理由は多分ない
ぼくたちは……正式にはぼくの家だが、まあそこそこ広い家に住んでいる訳で、当然別々の部屋で静かにしていれば相手の気配をそう感じることがなくてね。自らこういう表現をすると肌が粟立つけれど、いわゆる愛し合ってる恋人同士ならその静寂に寂しさを覚えるのも致し方ない。とはいえ四六時中ベタベタベタベタと意味もなく身体を寄せ合うのも、ペチャクチャペチャクチャと口から生まれてきたみたいに話すのも性には合わないし考えものだ。だからせめてと、互いに意味もなく呼び合い、その存在を確認することで満足して各々の作業に戻る、という恒例行事がぼくとそいつの間にはある。それで、先日も「露伴くん」としつこく何度も呼んできたから、渋々呼び返してやったんだ。そいつの名をね。そうしたらあいつは白々しくこう言った。「なあに?」と。…………はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜?何、はこっちの台詞だろうがッ!そう不満を前面に出して突っぱねれば大層ご機嫌にそいつは笑っていたが、未だに納得がいかない。なんでぼくが先にきみの名前を呼んだみたいになってるんだよ。罠か?