スレ一覧
┗
1649.dowód
┗44
44 :
オクジー
2025/05/05(月) 05:17
2025/05/02
「夜明けを見に行くぞ。」と叩き起された。まだ夜は深い。あの人は元気そうだ。昨日早く休んでおいて正解だった。俺が比較的すんなり起きたからだろうか、あの人は分かりやすく上機嫌だ。朝日の昇る時間を調べて、ロケーションの良い場所を調べて、準備を整える。GWは色々忙しくて遠くへ出掛けるような予定を立てられなかったけど、これは特別なデートだ。俺が以前好きだと言った服を着てくれていた。出かける前からもう嬉しくなる。覚えててくれたんだ。けど夜明けを見るのには少し寒いんじゃないだろうか。せめて俺が少し防寒性の高い格好をしておいて、寒そうにしていたら上着を預けよう。
星がはっきり見える頃に家を出る。ここから車で1時間半の山奥まで。そこからなら明けていく空がよく見えるだろう。あの人が見つけてくれた場所だった。行先は大抵あの人が決める。そこへ向かう目的も。何もせずについて行くだけなのはいつも申し訳ない。あの人はちっとも気にせずに「君には運転を任せてある。」と言ってくれる。俺は何かを決めるのが苦手だから有り難い。それに、目的を決めるときのあの人が好きだ。真剣そのもので、それでいて子供のようにわくわくしている…ように見える。「今日の行き先が決まったぞ。」と告げる自信に満ちあふれた表情を見ると、それだけで愛しくなる。
夜明け前には目的地へ到着した。辺りはまだ暗かった。それでも遠く東の空には朝の気配のような明るさがほのかに灯っている。山道を歩く。さほど道が悪くなくてよかった。上の方は風が強い。やっぱり寒かったようなので上着を脱いで羽織ってもらった。「君が寒いんじゃないか?」としきりに言うが、もともとあの人のために調整できる格好にしておいたのだ。困ることはない。結局は観念して着てくれた。彼コートだな…と思うと愛しさが増す。あの人が知ったら俗っぽい考えだと眉をひそめられるだろうか。照れ隠しな気もするが。
初めに気づいたのは鳥の声だった。夜明けが近づくにつれて、徐々にさえずりが賑やかになる。こんな風に鳥の声が朝を告げるのを実感したのはいつぶりだろう。日の出そのものも美しいけど、その直前、空全体が刻々と色を変えていく時間に圧倒されていた。ついさっきまで綺麗に星が見える暗い夜だったはずなのに。 考えているうちに空の色が瞬く間に変わっていく。夕焼けの優しい色とは違う、もっと鮮やかで明るいグラデーションだった。雲も少しはあったけど、それが染まる空は何も無いよりよほど奥行きを感じるようだった。山間の開けたところだったので、普段よりも空が高く広く見えた。
この光景に感動できるのは、あの人が連れ出してくれたからだ。いつも俺の知らない感動をくれる。隣にいるあの人が同じように美しい景色に心を動かしていてほしい。あの瞳で、真っ直ぐに空を見上げて。あの人の満ち足りた表情を見ることが俺の感動の完成なのかもしれない。
[
削除][
編集]
[
戻る][
設定][
Admin]