
 それで返答不要と思ったのか、佐奈は私の質問を無視して言った。
「どうしてもバランスが取れない」
 佐奈はコボレのロボを作ろうとしているが、図案には4人分しか描かれていなかった。

「4つじゃね。五体満足のロボを作るなら、5体のロボにしたら?」

 佐奈はボサボサ頭を上げ、私をじろっと見た。
 冷笑を浮かべて。
「笑えるじゃん」

「まぁまぁ、ピリピリしないでよ社長。これでもどうぞ、オススメだよ」
 私は机の上に缶コーヒーを置いた。さっき自販機で買った物だ。
「コーヒー好きじゃないんですよね。紅茶党だから」
「そっか、メモっとこ」
 好意と110円を無下にした佐奈にちょっとイラっとしつつも、私は何とか自制を保ち、缶のタブを押し開けた。茶色い泡が吹き出た。
「これは私が飲んじゃうね」

 佐奈は原稿用紙のうちの壱枚を取り出し、私に見せた。
「取り敢えずこれが仮の案。4体のロボが合体して、大きな1つのロボになる。デザインジャーの技術を盗んだものだから間違いない」

 私は言った。

「パクリだからダメなんじゃないの?」

 佐奈はにっこり笑った。
「え、何?」
 今まで彼女の顔の福笑いで、このような配置は見たことが無いというほど、可憐で軽蔑的な笑みになった。

 でも私は負けじという。
「デザインジャーのを真似たんじゃ、負けるか良くて同じにしかならないよ。勝ちにいくなら、全然違う、新しい物を作らなきゃ」

 佐奈はしばらく私の目をじっと見つめていたが、笑顔のまま。
「買いますよ、喧嘩」
「喧嘩したいんじゃないよ。そもそもこれじゃ豚のロボが無いし、別の案の方がいいと思っただけ」
「豚なんかにロボは必要ない!」
 佐奈は机を叩いた。鉛筆も消しゴムも跳び上がった。
「とにかく、この案で何とか完成させるから……」
「あっごめぇん!」
 私は原稿用紙にコーヒーをぶちまけた。一面が茶色に汚れ、図案は読めないほどに霞んだ。
「何すんの!?」
「わざとじゃないよ、本当に手が滑って」
「絶対わざとでしょ!! もうやめた!」
 佐奈は用紙をビリビリに破いた。顔を真っ赤にして、ちょっと泣きそうになって。

 ごめんね佐奈。
 でもコボレが1つになるには、こうするしかないんだ。
 嫌われ役を演じるのもリーダーの役目。

 佐奈は涙目で怒鳴った。
「出てってよ!!」
「わかった」
 私は立ち上がり、梯子に手を掛ける。
「最後にこれだけは言わせて」
「何?」

「ちゃんとお風呂入ってる?」

 佐奈は5日間同じパジャマを着ていた。

「もう5日もヒキコモじゃん。気分転換に大浴場でも行ってみたら? 広いお風呂で足を伸ばすのって、気持ちいい! 夜11時以降に行くのがオススメ。その時間帯ならほとんど誰も居ないから、1人でくつろげるよ」

 佐奈は返答しなかった。
「そんだけ」
 私は梯子を上がって行った。

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