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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
┗180-189
180 :げらっち
2024/06/06(木) 17:14:01
第16話 紫色の転校生
赤、青、黄、緑、ピンク、紫、そして、白。
それは虹の配色。
1人では虹になれなくとも、チームで虹を作ることはできる。先生がそう教えてくれた。七色のメンバーを集める、それが私の桃源郷。
「きみたちに良い報せがあるよ♪」
朝のHRの時間、いつみ先生がそう言った。
教室に一堂に会した1年生たちは、「うぇー!!」と、嫌そうな声のハーモニーを奏でた。いつみ先生の言う良い報せは、悪い報せであることが大半だから。
それでもニヤニヤと目を細めて笑っているいつみ先生。
一見すると無邪気そうだが、一周回って、有邪気だ。
「何なんやろ? 気になる!」と、私の右隣に座っていた公一が言った。
「あんまり期待しないほうが良いよ公一くん。きっとまたとんでもないイベントとか課題とか言い出すんだよ!!」と左隣の楓。
「うわーまじか最悪や!! それなら夜の授業に備えて寝ないとアカンですって言ってサボればよかったやん……」
私を挟んで会話しないでくれ。
今日はいつもと違い、コボレガールズとボーイズで別れず、私は楓・公一と相席している。つまり後ろの席では佐奈と豚が2人で座っている。今までは考えられなかったことだ。まあ仲良くなってくれたのなら、万々歳なのだけど。
皆の動揺を十分に楽しんだ後、いつみ先生は口を開いた。
「1002人目の、新しい仲間だ。さあ顔を見せてくれ!」
扉がバァンと開き、室内は静まり返った。
注目が一点集中する中、入ってきたのは、汚れの無い白いYシャツを着た男の子。ネクタイは締めておらず、第1ボタンが開いていた。
「あ、かわいい!」と楓が声をおもらしした。
たしかに私も、ちょっぴりかわいいと思ってしまった。
背はあまり高くなく、少年らしいベビーフェイス。ちょっと癖のある黒髪に、くりくりとした目。
女子生徒たちからの第一印象はおおむね高得点だったようで、室内はやにわにざわついた。それほど戦隊学園には女子受けする男子が少ないんだろうな。まあどうでもいいけど……
私が気になったのは、彼のルックスよりも、彼のイロだ。
紫。
私の虹に、加えたいイロだ。
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181 :げらっち
2024/06/06(木) 17:14:45
「転校してきました!!」
男子は大声でそう言った。子供みたいな中性的な声。
色香に誘われたか、すかさず3人の女子が躍り出た。
「一目惚れしました! 偏愛戦隊レンアイジャーのハートピンクです! 付き合って下さい!!」
「お菓子戦隊ハロウィンジャーのハロウィンイエローです! お菓子あげるから付き合ってー!! じゃなきゃイタズラしちゃうぞー!」
「アンタたち邪魔よ! 果実戦隊リンゴレンジャーのレッドリンゴ特製の林檎を食べてメロメロになりなさい!」
よくわからない女子たちが今しがた現れたばかりの男子の取り合いを始めてしまった。
あーあ、戦隊学園はフザけた場所だと思われてしまうだろうな。実際にそうなのだけど。
男子はそれを意に介さず、転校生のステレオタイプの動作をした。つまり、チョークを手に取り、黒板に名前を書き出したのだった。
その文字ができあがっていくに連れ、オーディエンスはどよめいた。
「星十字凶華(ほしじゅうじきょうか)だ。よろしくな!!」
男子は黒板に書いた名前を音読した。
ざわめきは最高潮になり、拙速な告白をした3人は悲鳴を上げて自席に逃げ帰った。
私の字引にも引っかかるものがあった。星十字。戦隊の歴史の授業で習ったことがある。
隣に座す楓も公一も、顔色を悪くしていた。
「ほ、星十字……」
星十字軍は、過去に世界を侵略しようとした、悪の組織だ。
「全く、お笑いだな!!」
前の方でポンパドーデスと相席していた天堂茂が立ち上がった。
「ここは《戦隊学園》、ヒーローの養成所だぞ! 星十字を名乗る者が入れていいわけがない。抑々、星十字軍は僕の父上率いるニッポンジャーにより討伐されたはずだ!! その遺伝子を継ぐ者は存在しないし、してはならない!! 何の理由があって汚名を名乗っているというのだ!!」
「汚名、ねえ」
星十字凶華は言った。
「汚名だと思うのはおめえの自由だが、オイラは自分の名前を名乗っただけだ。何か文句ある?」
「大ありだ!!」
