食とは手軽に得られる幸福である
「お腹が空いた」と言うからじゃあ何か食べればいいんじゃあないのかと当然の台詞を吐いた。そうしたら一体なんて返ってきたと思う?「面倒臭い!」の一点張りだ。そこで相手がこいつでさえなけりゃあ、ああそうかいじゃあ腹が減ったなんてわざわざぼくの前で口にしないでくれないかとあしらうところだが、ぼくという人間はこいつには滅法弱いので、けれども自宅に赴いて手料理を振る舞ってやるほど甲斐甲斐しくもないから、わかった、そういうことなら今夜は君の家に宅配でも頼んであげようかとこの優しいぼくは提案してやったわけだ。とはいえ時間も時間で開いてる店はそこそこ、その上ヤツはそんじょそこらのガキじゃあ匹敵しないほど好き嫌いが多い。野菜は当然、ジャンクフードも微妙。好きなものは麺類。しかしラーメンは醤油のみ。宅配のラーメンは曰く美味しくない。ええ〜いおまえは一体何が食べられるんだッ!手当り次第あれよあれよと探してみたとて野菜エトセトラ、ヤツの嫌いなものが入ってなさそうなものといえば生憎コンビニのホットスナックしかないんだが?は、ポテトに唐揚げ?そんなものは食事としてカウントできるわけがないねッ!埒が明かない宅配はナシだナシと諦めたぼくが、君が飯を食わないっていうならぼくも絶食してやるからなと脅したらそいつは渋々支度を始めた。やればできるじゃあないか。次は最初からそうしてくれるよう頼むよ。
飯を食ったと思えば秒で寝やがった。その成長期のガキくらい早い就寝に、オイッ!!こいつ正気か?このぼくを置いて?いい度胸だな、引っぱたいて起こしてやろうかと一瞬考えたが、そういや夜半から起きっぱなしだとかなんとか言ってたことをすぐに思い出した。身体を壊しちゃあ元も子もない、今日は文句を言わずにあいつのマヌケな顔を想像しながらひとりの夜を過ごすことにしよう。ぼくはやさしいからね。
追記
これを読み終えたあと、そいつが「食事を終えたらすぐに眠ってしまうだなんて、まるで動物みたい」だなんて他人事のように笑うから、君のことだぞ、と。釘をさしておいた。