スレ一覧
┗1233.掌底と憧憬(11-15/42)
▼|
前|
次|
1-|
新|
検|
書
15 :
ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:39
「結婚しない?」と告げられた言葉は酷くシンプルで、だからこそ僕を混乱させた。いつも通りの放課後、いつも通りの部室。違うのはこの日が恋人関係になって二年の記念日だということと、ボードゲームの代わりにテーブルに広げられた一枚の用紙。これが何なのか分からぬほど馬鹿な僕ではない。本気ですか、正気ですか。尋ねようとして顔を上げ、表情で彼が本気且つ正気であることが分かった。……この人はいつの間に、こんなに良い男になったのだろう。
人と目を合わせることができない人だった。人から傷付けられる前に自分から傷付きに行く人だった。問題が起きた時は『諦める』を選ぶ人だった。…ねえ、問題だらけですよ、あなたと僕。種族の違い、あなたの家とあなたの立場、生きてきた環境の差、進むべき道。僕達が一切を構わずに恋を謳歌できているのは、ここが学園という守られた箱庭だからだ。箱庭を一歩でも出ようものなら、もう何も自分達を守ってくれない。それでもこの人は僕を諦めないというのか。弟の魂の次に、僕の存在にしがみ付いてくれるというのか。
問い掛ける声音は、思ったよりも震えていたらしい。彼はなぜか天を仰いだ後、穏やかな眼差しと共に「勿論今直ぐには無理だけど、きみが卒業したら迎えに行くよ」と言った。その時にやっと確信した。僕達には未来がある。二年の間に恐ろしい程良い男になったこの人は、既にそれを見据えている。
「だからサインして欲しいんだけどだめ…?」と次第にしおしおと弱気になる彼に微笑みかけてペンを執った。将来を誓い合うには神父もいないし左の薬指は空いているし、この婚姻届は今はただのままごとに過ぎないけれど。良いでしょう、未来永劫あなたと共にいましょう。箱庭を出たその先で、沈むのが深海の底でも、潜るのが冥府の門でも。
(2020.10.13)
[
削除][
編集]
14 :
ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:38
僕が回復した途端に彼が体調不良でダウンするとは、何の因果か。弱っちぃ彼は何故か自らが弱っちぃという自覚がないようだが、傍から見れば本当に弱っちぃ。
さて、イデアさん。あなたは目が覚めた後恐らくこの日記を覗くと思いますが、弱っちぃをこれだけ連発すれば否応なくご自分を弱っちぃと認めざるを得ないでしょう。そういう訳ですから、無理して起きて行動しなくて結構。まだ時間に余裕があるのなら、僕を抱き締めて二度寝してください。
あなたは弱っちぃですが、無理して強くなる必要もありません。どうぞ存分に僕を頼ってくださいね。
(2020.10.04)
[
削除][
編集]
13 :
ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:37
ブロット管理に失敗した。とは言っても魔力ではなく、心の方である。
数日前から予兆はあった。食堂のテーブルに放置された食べ零しがやけに気に障ったり、常なら何てことのないジェイドの嫌味を受け流すことができずに反射的に下顎にアッパーを喰らわせてしまったり。
そして今。端的に言うとメンタルオーバーブロットを起こした僕はグズでノロマなタコモードになり、自室の布団の中で丸くなっている。また、同じ空間にはもう一人、僕の恋人がいる。SOSを受けた彼は嫌がることなくこの寮まで来て、部屋に入るなり「相変わらずラブホみたいな部屋ですなぁ草」と言った。それきり黙りこくりベッドを背凭れにして床に座り込み、ずっとスマホを弄っている。彼のこういうところがとても好ましい。僕の領域には決して土足で踏み込まず、必要以上に刺激もせず、ただ、傍にいてくれる。
一眠りして夜中になっても、彼は起きているだろうか。名前を呼んだらブルーライトで焼かれた瞳を此方に向けてくれるだろうか。手を伸ばしたらこの布団に潜り込んできてくれるだろうか。
