フフフ……キミってば、そこまで言ったのなら、調子に乗るなという方が無理な話さ!
エメトセルクは昔から、没頭するとそればかりになってしまうところがあるんだよね。興味のある研究が発表されると、関連する資料を気の済むまで読み尽くそうとする。しかも読み終えたものでも、途中で新たな発見があれば、始めからもう一度読み返す徹底ぶりなのさ。自分の分野のことはひとつも漏らさず知っておかないと、どうにも気が済まないらしい。フフ、夢中になることがあるのはいいことだけどね。
そんなエメトセルクだから、ときには眠ることを後回しにしてしまう。もともと眠りにくい体質なのもあるけれど……まあ、それなりに心配にはなるよね。
この前もそうだったなぁ。高い塔の隙間から朝の光が差し込み始めたころ、ふと目を覚ますと隣にエメトセルクの姿がなかった。昨日の夜はたしかに一緒にベッドに入ったはずなんだけど……。欠伸しながらリビングへ行けば、エメトセルクはそこで本を読んでいた。どうやらワタシが眠ったあとも、エメトセルクはずっと起きて読み物に没頭していたらしい。眠れなかったのかい?と尋ねると、そうだと言う。それはお気の毒に……と彼の手を引いて、ベッドへ連れて行って、ついでにワタシもと横になってほんの数分抱きしめていたら、エメトセルクってば、ストンと眠っちゃうんだ!数分なんて書いたけど、体感としてはもっと速かったかも。規則正しく聞こえてくる寝息が愛しい。フフフ、催眠の術の類は使っていないはずなんだけどなぁ。
……さてと、問題は、ワタシがこれから仕事に行かなきゃならないってことだ。腕枕にぴったりくっついて眠っているこの何より愛しい冥王様からどうにか離れて出かけるだなんて至難の業だ。このときほど彼の温もりを強敵と感じたことはないよ。……大型審査さえなければ絶対離さなかったのに!……と、いうわけで、ワタシは創造生物くんにエメトセルクを託して、泣く泣く仕事へ出かけたわけだ。ちゃんと大人しく彼の眠りを護っていたようだから、どうやらワタシの話をよく分かっているらしい。フフ、優秀な子だと思うよ。
エメトセルクにあとから話を聞くと、少しバツが悪そうに教えてくれた。
「……お前が抱きしめると温かくなって眠くなるんだ」
なるほど、この季節はたしかに冷えるから、体温が低めのエメトセルクは余計に眠りにくいんだろう。ワタシだって標準的な体温だと思うんだけど……彼を暖めることができる程度の温もりがあるならまあいいかな?
「そこの獣もお前も、寝ている時に発熱しているのかというほど暑くなるんだが……どうなっているんだ」
……だなんて、フフフ。どうやらワタシたちは冥王様の湯たんぽ代わりにちょうどいいみたいだ。件の創造生物くんには、ワタシがそばにいられないときの、代わりの湯たんぽ役として大いに役立ってもらうとしよう。