天堂茂は席を離れ、黒板の傍の凶華に詰め寄る。
私はヘルプサインにいつみ先生を見たが、先生は止めようとするどころか、隅のキャスター付きの椅子に座って、この対峙を楽しそうに見ていた。
凶華は黒板の方を向き、天堂茂に背を向けてしまった。
「おい、聞いているのか!? 背中を見せるとは根性の曲がった悪党め! 場合によっては父上に言い付けてお前を退学にさせるぞ!! 自己弁護できるなら今ここでして見せろ!」
凶華が振り向いた。
「だるまさんがころんだ☆」
室内が一瞬だが暗くなった気がした。が、すぐに元に戻っていた。
天堂茂は石像のように固まっていた。凶華の術で動けなくなってしまったようだ。歩いている途中だったので、右足を上げ、片足立ちで止まるという、不自然なポーズになっていた。
口だけは動くようで、天堂茂は呻いた。
「ま、魔術だな!?」
凶華は天堂茂に体を寄せた。そして、くんくんと、匂いを嗅いだ。
「何をする!? 星十字軍の外道め!」
「うェッ、ゲロくさっ!! 言葉は自分に返ってくるから、あんま相手を貶めること言わないほうが良いぜ? 自分が汚れる」
凶華は、天堂茂の胸を、人差し指でちょんと押した。それだけで天堂茂は後ろに倒れ、床に後頭部を打ち付けた。変なポーズを維持したまま。
「痛いよパパ~!!」
ざまぁ。
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182 :げらっち
2024/06/06(木) 17:15:11
私の目は凶華に釘付けになっていた。
凶華は教室に座る生徒たちの匂いを、次々と嗅いでいたのだ。
そのたび「赤松みたいに香り高いな!」とか「黒酢みたいに酸っぱいや!」とか「うっへ、ブルーチーズの匂い! お前腐女子だな!?」とか「金木犀の香りか。でもオイラの好みじゃないや!」とか言ったりした。
なんでみんなされるがままなんだろう?
一般的な女子なら、初対面の男子に鼻をこすり付けられたらヤだろうし、男子同士でもヤだと思うけど……
「あ、あれうぇっ? 動けない!」
楓が隣で変な声を出した。
彼女の方を見ようとすると、首が動かない。目玉だけを全力で左にスワイプさせると、楓は動けないでいるようだった。
というか自分も動けない。
ま、まさか。
「だるまさんがころんだ☆」の効果は、教室に居る全員に掛かっていたのか?
それほど魔術というものは、強力なのか??
魔術といえば、ブラックアローンも使っていた。
ブラックアローン。カラフルな花畑の中にある、一輪の黒薔薇。
そんな彼と同じく魔術を使うとは。星十字凶華、何者なのだろう。
凶華は1001人の生徒全てを順に嗅いだので、随分と時間がかかった。
私は自分の番がくるのを待っていたが、次第に、不安になってきた。
私はどんな匂いがするんだろう?
毎日シャワーを浴びているし、変な匂いはしないと思うが……
でも彼が嗅いでいるのは、そういう、「嗅覚」としての匂いではないみたいだ。どちらかというと、私の感じる「イロ」のような……
ついに、教室の後ろに座っている私たちの番になった。
私は眼輪筋が痛くなるまで目玉を最大限に左に寄せた。
凶華はまず楓に近寄り、彼女の黒髪をスンスン嗅いだ。何だかやらしいな。楓だったら喜ぶかもしれないが。どのみち動けないのでリアクションがわからない。
「……海の匂い! 澄んでいるけど、とっても深くて、底の方まではわからないや」
あ、私のイロの解釈と同じだ。
「気になるなら底の方まで調べてもいいよ……」と楓。メンクイの楓はやはり凶華が気に入ったようだ。
「いや、やめとく!!」
「ええっ!?」
とうとう、私だ。
凶華は私の目の前に移動し、座っている私の顔に高さを合わせた。濁りの無い目、口からはみ出した、対の犬歯。にっこり笑っている彼の顔は、有邪気ないつみ先生とは違い、正に無邪気だった。
彼は私のおでこあたりに鼻を付けた。
横から「何すんねんこの色情魔!!」と公一の声。でも魔術は破れないようで、声を出す以外には何もできていない。
凶華は息を吸って、吐いた。熱い息が髪にかかった。
クサイって言われたら、傷つく……
コボレのみんなの前でそう言われたら、恥ずかしさのあまり明日から保健室登校に切り替えるかもしれない。
ていうか、なんか、他の人の時より長く嗅いでない?
やっと、吟味が終わった。
凶華は、顔を離した。彼は真顔だった。まるで何を考えているのかわからなかった。
そして。
「無臭」
と言った。
「え?」
「どんなに嗅いでも匂いがしないや。次行ってみよー!」
「ま、待って!!」
私は叫んだ。
凶華は、待った。
でもそれ以上何を訴えればいいかわからなかった。
私は、無臭?
