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464.空があるから 雲の喜びがある
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#ネコの恩返し ─* ※背後内容濃につき注意※ その猫と過ごした時間は僅か三ヶ月足らず。けれどとても思い出の詰まった、愛おしい時間だった。 いつの間にかその猫は僕の家の庭に住み始めた。蜜柑の木に隠れるようにして身体を丸め、落ち葉の絨毯でスヤスヤと眠っていた可愛らしい猫。こんな事は初めてだったから何だか嬉しくなって、そっと近づいて手を差し伸べたら目を醒ました。けど逃げる様子もなくただ僕をジッと見つめ、やがて向こうから近寄って来た。野良猫なのに人懐こい子だなと思いながら嬉しさに暫く頭や顎下を撫でたりしていたら、か細い声で「み~」とその子が鳴いたんだ。 その時決めた。この子の名前は「みー助」にしようと。 それからみー助とは新たな家族の一員として一緒に暮らし始めた。でもやっぱり野良猫だからか、一日中庭に居る訳じゃない。僕の家の周辺を気儘に散歩しては道路に寝転んだり、他の野良猫とじゃれ合ったりしていたっけ。でも最後は必ず、僕の家に帰って来た。 玄関の扉を爪で引っ掻きながら必死に声を挙げる。“ご飯をくれ”の合図だ。住み始めた時は水もご飯も全く食べてくれなくて参ったけれど、一ヶ月を過ぎた辺りからようやく食べてくれるようになって…。痩せていた身体も少し丸みが付いて来たかなと、ご飯を与えながらそんな事を思っていた。 でも二ヶ月位経った頃から、また食べ無くなり始めた。原因は当初分からなかったのだけど、ある日みー助の悲鳴を聞きつけ急いで駆けつけてみたら、其処には口の端から血を流したみー助が居た。すると直ぐ横で動く気配を感じ見てみたら一匹の大きな野良猫が居たんだ。すぐに逃げて行ったけれど、みー助の傷はあの子に負わせられたものである事が分かった。 食欲が無いのも日々の喧嘩からだと案じて玄関先にゲージを設置し、其処で飼う事に決めた。本当は家の中に住まわせてあげたかったのだけど、本来みー助は“野良”であるという事と、家の事情で玄関先に決まった。 季節は三月近いにも関わらず真冬並の寒さ。玄関先は当然冷えていたからみー助が心配で何度もゲージの中を覗き込んだよ。毛布に包まりながら身体を丸めて眠る姿、此方をジッと見つめる姿…、どれも本当に可愛くて…愛しくて。でもやっぱり外が恋しいのか、扉を爪で引っ掻いて“出して”と訴えて来る。まだ食欲も戻っていなかったから当然体力も無くフラフラな状態だったから、始めは我慢させていたのだけど──。 “もう…そろそろなんじゃないか”と思い始めたある日の夜、外に出させてあげたんだ。そしたら今まで覚束なかった足取りが急に軽やかになって、初めて自分が腰を下ろした──あの庭先に向かったんだよね。それで同じように蜜柑の木の下で身体を丸めながら眠ったのを見て、今日は此処で寝かせてあげようと…。そう決めた。 そして、三月十一日。 「みー助、行ってくるね」 いつもと変わらず、学校へ行く前に声を掛けた。あの子の体力はもう限界で、とても鳴ける状態では無かったのに、「みー」と…鳴いてくれた。「いってらっしゃい」と、言ってくれたかのように。 その日、父は仕事が休みで家に居た。僕も昼前に学校が終わる日だったんだけど、妙な胸騒ぎがして…。帰り道は急いで家に向かった。着いたのは12時を少し過ぎた頃だっただろうか───。 間に合わなかった。 玄関先のゲージの傍らに座る父の姿を見て悟った。「遅かった」と。 中を覗いて見ると、まるで眠っているような安らかな顔のみー助が居た。…涙で顔をグシャグシャにしながら何度も何度も頭を撫でて、「ありがとう」と伝えた。──みー助、まだ温かかったんだ。温もりがあって…、だから尚更信じられなかった。でも、そうか…って。眠ったんだねって。また頭を撫でた。…撫で続けた。 父の報せを受け母が仕事を早めに切り上げてもらい帰って来たのが14時頃。家族みんなで、みー助をあの庭先で眠らせてあげる事にした。寒くないように、日の当たる処で。そっと土をかけてあげて。最後に蜜柑を添えた。 その時だ。あの地震が来たのは───。
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