月を見ようとカーテンを開けたら真っ白で何も透けてなかった。結露の本気を見た気がした。冬の本気なんて、そんなのとても勝てない。諦めた。彼は俺の小さな望みすら凌駕するのだ。月は見えない。仕方が無くなったから指先でいびつな星を生産した。撫でた窓は酷く冷たかった。つめたい漆黒を混ぜ込んだ窓に俺はとても安心したけれど、安心してこれを書いている内に俺のいびつな星はまた湯気に充てられ透けない硝子は元通り外界を遮断した。失望した。嘲笑われているような気がした。すべてきみはむいみなんだよと言われている気がした。
馬鹿だな、と思った。月が見たいなら窓を開けて、濡れた指はカーテンで拭えば良い。それだけの事なのに。ぎこちなく呼吸をする生き方を選択しようと思わない。なのに肺は何時でも酸素不足で、月はきっと嗤っている。早く梅が咲けば良かった。早く泣いて地面を散らして欲しかった。絶望を拾い上げる彼の掌にようやく美学を思えるのだから。