それは、ある意味で、クサイより傷付く言葉だ。
私は、白い。私は、無色。だから、匂いも無い……
「そろそろいいかなぁ?」
いつみ先生が椅子から立ち上がる、ギシッという音がした。先生が闊歩してきた。
「あっれえ。先生、何で動けるんすか?」と凶華。
先生の魔法で魔術を破ったのか?
「そりゃ、きみは教壇から生徒たちに向かって術を掛けたからね。きみの視野に入っていなかった僕が術の対象外になるのは当然のことじゃないかい? まあ、今まで動けないふりをしてこの様子を見ていたんだけどね♪」
さすが、先生の方が上手だ。
「もうそろそろ1限目の開始時刻なんだけど、元に戻してくれないかな?」
「仕方ないなー」
凶華は言った。
「1抜けピ!」
すると、ガク、と体が真下に落ちる感覚がして、身体の支配権が戻った。長い間同じ体勢を取っていたために、あちこちがピリピリと痺れたり無感覚になったりしていた。周りを見渡すと、全員動けており、天堂茂は起き上がっていた。
「凶華、僕はどんな匂いだい?」
いつみ先生は両腕を広げ、凶華を誘った。
2人はしばし目線を交わしていたが、やがて、凶華は言った。
「やめておきます。先生の匂いを嗅ぐなんて、滅相も無い」
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183 :げらっち
2024/06/06(木) 17:15:41
HRが終わり、コボレの5人は、私を先頭に廊下を歩いていた。
途中、公一はずっと文句を言っていた。
「何やねんあいつ!! 七海にキスするくらい近付いて! セクハラか! 好色家か!!」
豚は大きな足音を立てながら、最後尾を歩いていた。
「僕も七海ちゃんの匂い嗅ぎたいブヒ~!!」
「変態豚、引っ込め」と佐奈。
「ごめんブヒ。僕にはさっちゃんが居るブヒね」
「トンカツにするぞ!」
「ブヒャ~!!」
豚は佐奈に蹴られ、ブっ飛んで壁にぶつかった。
佐奈は小走りで、私に歩調を合わせた。
「七海さん。あいつおかしいよ。星十字軍の子孫みたいだったし。何でこの学校に居るかわからないけど、関わらないほうが良い」
「でも結構かわいかったよお!」と楓。
スンスンされたことで充足感を得たようだ。
「伊良部さんフザけないで。星十字軍がいかに悪い組織だったかは知ってるんですよね?」
「そりゃ、知ってるけどさ……じゃさ、ここは、リーダーの意見を聞こ! 七海ちゃん!」
楓は私の背中をバフンと叩いた。
私は考えていたことを言った。
「あの子を、コボレの6人目にしたい」
「ええええ!?」
4人は驚いて私の顔を覗き込んだ。
「何言うてんねん!! 正気か七海!」
「正気だよ」
「熱があるブヒ?」
「ないよ」
「あいつは星十字軍の子孫かもなんですよ?」
「佐奈、星十字って苗字だけで嫌悪するのは、天堂茂とやってることが同じだよ」
そう諭すと、佐奈は舌打ちし、ものすごい呪いの目つきで私を見た。怖いよ……
私は自分の意見をまとめ、彼を誘うべき理由をプレゼンする。
「第一に、彼自身は悪い子じゃなさそうだった。第二に、あの子のイロは紫。コボレが七色の虹を作るには、あと2色、赤と紫が必要不可欠。転校したてなら組む人が居ないだろうから、早めにスカウトすればゲットできる。第三に、無臭だなんて言われて、黙ってられるわけがない」
私は額に掛かる髪を掻き上げた。
まだ彼の熱い吐息の感覚が残っている。私だってカラフルになれる、イイ匂いになれるって知らしめてやらなくちゃ気が済まない。
「イヨっ、さっすが七海ちゃん! コボレはクレイジーであらなくちゃね! あの子かわいかったし絶対メンバーになってほしい!」
楓が囃し立てると、佐奈が突っかかる。
「あんたは自分の意見も無しに七海さんに同調してるだけだしミーハーは社会のゴミ」
「は? 七海ちゃんの一番最初の友達でコボレのサブリーダーのあたしに文句ある? てかヒキコモリの方がゴミじゃねー?」
「マウント取るやつがゴミでーす」
