何時か何処かで、俺と彼の想いのベクトルが同じ方向を示す事が在るのだろうか。
好きだと言えば自分もだと頷いてくれる。
けれども、決して彼から好きだとは言ってくれない。
そう断言出来る程の気持ちは無いのだと、明瞭と突き付けられた。
始めから薄々気付いていたとは言え、胸が疼く様に痛んだ。

彼を責めるつもりは無い。
例え愛が無くとも、傍に居られれば幸せだと云うのは本当だから。
好きだと思わせてみせる、と云う宣戦布告も嘘では無いから。
今は只、傍に居て曖昧な安心と温もりを共有出来ればそれで良い。


愛してる、と何時か彼の唇から発せられた彼の声で、聞いてみたいと思う。
その為にも、俺は幾つもの好きと愛してるを重ねていく。
今日も愛してる。
明日はもっと愛してる。

彼は、本当に狡い。
俺があんな日記を書いた直後にメールを送って来た。
この日記がバレてるんじゃないかと疑う程、絶妙なタイミングだった。
あんなタイミングでメールを貰ったら、期待せずに居られないじゃないか。


好きだ。
如何しようも無く好きなんだ。
…愛してる。
これは未だ、彼に直接は言えない。

彼と付き合い始めてから、俺は段々と我儘に為る。
我慢が利かなく為る。
毎日彼に会いたい、声が聴きたい、触れ合いたいと望んでしまう。
もっと俺を想って欲しい、意識して欲しいと願ってしまう。
そんな自分の醜い欲求を、鋭い彼に悟られてしまうのではないかといつも不安になっている。
本物の恋をすると人は弱く為るとよく言うが、あれは間違いでは無いのだろう。


昨日は彼からメールが来なかった。
それは珍しい事では無い。
今までは数日返事が来ない事など、別に普通だった筈だ。
けれども、ここ数日は毎日話していた所為か、たった一日連絡が途切れただけでもどかしく思う自分が居る。
…俺の悪い癖だ。
関係が少しでも進展すると、直ぐに調子に乗ってしまう。
それが原因で、壊してしまった関係も在ると云うのに。
また繰り返すのは御免だ。


まだ、彼にちゃんと好きだと言われた訳じゃないんだ。
俺と付き合っても良いと…俺を知りたいと言ってくれた彼の為にも、もっと厳しく自分を律さなければ。

会いたい。
今、無性に彼に会いたい。
寂しいのかも知れないな。
でもここ数日はいつも俺からメールしているし、昨日彼は疲れている様子だったから、こちらから会いに行くのは躊躇ってしまう。

そんなに脆い人間だと思われたく無いと、妙なプライドが邪魔をする。


それでもやっぱり、
会いたい。

R-18


最低。
今の俺を一言で表すなら、この単語に限るだろう。

疲れからか会うなり早々に眠ってしまった彼の穏やかな寝顔を見つめながら俺がした事と言えば、髪を撫でるでも無く口付けるでも無く、自家発電だった。
幾ら彼にしても良いと言われていたからと云って、彼の寝顔を見ながら眠っている彼の傍らで自慰に耽るなんて、我ながら情けない。
だけど仕方ないだろ、好きなんだ。欲情だってする。俺は健全な男子なんだからな。
…と、意味も無く言い訳を並べてみたりする。


今夜もまた夜更かしだ。
しかもまだ眠れそうに無い。
夜の間に勝手に彼の布団へ潜り込んだら、怒られるだろうか。