chapter 3.ただいま。 「ありがとう。」 本文の後、2分遅れで来たそのメッセージは俺の心の柔らかい部分にぐさりと刺さって、そこからじわじわと痺れるような痛みが拡がった。 俺の心を動揺させるには充分な一言やった。 俺は友達が少ない。恋人も居ない。 せやから俺は、大切な人間が少ない。 それは一種の処世術であり、懺悔のつもりでもあった。俺は他人と関わることに酷く怯えている。怯えているから人と対峙する時、苦虫を噛み潰したような笑顔で接する方法しか思いつかへん。結果、人当たりが良えと勘違いされる事もあるけど、ほんまは違う。 俺はそんな方法しか思いつかずにまた善処しようともしない、弱虫で無精な人間や。 (せやから、人との関わり方に関して俺は度々間違える。そのミスが暴発するのは主に恋愛面で。俺は好きな相手にどう接したらええんか分からへん。) 昔。俺がとてもとても大好きだった子に、俺は「病んでる。」と表現された。 俺からすればストレスを感じる度に自ら血を流してみたり胃液を吐きまくったり何も食べられなくなったりするあの子の方がよっぽど病んでると思っとったんやけど、どうやら違うらしい。 俺らは二人とも、その時まさに、絶好調に病んでいたらしい。 「外見は造れるのに、どうして心は造れないのかと悩みます。」 絶好調に病んでる二人が行き着く先は終わりか破滅しかない。 俺らも例に則って、それはもう見事に無様に破滅した。罵り合い叫び合い傷つけ合い泣き合う最低な別れ方やった。最後にしたセックスすらもまるで獣の食い合いような暴力的なものになってしまった。 「ありがとう。」 せやからこそ、その言葉は俺にとってもうどうしようも無い言葉やった。 俺の心はその言葉一つで崩壊する物が多過ぎる。立っていられへんくなる。吐き出せる言葉。吐き出せる場所。何も無い俺には、それが必要になる。 やから、ただいま。 そう長くはならへんと思うけど。もう一度この一冊、お借りします。 |