コボレガールズは仲が悪く、ここが瓦解のタネになりそうで不安だな……
「あ、楓ちゃん。まさかカップリング的にハブられてるから男子メンバーが欲しいブヒ?」
豚のその一言は、楓にクリティカルヒットを与えてしまった。
楓は紅葉満開の楓の木のように赤く染まった。
「ち、違うので!! ゼッタイ違うので! でも、あれ?? さっちゃんと豚って本当にできてる? んで公一くんと七海ちゃんは確定だし……ぎゃー!! やば! 本当にハブられてんじゃん!! やばいよやばいよ早く男子メンバー増員を!!!」
佐奈はというと赤色巨星のように膨れていた。
「できてない! 余計なこと言うなブレイクアップ!!」
佐奈はコボレイエローに変身すると、次は白色矮星のように輝き、電気の塊を飛ばして豚を黙らせた。
「ブビャビャビャビャ!!」
「じゃ、機械クラスはこっちなんでうちはこれで。今日はこいつを魔改造してやろ~っと」
佐奈は焼き豚をひきずり、地下ガレージへのエレベーターに消えて行った。
少しは静かになった。
「佐奈むかつくー!!」と楓。
公一が私の肩に手を置いた。
「でも佐奈の言っとることは正論や。あいつを誘うのはやめたほうがいいと思うで。だって星十字軍関連なのは事実そうやもん。波乱が起きそうや、客観的に考えて」
私のアンサーは。
「客観なんて存在しないよ。客観は主観の集まりだから。客観を隠れ蓑にせず、私もあなたも、主観に従って行動すればいいだけだ」
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184 :げらっち
2024/06/06(木) 17:21:05
1時限目の授業。
教室としては広めだが、ホールとしては狭い、ここは魔法クラスの訓練室。
普段は何の変哲も無い内装だが、今は先生の術により、屋外に居るかのように思えた。私の周りには瓦礫が散らばり、半壊した建物からは白煙が上がっている。見上げる先は曇天。その向こうに天井があるとは思えない。
本当に《外の世界》に居るような感覚だ。
学園でもシティでも無い場所、それが外の世界。戦隊連合と悪の組織が戦争し、怪人が闊歩する無法地帯。
私は変身した状態で、地面の黄土を踏みしめた。灰色の瓦礫の向こうから、刹那何かが飛び出した。
のっぺらぼー。
顔はマネキンのように無機質で真ん丸。焼けただれた衣類を纏った、いつみ先生曰く「怪人の死骸」。
「フリーズ!」
私はそれを凍らせた。全身が硬直し、棒立ちになる怪人。
だが一体だけでは終わらない。振り向くと、街の残骸の至る所から怪人が飛び出していた。音も無く殺気も伴わず、ただこっちに来る。
「フリーズ! フリーズ! フリーズ!」
端から凍らせていく。
「ツララブレード!」
とどめは氷の剣による斬撃だ。私は氷柱を生やすように手から刃を生み出すと、氷の彫刻となっている怪人たちを、バラバラにかち割った。
ぴた。
私の左肩に、死人の手が乗った。気配も殺意も無い怪人はいつの間にか背後に居た。私はすぐさま振り向き、
「アイスピック!!」
渾身の魔の一撃で、怪人の胴に穴を開けた。腕が引き裂け、私の肩には怪人の前腕がぶら下がっている状態になった。私はそれを掴み、地面に叩き付けた。
訓練終了のメロディが流れ、街は消え失せ、元の教室に戻った。
私は肩で荒く息をしていた。床には怪人の破片が散らばっている。
先生が訓練室の扉を開け、拍手をしながら入ってきた。
「ブラボー、ブラボー♪」
私は変身を解き、息の塊を吐き出しながら、一気に言った。
「褒めるだけじゃなくて悪い点も言ってくれないと参考にならないです」
いつみ先生は有邪気な顔で私を見た。
「その通りだね。忌憚ない物言いは好きだよ七海。そうだなあ、きみの魔法は相変わらず強いんだけど」
いつみ先生は床を見た。怪人の腕が落ちている。次の瞬間。
[キャアアアアアアアア]
腕が奇声を上げて大きく跳躍し、私の顔にぶつかってきた。変身を解いたばかりで技が出せない。マズい……!
