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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
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222 :げらっち
2024/06/08(土) 12:23:39
私たちはロッカーのある昇降口に向かった。
電気を点けると、暗闇の室内が色で満たされた。私は自分のロッカーを開く。寮からいちいち持参するのが面倒なので、宿題に使う以外の教科書はここにしまってある。
ロッカーの中では教科書たちが、整然と背の順に並んでいた。
「うわ、めっちゃきれいに並べられとるやん! 何で?」
「何でって? 理由はないただの自閉症」
公一は腐ったジャムパンを食べたような顔をした。障害を嫌がられること自体は問題ない。私も嫌だから。
私はロッカーから戦隊の歴史の教科書を引っ張り出し、索引から該当ページを開いた。
『2020年5月13日、採石場の戦いにて、隊長・天堂任三郎(当時29)率いる日の丸戦隊ニッポンジャーは、日本を侵略しようとした星十字軍を討伐し、総統・星十字楼也(ほしじゅうじろうや 当時33)を処刑した。
ニッポンジャーの敢闘により日本の平和は守られ、世界の均衡は保たれ、人類の未来は拓かれた。
ニッポンジャーは護国戦隊として不動の地位を築き、天堂任三郎は戦隊連合の議長ともなった。翌2021年には戦隊連合の尽力により戦隊学園が開校。これにはニッポンジャー及び金融戦隊ギンコウジャーが多大な出資をしている。
ニッポンジャーの功績は、未来永劫語り継がれてゆくだろう』
何だこのニッポンジャー賛美は。
ご丁寧に、若かりし天堂任三郎が天に向かって拳を突き上げている写真が添えられていた。
「処刑された星十字楼也の跡取りが居たんだとしたら大問題ですよ。教師陣は何をしてるのやら」
「でも見方を変えることもできるよ」
「どういうことや?」
私は頭の中でパズルをした。
普段使わない知能の裏側までひねったので、脳がかゆくなりそうだった。
「星十字軍はスケープゴートで、戦い自体ニッポンジャーが名声を得るための欺瞞だったのかもしれない。星十字軍が世界征服を企む悪の組織だったって言うのも、いわば御伽話のようなものでしょ?」
私の仮説を聞いて、佐奈はきゃはッと笑った。
「いつにも増してクレイジーだね七海さん。本当好きですよ。うちが男なら、プロポーズしてるくらいには」
でも私は大真面目に言う。
「ニッポンジャーの御曹司と持て囃される天堂茂があんな性格だし、反対に星十字軍の子孫だという凶華はイイ子だ。可能性、あるんじゃないかな?」
「どっちみちこんな少ない情報じゃ何もわからへん! こうなったら気の済むまで調べようや」
「じゃあ図書室がイイかもですね。夜遅くまで勉強する生徒の為に、21時まで開いてますしあそこ」
私たち3人は、図書室に到着した。
赤レンガで造られた平屋。図書室というより、図書館だ。建物1つ丸ごと書庫となっており、膨大な数の資料や小説、漫画なんかも収蔵されている。
空調の整備された館内、本棚が軍隊のように整列している。
歴史の本の区画。
「骨の折れる作業になりそうだけど、手分けして星十字軍の情報を探そう」
「ほいさっさ」
私たちはそれぞれ怪しいと思った本を取り出して、パラパラめくった。虱潰しに当たるしかない。
『戦隊の台頭とライダーの衰退』という本。
ライダーは、かつて戦隊と共に二大ヒーロー群として日本を守っていた。赤の日以降、戦隊が力を持つようになると、ライダーは急速に力を失い、2044年現在は活動が見られていない。そういう内容だった。
授業で習わない歴史の、何と多い事か。
「オイ! これ見てみ!」
公一に呼ばれて彼の元に走った。彼は何故か天文学のコーナーに居た。
「UFOの目撃談、それに写真も!」
公一の開いたページには、白黒ではあるが、市街地の空に円盤が浮いている写真が刷られていた。どう見ても合成だ。
「あなた幽霊の話もしてたし、オカルトに興味があるの? 今はそんなのを探しにきたんじゃないでしょ?」
公一はムスッとした顔で、本を乱雑に閉じた。
「お前とは趣味が合わへんなあ」
「それが何か問題でも」
「夫婦喧嘩してる場合じゃないですよ、ちゅうもくちゅうもく」
佐奈が小声で叫んだ。私と公一は彼女の元に走る。
佐奈は真っ黒い表紙の分厚い本を手にしていた。題名は埃に霞んでいるけれど何とか読める。『星十字白書』。見た目は黒いのに。
佐奈が開いているページを覗くと、彼女の指さす先に、セピア色の写真があった。佐奈の爪は少々伸びていてどす黒いものが詰まっている。あれは私に爪を立てた時に私の皮膚と血液がこびり付いたのだろう、というのはどうでもよく、その写真にうつっていたのは。
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