こんがり焼いたバケットに、冷たいバターとメープルシロップ。蜂蜜は苦手。薫り立つ紅茶に砂糖とミルクをたっぷり掻き混ぜて飲み下す。美味しくて、涙が出た。

　好きって云ってよ。其れだけで良いわ、もう充分。

　それで　　なんて、笑っちゃう。女の子はね、嘘の上手な人が好きなのよ。
　遠い向こうから、アンタの幸せを願ってます。さようなら。

　待機して数時間。あたし、この世界に向いてないのね。でも止めらんない、一度味をしめたら人間誰しもそうじゃない。暫くはね。ねえ、桜乃。

　駆け引きが巧い人は羨ましい、と、思う。中でも無意識に行う、計算要らずの謂わば経験値。俺はそういう風に遣り繰りしたり上手に引き合う事が不得手なものだから、何時か厭きられてしまってはと柄にもなく不安にだってなる。格好悪ィ。
　関係性は如何であれ、彼処まで想われる相手が居る事が羨ましくて、且つ憎らしいと思っちまう自分が嫌だ。

　嘘を吐く時の癖。有る人、居るよな。

　昨夜に途切れた聲を手繰り寄せる術は、俺には無かった。（嗄れる迄・叫んで、叫んでも。― ）今朝、連絡が来た。正しく誘惑だった。突っ跳ねる腕はとうに蕩けて彼の一部になっている。

　口吻けをした。
顎を掬われ、雑音を消し去る様に。あの貌からしては柔らかい、小優しいものだった。文字通り、口吻で腰を砕かれるのは人生で二度目だ。嘲るでもない甘ったれた表情と呼吸に脳味噌が、痺れた。