chapter 10.目の中の閃光 >※グロテスクな表現有。閲覧注意。 眠れないと言っていた。 目がチカチカして眠れないのだと。目を瞑っても閃光が見える、だから目を閉じられない、眠れないと。 毎晩毎晩隣で背中を規則正しく撫でるけど、大抵いつも俺の方が先に眠ってしまって、起きると声も出さずに無表情のまま涙を流しているそいつと目が合う。 俺はその時苦しかった。そいつは俺の倍、苦しんでるように見えた。 >暗転 半覚醒の意識。生温い唇の上の感触。鼻を突くような匂い。覚えのある匂い。そうだ、これは鉄の…鉄、の。 ゆっくりと目を開けると、いつものように無表情で泣いているそいつと目が合った。 ただ、まだ部屋は暗い。恐らく深夜なのだろうと思った。 唇の上の生温い不快感は増していく。回らない頭で掠れた声で、名前を呼んだ。 「せんぱい。」 消えそうな声で返事をしたそいつに何かを言おうとして口を開けた。そしてやっと、唇の上の正体に気付いた。 これは血だ。 「…お前、何してんの…」 「せんぱい。おれ、ねむれなくて。せんぱいの顔見てたら、すごく綺麗で。まっしろで、綺麗で。唇を紅く塗ったらもっと綺麗なんだろうなあとおもって。それで。」 「…自分の血なの、それ。」 「はい。気持ち悪いことして、ごめんなさい。」 「いいよ。…おいで、一緒に眠ろう。」 ねむれないんですねむれないんです光が目の中に目の奥に光がああすごくねむりたいのに。せんぱいと一緒にねむりたいよ。アンタの夢を見たいよ。でも光が。ああこわいこわいこわいこわい。 頭を抱えて呻くそいつの背中をぽんぽん撫でて、もう一度おいでと呟いて布団の中に引き込んだ。 手の甲で唇を拭っても、鉄の匂いは消えない。 ほんとは舐め取って欲しかったのに、なんて言うそいつに俺は吸血鬼じゃないよと笑って、頭を撫でた。 一緒の夢を見れたらいいのにと思った。 いっそ目覚めない幸福な夢を二人で見続けられたらいいのになんて思って、心臓が痛んだ。 夜はまだ明けない。 俺はこいつの閃光の正体を知らない。 |