十代が体調を悪くしてしまった。
明日は雪かと驚いたが、随分とつらそうな様子に心が痛んだ。
移るからと側に寄る事を拒むのでマスクをして寄ったが、布一枚あるだけで随分もどかしい思いをした。
最近の無理が祟ったのだろう、よく休んで早くよくなって欲しい。
でなければキスも儘ならない。
穴が開くほど見つめられたので心臓に穴が空いたと苦しんでみたら大慌てで心配された。
冗談だったのだが…。
空いた穴はキスで塞がれた。
…
俺は過去の行いのせいで心臓の機能が落ちている。
普段生活をすることに支障はないが、激しい運動は出来ないし、調子が悪い日は血圧や脈拍が安定せず不調が体に出るので少々辛い。
ディスクや装置を使ったデュエルは激しい運動枠なので医者に控えるよう言われてしまった。
残念だ。
以前体調が悪いと言ったら十代が全て投げ打って帰ってきてくれた。
俺にとっては日常だが十代には伝えていなかったのでどの程度か計りかねたのだろう。
申し訳なくも嬉しかった。
十代はとても甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれるのだ。
図々しいようにも感じるが、愛されているのだと実感する。
…
眠気に負けておやすみというたった一言が言えなかった。
十代に寂しい思いをさせていないだろうか。
体を機械に変えてしまえば四六時中お前と過ごすことができるのだろうか。
一瞬で見つかってしまった…勘の鋭いやつだ。
…
十代を見つけたのは珍しく眠れなかった深夜のことだ。
星の綺麗な夜だった。
流れていってしまう直前だったお前の言葉を目にしたのは偶然で、声を掛けるかどうかとても迷った。
懐かしい姿で佇むお前に変わってしまった俺ではどのような体で声を掛ければ良いか分からなかったのだ。
もうあまり覚えていないが、随分と簡素な連絡をしたように思う。
後から聞けば他にも懐かしい顔ぶれから多く連絡があったらしい。
十代には人を惹き付ける天性がある。
返事は来ないか、もし来たとしても随分先の事だろうと高を括って眠ったのだが、起きたらお前が居て流石に驚いた。
俺の元に来たのはほんの気まぐれだったのかもしれない、きっと旅先から俺の家までが近かったのだろう。
すぐに出ていくとおもっていたので少し素っ気ない態度を取ってしまったこともあったが、約束という名の縄で少しずつ縛り重ねたお前が今もこうして俺の隣に居ることを嬉しく思う。
果たして俺はこの先お前を解放してやることが出来ないだろう。
朽ち果てるまでこの腕の中に閉じ込めておきたい。
お前に亮と呼ばれるのが好きだ。
普段はカイザーと呼んでいるのできっと意図的なのだろう。
お前がふらりと部屋に訪れた頃、カイザーはカイザーのまま変わらないと言っていた。
あの頃の瞳のまま俺を見上げる視線が眩しかった。
それが誇らしくも、俺たちの間にある埋まらない距離の象徴のようで、俺の名は亮だと叫んだのは届かない指先がもどかしかったからかもしれない。
甘い声で亮と呼ばれるとき、俺は何者でもない、十代が好きなだけの只の男に成り下がる。
その瞬間が心地よいと感じるのはお前に心底惚れ込んでしまったからなのだろう。
だが休憩の合間に思い出すのは少々考えものだな、仕事が手につかなくなる。
…
今日は十代を見掛けないと思ったら夜になって落ちていた。
ライフがほぼ尽きかけていたが…随分とハードな1日だったらしい。
十代のライフは文字通りライフポイントな気がしてならないのはいつかの異世界の名残か。
俺のサイドデッキには回復用のカードを常に仕込んであるが、もう少し増やしたほうがいいだろうか…。
言いたいことを言って髪を乾かしてと強請ってきた十代が大変愛らしいのでもうしばらく眠らないようカフェインを取っておこう。
…
見て欲しい気持ちと見られると恥ずかしい気持ちが混ざってつい回りくどいことをしてしまった。
十代は気付くだろうか。