目が覚めたらこの心が少し回復していますように。ここ数日の不調を共に笑い飛ばす相手は、あなたがいい。
(2020.10.01)
[
削除][
編集]
12 :
ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:34
彼が喋る度にきらきらと眩しく見える、と気付いたのはいつの頃だったか。もしやシュラウド家の人間は髪が燃えているだけではなく、星でも吐いているのでは?と馬鹿げたことを大真面目に考えていたことすらある。
普段のボソボソとした喋りは仄かに明るい。彼曰くの陽キャに囲まれて怯えながら吃っている時は今にも消えそうだが微かに発光している。部活中に煽り合っている時はチリチリと焦げ付くように光って見える、これは怒りのせいかもしれないが。夢中になっているものについて語る声は熱量に比例して輝きも増す。アズール氏、と名前を呼ばれると柔らかな光が降り注いでくる。恋情を伝えられると煌きの中で眩暈がするほど。
星の光は命の最期の輝きなのだと聞いたことがある。彼は自らの命を燃やして言葉を輝かせているのだろうか。だからある日突然ぽっくりと死んでしまいそうに見えるのだろうか。……死なせてたまるものか。僕は自他共に認める強欲な人間だ、彼の命の手綱でさえも自分が握っていないと気が済まない。
彼が死んだりしませんように。どうかこの眩さの海の中で僕がこれからも生きていくことができますように。そう祈りを込めて、今日も彼の名前を呼ぶ。イデアさん、大好きですよ。
(2020.09.16)
[
削除][
編集]
11 :
ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:32
「拙者はアズール氏のストーカーであるからして、この結果はおかしい」
相性診断。設問の選択肢を数回選ぶだけで二人の相性が分かるという、所謂お遊び。同級生の間で話題になっていたそれのURLを部活中に開くと、対戦相手であり恋人である彼は案外素直にやり始めた。てっきりこんなものはリア充のためのツールであり云々だとか言うものと思っていたが、どうやら自分もリア充の一員だという自覚はあったらしい。そして数分後、できたよ、という声と共に示された画面には『相性14%・ガン無視の関係』の文字。──…は??????
14%?????普通こういうものは80%くらいにはなるんじゃないのか。何だ14%って、まさか15点満点か?いや点数じゃない落ち着け、パーセントだ。しかしお遊びとはいえこの結果は受け入れ難い、確かこの診断は4択×10問、ならば100%にするためには4の10乗、1,048,576通りを試せばいずれは達成できるはず。できるか?できる。僕ならできる。混乱しつつも気の遠くなりそうな行程を前に決意を固めた僕の耳に届いたのが、冒頭の台詞である。
彼は尚も続けた。「そもそもガン無視とは何事か?診断殿におかれましては拙者のストーカー具合を舐めないでいただきたい」自信満々に言い切る彼に思わず笑いが込み上げ、そして得心が行った。事実、彼はとても細やかに僕のことを見ている。ストーカーと言ってしまうと少々、いやかなり語弊があるが、決して一挙手一投足を監視するのではなく、観察するように、そして見守るようにして僕を包んでいる。だから僕の感情の機微を掬い上げてくれるし、無自覚な不調にもすぐに気付いてくれる。彼はそうしてゆっくりと、慎重に丁寧に僕を理解していってくれたのだ。4の10乗、1,048,756回画面をタップせずとも、彼はある種の執念でもってもうとっくに14%を100%にしてくれている。
そしてそれは此方とて同じこと。もしかしたら彼には及ばないかもしれないが、僕だって彼のことはよく見ている。…そう、例えば今、彼の髪の毛先がぱちりと爆ぜて、炎がハートの形になったことだとか。
(2020.09.09)
[
削除][
編集]
▲|
前|
次|
1-|
新|
検|
書
[
戻る][
設定][
Admin]