「ブレイクアップ・バーニング」
火炎が私の顔を掠めた。強くつぶった眼を恐る恐る開けると、変身したいつみ先生が、燃え盛る手で、怪人の腕を掴んでいた。
腕は意志を持っているかのように、私に掴み掛かろうとしている。
「覚えておけ。こいつらは怪人。死して尚、人を襲う。破壊本能だけで動く非人間。微塵も容赦をするな。完膚なきまでやれ」
先生は腕を握り潰し、燃やし尽くした。そして、
「フレアスイーパー!!」
手のひらから火炎放射を出し、床に散らばる数多の怪人の残骸を、1つ残らず完全に焼き払った。
焦げ臭い。それが怪人であれ、元々生き物だったものが燃えていく無情な匂いは、嫌だった。
「プロの戦隊として戦っていくなら、ここまでしなければいけないよ」
「はい」
私は呆然と返事をした。
「いい加減な返事をするな。できないならできないと言え。はいと言うなら気持を込めろ」
「はい!!」
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185 :げらっち
2024/06/06(木) 17:23:14
「いい返事だ♪」
するとまた誰かが訓練室に入ってきた。
2人の女子生徒だ。
「あら、小豆沢サン。ドスコイジャーへの大金星おめでとう。また赤坂先生を独り占めしているの?」
1人は魔法クラス首席、胸まで届くウェーブのかかった金髪、容姿端麗、でも言ってることがババ臭い金閣寺躁子だ。
いつもは赤豆と黒豆の数での恋愛占いなどしている。前に私は大凶と占われた。くうだらない。
「個人レッスンと銘打ってお気に入りの生徒に手を出すなんて抜け目のない先生ですわね」
「手を出してなんかいないよ」と先生。
「どうかしらね。現場を押さえられなくて残念ですわ。あと少し早ければ決定的瞬間を見れたかもしれないのに……つまり、見れんことに未練。ギャッはっはっ!!」
金閣寺はまたゴミの様なギャグを言って、1人でウケていた。
そこに合いの手を入れる奇特な人が居た。
「傑作ですわ、ねえさま」
銀閣寺佑子(ぎんかくじゆうこ)という、金閣寺の妹分だ。背は金閣寺より高い。ショートカットの銀髪、顔は地味で、眠そうにしている。着ている巫女の装束はおそろいだ。
「それよりねえさま。先生にお尋ねすることがあったのではなくって?」
「そうでしたわね」
金閣寺は激白した。
「先生、1年生に転入した子が魔法クラスに入ると風の噂でお聞きしたのですが、本当ですの?」
「え!?」
私はつい声を出してしまった。
「本当だよ。今日は学校見学をして、明日から授業に参加する」
「星十字の名を冠する子なんでしょう? どうしてわざわざこのクラスに!?」
「そりゃ、僕が誘ったのさ。あれほどのポテンシャルがある子はそう多くは無いからね♪ 学年でも、せいぜい6・7人くらい……」
その後の金閣寺と先生の言い合いは、耳に入らなかった。
これは、好機だ。茶柱が同時に7本立ったようなラッキーだ。あの子を仲間に入れる、絶好のチャンス……
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186 :げらっち
2024/06/06(木) 17:24:07
翌日。本日はHRは無い。
魔法クラスの教室に居れば確実に会えるとはいえ、金閣寺らにダル絡みされるとやりにくい。
そこで、スペシャルタスク:フォーメーション314「待ち伏せ」を決行した。
つまり、1年生用の昇降口にて、彼が寮から登校するのを待つことにしたのだ。
これじゃあ好きな人を待っているみたいじゃないか……
と、冷静に俯瞰して、自分が滑稽に思えてしまった。
生徒たちはおしゃべりしながら靴を履き替え、各教室に向かっていく。赤・青・黄イロ、みんなカラフルだ。紫はあまり見かけないイロ。
授業開始まであと5分になり、昇降口からはすっかり人がはけてしまった。
ようやく彼が現れた。
「ちこくちこくー!!」
駆け足で校内に入ってくる。私はすぐさま声を掛けた。
「こんー」
「わあ、ムシューダ!!」
星十字凶華は飛び退いた。そんな呼び方はされたくない。
「私、小豆沢七海。あなたと同じ魔法クラス。ちょっとお話していい?」
「急いでるからあとで!」
確かに、始業まであと少ししかない。凶華は自身の上履きが収納されているロッカーを開けた。すると。
ドサドサと、丸めたティッシュや空き缶、ペットボトルなど、ゴミが飛び出してきた。
「……なんだこれ」
凶華はそれらを見て指を咥えた。
「オイラへのプレゼントか?」
「……違うと思うよ」
