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50 :
バデーニ
2025/05/19(月) 14:48
2025/05/19
「バデーニさん、あの赤い星は何ですか?」
「あれはアルクトゥルスだな」
その右下にある青白く光っているのが乙女座のスピカ、そこから更に北西に線を伸ばすと2等星のデネボラがある。これを春の大三角と言う。…そう告げた時の、横顔。これが浮かぶということは、当時は意識していなかったが私はこの時、星ではなく君を見ていたんだな。と、今更ながらに自覚した。
オクジー君は私とのそういう何気ない会話を覚えていて、この間も春の大三角について、私が教えたそのままの言葉を呟いていた。大切にしまってあったものを、愛おしむような声音で。文字をなぞる時の指先のような優しさで。
それを聞いた時私は「よく覚えているじゃないか」と大型犬でも愛でるように彼をわしゃわしゃと撫で回した。どうしようもなく好きだという気持ちをどうにか彼に悟られることなく、誤魔化すように。…まァ犬のようだと思っているのも本音ではあるが。彼は本当に可愛い。
こんな明るい街中じゃ、私の目では3等星すら見えるか怪しい。実際彼には見えて、私には見えない星座なんてものもよくある。
「あそこにからす座がありますよ、ほら」
彼が空を指でなぞる。その動きを目で追っても、やはり何も見えない。薄く雲がかかっていたり、目の調子が悪い日はこんなものだ。
だが今はもうそれを悲しいとは思わない。彼がそこにあるものを大切にしてくれるから、これ以上の幸福はない。
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