これは随分前の話だけれど、釣りってものをしてみたことがあったんだ。
そうそう、海や川なんかで魚を釣るあれだよ。一応の手ほどきなんかも受けてはみたものの、そのときは、残念ながら面白さがわかるまではいかずに、終わってしまったんだよね。釣り好きの市民の話なんかを聞く機会があっても、はまる人ははまるんだなぁ……って、余所事のように思っていたものさ。
ところが、しばらく前から、エメトセルクもふとしたきっかけで釣りを始めたみたいでね。ほら、彼はすごく真面目だから、それはもう熱心に取り組むわけさ。餌を変えてみたり釣り場を調べたり当日の天気を予測したりしてね。大変そうに見えても、そうやって色々と準備を進めるのが実は楽しいっていうタイプだからねエメトセルクは。
そんなに夢中になれるものなの?って聞いてみたら、「そうだな……鳥のさえずりや木々のざわめく音を聞きながら、自然の中で静かに釣り糸を垂らしている時間は、まぁいいと思える」と、なんだかしみじみと話していた。……フフフ、なるほど。なかなか充実した釣りライフを送っているようだ。
そんな影響もあって、長年ホコリを被っていた釣り道具を持ち出してみたんだよ。そしたら、エメトセルクが色々と世話焼きを発揮してくれてね!釣り餌を選んでくれたり、ちょうどいい釣り場に案内してくれたり。釣り方の指南やなんかもしてくれるものだから、それはもう快適に楽しんでしまった。
……うーん、今までワタシは、楽しさにたどり着くまでの労力を支払うことを怠っていたんだろうと反省したよ。エメトセルクがお膳立てしてくれたおかげで今回は楽しむところまで行き着くことができた。あるんだよねぇ……往々にしてこういうことが。今回も例に漏れず、親友のありがたさを思い知ったってわけなんだ。
ワタシ自身は無趣味極まりないと長いこと思っていたんだ。趣味やなんかでも、新しいことを始めるのはそれなりに労力がいる。楽しさが労力に見合う対価だとするなら、労力の方が勝ってしまって続かないんだよね。自分ひとりだけの楽しみのためだし、まあそこまではしなくてもいいかなぁ……って。
だけど、エメトセルクと一緒なら話は別さ。そもそも支払うべき労力をかなり減らしてもらっているわけだし、得られる楽しさは倍以上になる。ひとりじゃ続かない趣味だとしても、彼となら楽しめるっていうのも当然の話だ。
エメトセルクと一緒に過ごすようになって、いつの間にか、楽しいと思えることが増えている気がするよ。
この状態……もはや、ワタシの趣味はエメトセルクだと言ってしまってもいいかもしれない。