チクッ、胸が痛んだ。私も何度もこういうことをされたからだ。
きっと心無い奴らが、星十字という名に偏見と差別の心を抱き、彼をいじめているのだろう。そんなことをする奴はヒーロー失格だ。
「気にしない方が良いよ」
私はそう言いながら自分のロッカーを開けた。すると凶華の時と同じように、というか彼の時よりもよほど盛大に、ゴミが崩れ落ちてきた。ハンバーガーの食べ残しやらオレンジジュースの飲み残しまであって、スカートにびちゃっと染みが付いた。
「あはは! オイラと同じだな!」
凶華は無邪気に笑った。笑い事ではない。
「あっこのジュースうまそ! オイラ飲んじゃうね!!」
彼は床にこぼれたオレンジジュースに手を伸ばした。私はその手を払った。
「ストップ! 汚いよ。お腹壊すし、常識が無さ過ぎる」
「じょーしき?」
彼は私の顔を覗き込んだ。
私も常識の信徒ではないが、そんな私でさえも常識外れだと指摘したくなるようなこの子はどう生まれどう育ったのだろう。
「あなた、どこの学校から転校してきたの?」
「オイラは《ヴィランズ高等学校》っていう、世界征服とか暗殺とか、悪事を働く専門学校に入ってたよ。でも良い匂いの奴が居ないから転校した。ビラ校の奴らほんとに臭いんだもん!!」
ビラ校!? なんだそれは。気になる情報の目白押しだ……
だが何よりも、一番気になっていたことについて尋ねる。
「共感覚でしょ? それ」
私は彼の鼻先に人差し指を突き付けた。
ドキ、ドキ。何だろうこの胸の高鳴りは。恋、では断じてない。
共感覚を持つ人に出会えることは滅多に無い。これは親近感であり、やっと仲間に巡り会えたという喜びだ。
「キョウカンカク?」
私の人差し指を見て寄り目になった凶華は、ぽかんと口を開けた。
「たしかにオイラはキョウカだけど」
「知らないの? 1つの感覚から他の感覚を得る能力。あなたの嗅ぐ匂いみたいなやつだよ。私もあるんだけど」
「え、みんなあるんじゃないの!?」
私はずっこけた。この子と話してると、ペースを乱される……
「普通は無いみたいだよ。普通が何かは私も知らないんだけどね。ま、大多数は無いっぽい。あなたは人から匂いを感じる、《嗅覚の共感覚》なんだと思う。私は人からイロを見ることができる、《視覚の共感覚》」
「へぇー、そうなんだ! オイラはどう見えるの?」
凶華は私に飛びついてきた。私が一歩後退しなければ、胸を触られるところだった。
悪気は無いのだろうけど、この子は距離感が一寸おかしい……
「何で離れるんだ?」
「え、そりゃ……そうだな。ちょっと離れたほうがイロはよく見えるもん」
「あ、そう。じゃあ離れる!」
凶華はダッシュで廊下の向こうに行ってしまった。何気に足が速い。もう30メートルくらい向こうに居る。いちいちやることが、大袈裟だ。
凶華は立ち止まると、手旗信号で、「ナニイロニミエル?」と聞いてきた。私は叫んだ。
「紫!!」
「え? 聞こえなーい!!」
「むーらーさーき!!!」
彼のイロは、紫。
黒に近い紫。
黒系統のイロを持つ人は少ない。イロは人間の深層部分、心の中枢である。無邪気でかわいらしい彼が邪悪な黒に近いイロを持つのは、少し不思議ではあった。
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187 :げらっち
2024/06/06(木) 17:24:34
凶華はダッシュで戻ってきた。
「紫かー、てことはオイラは変身したら紫の戦士になるの?」
「そうそう。物分かりがイイね」
今だ。
私はスカウトマンの勘で勝負した。
「私の戦隊、紫が不足してるんだ。欲しいんだけど、くれない?」
すると彼は、あかんべえをした。
「やだよーん。誰が無臭の女の戦隊なんか!」
ぐさりとくる。
でも喰い下がる。
「今は無臭で無色だけど、これから華やかにしたいな。私は虹を見たい。あなたは良い匂いを嗅ぎたい。お互い目指すところは似ているし、協力し合おうよ。利用し合うんでもいい」
凶華は右目の下まぶたをずり下げて、ずっとあかんべえしている。
憎たらしいし、しぶといな。
「好きなお菓子は?」
「ティラミス」
「じゃあ週1でティラミスおごる」
「うっ……!」
凶華は落ちそうになった。あかんべえをやめて、真剣に私たちの戦隊に入隊するか、悩んでいるようだった。いいぞ。週2にすればもしかして……
でも交渉の続きをする前に、最悪のタイミングで、始業のチャイムが鳴ってしまった。
「あ! 初日に遅刻は印象悪い! 急げうおーん!!」
凶華は例の高速ダッシュで階段を駆け上がって行った。
