chapter 11.悪喰者 >※R18 友達に貸すと約束した本を探そうと、本棚をつらつら見ていた時。見つけてしもたんや、その一冊を。 「…あ、…。」 それは、あの人が買うてきた本やった。あの人も俺も本が好きで、休日2人で本屋に行くのはお決まりのコースやった。その本は俺が普段読まへんようなジャンルのもので、表紙とタイトルを見た時から何故か酷く惹かれた。そして何回も何回も読み返す内に、どっぷりと嵌り込んだ。 (光。お前、その本気に入ったん?) あ、はい。面白いです。こんな本今まで読んだこと無かったけど、割と好きなんかもしれへん。 (はは、そうなんや。そら良かったわ。) ー追憶。 あの人が出て行く時に、あの人が買った本は全部持って行ってると思っていた。 本好き、本喰い、ブックイーター。そんなあだ名をつけられるような人やったから余計に。俺に大事な一冊を遺していくなんて、思いもつかへんかった。本棚からその本を取り出して、炬燵に入ってペラペラとページを巡った。 「…蛙の唐揚げ、コノワタの塩辛、昆虫の踊り食い…」 所謂、悪食。 そうあの人には悪食の趣味があった。その本には世界の様々な悪食料理が載っていた。 (光、俺はこの世の総てを味わいたい。味わった事のないものを味わいたい。食事はなぁ、俺の中では首までやねん。脳に走る刺激、口内に広がる食感。それが俺の食事や。) そんなあの人に俺はよく血や肉を強請られていた。食べてしまいたいほど可愛いねんと甘く囁かれてたけど、全力で拒否していた。流石に悪食もそこまでいくと歯止めが効かんくなりそうやった。 その代わりヤる時はいつも俺の股間に顔を埋めて、長い間俺の体液を啜っていた。 (…光は花の蜜の味がするなぁ。甘いねん、不思議やねぇ。) …そんな所から流れ出るモンが甘いなんて、信じられんよ… (いや、ほんまやで?ほら、自分でも確かめてみぃや。) 細くて白い冷たい指、ベタベタになる頬、上気した肌。快感の中で聞こえていたその声を今でもよく覚えてる。 嗚呼、全てを 喰いつくしてしまいそうな 爛々と燃える 狂った目が、 消えてくれない。 「…喰われとけば、良かったんかもなあ。」 本をパタンと閉じて炬燵の上でだらしなく両手を伸ばす。あの時喰われていれば。そうや、あの時に喰われていれば。血と肉を差し出していれば、こんなに心が冷たく固まる事も無かったんかもしれへん。あの人の中で一つになれればあの人の血肉になれれば身体を巡って巡って吸収されれば。なんて思ってしまう自分も相当イッてんなあと、1人で嗤った。 |