熱に浮かされて随分と長い夢を見ていた。
覚えているものは半分も無いだろうが、その中で感じた幸せや悲しみといった感情だけは目覚めた後も妙に心に残っている。
内容は過去の記憶に似たものから己の願望が反映されたものまで節操なく。
その中でも特に赤色は鮮明に覚えている。
…
最近の十代はどうも俺の枕を抱えるのが好きらしい。
俺の匂いがするからだろうか。
本人を目の前にしていい度胸だ。
必ずクリーニングに出して匂いを消してやる。
…
十代が自分の荷物に意識を向ける時は何か大事な話がある時だ。
事と次第では出ていってしまうのではないかと不安になるので好きではない。
バラして部屋のあちこちに隠してしまおうか。
それでも愛想がつきたら出ていってしまうのだろうが。
十代の体調が元に戻ったようで、心から安堵している。
あの日俺のせいで部屋に縛りつけてしまった事に少しの申し訳なさを感じつつも幸せだと思ってしまった。
慌ただしさが落ち着いたと、今は部屋で過ごしているお前を眺めるたびに愛しさが募る。
…
悪い夢を見たと不安になるお前をどうやって慰めれば良いだろうか、俺にはお前に傷痕を残すことしか思い浮かばなかった。
人の理からほんの少し外れてしまった十代の体は怪我をしてもそれほど時を置かずに修復されてしまう。
俺のつけた傷痕も、すぐに消えてしまう。
何度でも刻みいつか消えないアザにでもなってしまえばいい。
お前のその生に少しでも刻まれるものがあればいいと願ってやまない。
…
時折、お前がひどく愛おしく、同時に全てを喰らってしまいたいという凶暴な衝動が、抑えきれない。
十代が体調を悪くしてしまった。
明日は雪かと驚いたが、随分とつらそうな様子に心が痛んだ。
移るからと側に寄る事を拒むのでマスクをして寄ったが、布一枚あるだけで随分もどかしい思いをした。
最近の無理が祟ったのだろう、よく休んで早くよくなって欲しい。
でなければキスも儘ならない。
穴が開くほど見つめられたので心臓に穴が空いたと苦しんでみたら大慌てで心配された。
冗談だったのだが…。
空いた穴はキスで塞がれた。
…
俺は過去の行いのせいで心臓の機能が落ちている。
普段生活をすることに支障はないが、激しい運動は出来ないし、調子が悪い日は血圧や脈拍が安定せず不調が体に出るので少々辛い。
ディスクや装置を使ったデュエルは激しい運動枠なので医者に控えるよう言われてしまった。
残念だ。
以前体調が悪いと言ったら十代が全て投げ打って帰ってきてくれた。
俺にとっては日常だが十代には伝えていなかったのでどの程度か計りかねたのだろう。
申し訳なくも嬉しかった。
十代はとても甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれるのだ。
図々しいようにも感じるが、愛されているのだと実感する。
…
眠気に負けておやすみというたった一言が言えなかった。
十代に寂しい思いをさせていないだろうか。
体を機械に変えてしまえば四六時中お前と過ごすことができるのだろうか。
一瞬で見つかってしまった…勘の鋭いやつだ。
…
十代を見つけたのは珍しく眠れなかった深夜のことだ。
星の綺麗な夜だった。
流れていってしまう直前だったお前の言葉を目にしたのは偶然で、声を掛けるかどうかとても迷った。
懐かしい姿で佇むお前に変わってしまった俺ではどのような体で声を掛ければ良いか分からなかったのだ。
もうあまり覚えていないが、随分と簡素な連絡をしたように思う。
後から聞けば他にも懐かしい顔ぶれから多く連絡があったらしい。
十代には人を惹き付ける天性がある。
返事は来ないか、もし来たとしても随分先の事だろうと高を括って眠ったのだが、起きたらお前が居て流石に驚いた。
俺の元に来たのはほんの気まぐれだったのかもしれない、きっと旅先から俺の家までが近かったのだろう。
すぐに出ていくとおもっていたので少し素っ気ない態度を取ってしまったこともあったが、約束という名の縄で少しずつ縛り重ねたお前が今もこうして俺の隣に居ることを嬉しく思う。
果たして俺はこの先お前を解放してやることが出来ないだろう。
朽ち果てるまでこの腕の中に閉じ込めておきたい。