「あちょっと!」
私は彼を追う。階段は苦手だ。頑張って追うも、踊り場で息切れした。
「ちぃっ……」
諦めないから。
私と凶華は、結局、一緒に教室を目指すことにした。
彼は目的地がわからないまま最上階まで駆け上がってしまい、その後私に教室の場所を尋ねてきたのだった。
もう遅刻は免れないので、ゆっくりと廊下を歩きながら、私はくどくど、くどく、くどいた。
「本当にコボレンジャーに入らない? 戦ー1でもまだ勝ち残っているんだよ」
「センワン? なんじゃそりゃ」
「学園内の最強の戦隊を決めるグランプリ。巨大兵器のメカノ助で敵を潰しまくったから、残り戦隊は少ないし、優勝できるかも」
「ふぅーん、興味ねえ」
そうこう話しているうちに魔法クラスの教室に着いた。
凶華は、教室とは思えないエキゾチックな重い扉を押し開け、薄暗い室内に声を入れた。
「すいませーん。遅れちゃいましたー。全部この無味無臭の女のせいでーす」
「無味は余計だ。私のせいなのは事実だけれど」
いつみ先生の姿は無い。
予想通り、金閣寺躁子のダル絡みを受ける羽目になった。
「あらぁ、あなたが編入生チャンね? 星十字軍の末裔と聞いたから、どんな子かと思っていたら、案外キュートなのね」
「あ、どーも。オイラ星十字凶華です」
金閣寺は凶華の頬をベタベタ触った。
「凶華チャンを強化してあげたいわね。なんてね……フフッ。ふてぶてしい小豆沢サンとは比べ物にならないわ。ねえ、わたくしのミコレンジャーにお入りにならなくて? あなたはかわいらしいから、男の娘として巫女になればいいわよ」
「男の娘?」
マズい、金閣寺なんかに逸材を取られてたまるか。
すると、凶華は金閣寺の匂いを嗅ぎ、ぴょんと後ずさった。
「ババ臭ぁ! 寄るな触れるな!」
「ババ臭いですって……?」
金閣寺の声に、ドスが利いた。彼女の顔がひくひくとひきつった。
「佑子チャン、どうお思いで?」
「躁子ねえさまは臭くなんか、これっぽっちも、ございませんのよ」と銀閣寺佑子。
面白いので、火に油を注いでやろう。
「私は臭いと思う」
金閣寺は、炎にガソリンを注がれ、ドカンと爆発した。
「屈辱感があるわねええ!! わたくしがッ、あなたを洗脳してッ、ペットにしてあげましてよ!! 覚悟なさい!」
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188 :げらっち
2024/06/06(木) 17:25:20
「何のアソビだ?」
凶華は目を輝かせているが、私は鼻白んでいた。
この程度の衝突は戦隊学園では日常茶飯事だから。面倒臭いだけだ。
「行くわよ、佑子チャン!」
「いつでもよろしくてよ、ねえさま」
「ブレイクアップ!!」
金閣寺躁子と銀閣寺佑子は同時に変身した。
金と銀という、珍しいイロ。そして2人の戦隊というのも珍しい。女児向けヒーローと履き違えてやいないか。
「ミコゴールド!」
「ミコシルバー!」
「呪術戦隊ミコレンジャー!!」
おそろいのスーツに袴姿、金と銀の戦士。
2人はプリクラでポーズを取っているかのような、厳かとはかけ離れた決めポーズを取った。
「うわー、すげー、変身って初めて見た!」
「変身自体は誰だってできるんだよ。私たちも変身しよう!」
だが凶華はとんでもないことを言った。
「わりー、戦隊証、寮に忘れてきちゃった!」
「こら抜け作。こうなったら私が変身するから、最初は見学しててね?」
私は戦隊証を取り出し、呪文を唱える。いつもは雑にやりがちなこの動作も、新入生に見せるつもりで抜かりなく。
「ブレイクアップ! コボレホワイト!!」
白い戦士と成った。
凶華はミコレンジャーと私を交互に見た後、ミコレンジャーを指さして言った。
「あっちのほうがキラキラしてて綺麗だな!」
「おほほ、そうでしょう。いつでも入ってくれて良いのよ?」
マズい、凶華の気があっちに向いてきている。
「虹を作れば、あれの七倍は綺麗になるから」
こうなったら魔法で魅せてやる。私は金閣寺に照準を定めた。
「アイスピック!!」
一点集中、氷の針が胸元に。
金閣寺は指で印を結んだ。無詠唱で、彼女の周りに黄金比。鋭利な氷は溶け落ちた。
「おーほほほ。前回の復習をしなかったのかしら? あなたはコブのある動物ね!」
は?
「首席として恥ずかしい限りだわ。つまり、ラクダの落第生ってね!! ちょーうけるー!」
金閣寺は膝を叩いて笑ったので、守りが消えた。
「今だ!」
私はツララブレードで斬り掛かる。この厚顔無恥なおばはんを痛い目に遭わしてやる。
チ!!
