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380.戦隊学園 ~虹光戦隊コボレンジャー~
 ┗403

403 :げらっち
2024/08/08(木) 12:21:43

 星も1つも無いような、無機質な夜。

 蒸し暑い外を歩いていても、私の心は苦しいままだ。

 1人になっても救われないなら、会いたい人が居る。


「おじゃまします」
「何や? こんな夜にお化けか?」
「お化けじゃないよ、私だよ。静かにして、バレるとあれだから」
「七海!!」
「静かにったら」

 初めて訪れる男子寮。公一の部屋を探し出し、彼の部屋のドアをノックしたのだった。
 夜中で廊下を歩く人は少なく、フードを被って顔を隠しているとはいえ、見つかったら女子とバレてしまうかもしれない。面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。
 公一がドアを開けるなり、私は中に滑り込み、フードを取った。

「どうしたねんこんな夜中に! バレたら今度こそ退学やで!!」

 公一は切れ長の目に、痩せた頬、手入れされてない髪と、お世辞にもゴマすりにもイケメンでは無いのだが、彼が私を心配するその表情は、楓とはまた違う愛を感じ、その顔を見るなり、私は涙をいっぱいこぼしてしまった。このところ私は泣き過ぎだ。
「な、なんやねん人の顔を見るなり……」
「ごめんね。私は居場所が無いの。ちょっと居させてくれるかな。明日になったら消えるから」

 公一は私の頭に優しく手を置いてくれた。骨ばって硬い男の子の手だ。

 もう、泣かない。

「まあ榎本おらんくてよかったわ。夏休みに先んじて実家の農村戦隊イナゴレンジャーの手伝いに帰っとるからな。おったらお前ヤバかったやん。命拾いやな」
 寝巻姿の公一は、奥に入ってしまった。
「ちょっとそこで待っててや。なおさなあかんもんがあるから」
「直す?」
 何を修理するのだろう。私は短い玄関廊下を抜け公一の寝室に入る。
「わあ! 待てって言うたやろ!! くんなや!!」
 公一は急いで写真立てを隠した。
「ん? 女の写真?? 浮気か?」
「オ、オカンやオカン!」
「うわ……やっぱマザコンだ……」
 公一は私を部屋の外に押し出してドアを閉めた。隙間から覗くと、彼はパンツなりエロ本(?)なりを急いで隠していた。そういえば関西弁で「直す」は「片す」という意味だった。

 男子寮と女子寮の作りはほぼ同じだが、公一の部屋はベッドが無いため、広々としていた。
 ちょっと汗臭い。1人分の布団だけが敷いてある。
「昔から布団で育ったからベッドはどうも合わんのや」
「ふうん。私昔からベッド」
「お前とは相変わらず趣味が合わへんなあ……」
 公一は煎餅布団の上に胡坐をかいた。
「で、何で来たん? 楓と夜のお楽しみ中だと思ったわ」

 きわどいことを言う公一はやはり男子でできているんだと思い不快だが、それよりも楓の名前を聞いた途端、私の心に再び靄がかかる。
 涙腺が熱を帯び、ついさっき立てた泣かずの誓いをもう破りそうになった。
 私は鼻をすすった。

「お前ちょっと変やで」
「私はいつもヘンだよ」
「せやけど」
 私は公一の横に腰を下ろし、体育座りした。
「あのなあ、仮にも男の布団に、断りも無く上がんなや!!」
「ごめん。やだった?」
「嫌とかそういう問題じゃあらへん。常識やろ?」

 公一は結構育ちが良い。

「……評議会の時からお前変やん。無気力で、前ほどギラギラしてへんわ。前は野心の塊やったのに」

 私は布団の上に倒れ込んだ。
 公一は私の横に寝転んだ。添い寝をしている格好になった。
 多分、こんな鬱屈とした心情でなければ、ドキドキするシチュエーションだったろう。でも今は心が曇天で、青空も虹も見えない。ときめきなどあるはずない。
 しばらく黙って、白色電球を見上げていた。

 公一が、私の手をぎゅっと握ってくれた。

 大きくて指の長い、男の人の手。楓の手とは違うけど、これもあったかい。
 でも私には、ぬくもりを貰う資格なんて無い。私は振り払うように手を離した。

「私は、自分が嫌いだよ」

「俺はお前のこと好きやで」

 何だその投げ槍な告白は!!

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