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バデーニ
2025/05/08(木) 12:06
2025/05/08
昔から写真が好きじゃなかった。
画期的な物だとは思う。これがあれば人に何かを見せたい時、寸分違わず同じものを共有することが出来る。自分の記憶に歪められることもない。
…厳密に言うと私が嫌いなのは所謂ポートレイトと呼ばれるものだ。自分の写真を撮られることも、人の写真を撮ることも抵抗がある。写真というのは、どうやったって過去の記録でしかない。思い出と言えば聞こえは良いが、私が生きたその瞬間も、写真にしてしまえば過去になる。それに必要性も感じない。大事なのは私が何を成したかであって、私の外見やその時の感情、表情等は記録として一切必要ない。もちろんこれは自分以外の人間に対しても思うことだった。
オクジー君も元々はそういう人間だった。恐らく私と違って写真は記録でしかないだとか、必要性を感じないとまでは言い切らないだろうが。苦手、若しくは興味がなかったはずだ。
だが、共に居る内に、いつからか彼は私を撮るようになった。
誰でも簡単に写真を撮れるような時代だ。私も彼も、無駄に高性能なカメラが付いた携帯をそれなりに使ってはきた。撮るものといえばほとんどが星や海など、綺麗な景色ばかりだったが。オクジー君はその綺麗な景色の中に居る私が好きらしい。
初めのうちはやめろ、すぐに消せ、など言っていたんだが、オクジー君があまりにも写真を見てにこにことしているものだから段々悪い気はしなくなってきた。なんだったら最近は花畑なんかに連れていき、撮るか?などと自分から提案している始末。
オクジー君の写真フォルダは綺麗な景色と、私の写真でいっぱいだ。対して私の方は仕事で使う資料など、必要最低限のものしか保存していない。景色も撮るには撮るが、限られた見せたい相手に伝われば十分なので、送ったそばから毎回消している。容量を圧迫するのは好きじゃない。
…だが、本当にこれで良いのだろうか。最近になってそう考えるようになった。私が居なくなったとしても、オクジー君が撮ってくれたもの達が確かに私はここに居たのだと証明してくれるだろう。なら、彼自身は?彼がどういう顔をしていて、どういう背格好をしていて、どんな表情で景色や私を見ていて、…そういうものを寸分違わず、歪められず、思い出すことが出来るだろうか。
そう思うと途端に恐ろしくなり、最近は少しずつ彼のことも撮るようになった。今のところ寝顔だとか花を見ているところだとか、隠し撮りが多いが。
きっとこの無意味に思える行為に救われる日がくる。彼はいつも私が残しておきたいと思えるものを与えてくれる。
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