何かとぶつかり、私の刃は跳ね返った。
白銀の刀剣を構えたミコシルバー、銀閣寺佑子。手足は長く、剣の構えは隙が無い。
「躁子ねえさまには指一本触れさせません」
覇気の無い彼女だが戦闘には秀でていたとは。何度も何度も剣をぶつけてくる。防戦一方。こちらは氷、相手は銀。強度が雲泥の差だ。何度も切り結んでいるうちに私の剣は刃こぼれし、ついに折れた。
「サンキュー佑子チャン。呪が集まったわ。お戻りなさい」
銀閣寺は金閣寺のバリアの中に下がった。
金の盾に銀の矛。強い。
「とどめよ佑子チャン! 魔法クラス最強戦隊であるわたくしたちの魔法、とくと見せてあげましょう!」
「はいねえさま」
「ミコレンジャースペシャルウェポン・お守りボンバー!!」
2人は巨大なお守りを投げ付けてきた。何て罰当たりなんだろう。
黒色火薬が入っていたのか、お守りは爆発し、私は変身を解かれ、倒れた。魔法じゃなくて物理攻撃じゃないか。
戦隊証が床に転げた。
「……これ、借りていい?」
凶華がそれを拾い上げた。
「ま、待って凶華! 他人の戦隊証で変身できるのかわからない!」
でも彼は、私の見よう見まねで、呪文を唱えてしまった。
「ブレイクアップ!!」
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189 :げらっち
2024/06/06(木) 17:25:51
私は床に這いつくばり、その光景を見上げていた。
凶華のイロが具現化し、彼は紫の戦士と成った。
「おー、かっちょいい! これがヒーローか!! 何だか強くなった気分だぞ!」
彼は自分の体を眺め回し、浮かれている。
「で、なんて名乗ればいいんだ?」
「コボレの後に色を言って!」
「よし。コボレスター!!」
スター!? コボレパープルではないのか。
でも、しめた!
これでコボレンジャーとして仮契約完了だ。私は嬉しさに、指をパチンと鳴らした。
「ふうん、オシャレなカラーをしているわね。でも金山と銀山の前ではただのゴミの山よ?」と金閣寺。
ゴミの山? 引っかかるワードだ。
「まさか金閣寺が凶華のロッカーにゴミを?」
「小豆沢サン、先輩を呼び捨てにするんじゃありません!!」
金閣寺は口に手を当て高笑い。
「でもその通りよ。凶華チャンを孤立させた方が、モノにしやすくなるじゃァない?」
既にマイナスの評価に更にマイナスを掛けたからといって、プラス評価になることは無いと気付かしてくれてありがとう。
「さあ凶華チャン。ミコレンジャーのミコパープルに鞍替えしなさい!! さもなければ、潰すわ!!」
凶華は丸腰のまま、構えを取った。
「やる気? わたくしの守りを破れるわけなど無くてよ?」
金閣寺が巫女2人の前にバリアを貼る。金は全ての魔法を無効にする、魔法の頂点だ。
だがそれよりも彼の魔術がまさった。
「わりぃがババ臭いおめえらに用はねえや!!」
凶華は右腕を上げ、ブンブンと振った。まるで、お別れをしているかのように。
「闇魔術:遊びの、オワリ」
夕焼けチャイムが、耳の奥でこだました。咄嗟に耳を塞ぐも、鐘を打つような音から逃れられない。脳に直接響いてくるようだ。
「バイバ~イ!!」
夜が降りてきた。金閣寺も銀閣寺も耳を塞いでいるが、既に輝くカラーは消失していた。金科玉条など無視。全てのイロを塗り潰し、全ての光りを吸収する黒。カラーサークルの何処にも位置しないイロによる蹂躙。
「なんですのこれは!? まじないとか、マジないわー!!」
「お上手ですわ、ねえさま!!」
哀れ2人は変身を解かれ、抱き合って倒れた。
これが魔術の力か……
私が敵わなかった上級生を、転入早々瞬殺するとは。味付けによっては、これはコボレの大きな力となるだろう。
凶華は変身を解き、私に駆け寄り、戦隊証を返却した。
「楽しかった! これ、貸してくれてありがとう!」
彼は本当に楽しそうに笑った。口の中で鋭い対の犬歯が、存在を主張していた。
「じゃあ、コボレに入ってくれるってことでおk?」
「そうとは言ってない」
くっ……!
まあいい、上出来だ。手応えは悪くない。これからも勧誘を続ければ……!
「これからよろしくね?」
「よろしくな、無臭の女!」
「無臭の女じゃなくって小豆沢七海!」
いい加減覚えてくれ。
「アズ……ナナ……? 覚えられねえや! ナナって呼んでもいい?」
「ただでさえ短い名前をもっと略してくれてありがとう、凶華」
私は彼と握手しようと、手を差し出した。彼はすかさず、私の手にポンと自身の手を置いた。お手のような構図になった。
「お前は犬か」
つづく
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