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┗1233.掌底と憧憬(21-25/42)

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25 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:53



七海建人、という名前を初めて聞いた時のこと。「『しちさん』だから名前も『ななみ』なのかい?」と問う俺に、彼は「名は体を表す、というやつですか」と答えた。名は体を表す。初めて聞く言葉を復唱すると、名前とその実体は相応することだと説明された。…へえ、そんな言葉があるとは。ならば俺の名前は。俺の、この名前は。
昔、まだ生まれたての頃、我々こそが人間なのだと主張する漏瑚に「でも漏瑚は目いっこしかないじゃん」と言ったらそういうことではないと激怒されたことがあった。説教されながらじゃあどういうことなんだと釈然としない思いを抱いたものだが、七海の理屈でいくと俺は間違いなく人間だ。目も二個あるし、何より俺の名前は真人。まことの、ひと。あれこれ理屈を捏ねくり回さなくたって、俺が人間であることは俺の名前が証明してくれている。何だか嬉しくなって一人で笑っていたら「人の名前を駄洒落だとでも?」と不愉快そうな声が聞こえて、そういえばまだ会話の途中だったなと思い出した。

懐かしい話はこの辺にして。さて、七海。7/3生まれ七三分け、七三術師の七海。七と三で構成されたあんたには七割の建前で接するべきなのかもしれないけど、残念ながら今から贈るのは全て嘘偽りのない十割の本音だよ。一介の特級呪霊ではなく、今日だけはただ一人の人間として。映画や本で学んだものではない、この俺の魂から湧き出る『感情』で。…どんなに頑張っても陳腐にしかならなかったんだけど、まあ大目に見てよ。

誕生日おめでとう。誰よりも何よりも、愛しているよ。

(2021.07.03)


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24 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:51



雨の日は好きだ。雨粒が地面を叩く音は聞いていて飽きないし、真っ暗な空を見ていると心が躍る。尤も人間にとっては雨天は忌まわしきもののようで、大気中にはこの空模様への嘆きと苛立ちが渦巻いている。
そしてそれは隣に座る男も同じらしい。先程から聞かされる話は全て愚痴だ。足元が汚れる、洗濯物が乾かない、気圧で頭が重い、あなたに付けられた腹の傷が痛む。ジジイみたいなこと言ってんなと思うが出来る呪霊である俺は話の腰を折るような真似はしないので、男のぼやきも止まらない。ぽつりぽつりと断続的に零されるそれは雨音と調和して不思議な音楽を奏でているようだ。
呪術師からは呪霊は生まれないのだと以前夏油が言っていた。…それはとても残念だな、と思う。ならば、この男がもしただの人間だったら。雨も労働もこの世も全てクソだと宣うこの男の呪力を核として俺が生まれることができたなら。そしたらあんたは俺の一部だったのに。…そんな頓痴気なことを夢想する程度には気分がいいので、そろそろ男の口は俺の口で塞いでやろう。唇が離れたら笑顔で揶揄ってやるからさ、不愉快そうに俺の名前を呼んでよ。雨音に混じるその三音はきっととても心地良い。

(2021.06.08)


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23 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:50



置いていかれたのだと言う。たった一人の級友を学生時代に喪ってから、ずっと誰もいないのだと。
かわいそうな男。そんなんだから俺に付け込まれるんだよ。大体呪霊のせいで友人を亡くしたのにどうしてそれを同じ呪霊である俺に言うんだろう。馬鹿なんじゃないのかな。まあ馬鹿だからこそ自分が一人ぼっちなんだと思い込んでるんだろうけど。そして馬鹿が馬鹿であるほど俺にとっては都合が良いから、その事実は教えてあげない。
ねえ七海。かわいそうなあんたの傍には俺がいてあげるよ。自分が孤独だと信じ切ってるかわいそうな脳味噌ごと肯定してやるから、あんたのかわいそうな魂も俺が貰うね。大丈夫、俺は置いていったりしない。最後はちゃんと、俺のこの手で握り潰してやるからさ。

(2021.05.22)


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22 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:48



灰燼と化した契約書の枚数は1522、流した涙の粒数など数え切れるはずもない。築き上げたプライドもろとも頽れるような感覚に、二度と同じ過ちは繰り返さぬと心に決めたのは数日前のこと。何から手を付けるべきか、やはりまずは守りを固めるべきだろう。金庫を堅牢化することは勿論、この際VIPルームの扉そのものにも何か仕掛けを施した方が良いのでは。「──あのさぁ、」するとここまで黙って聞いていた顔色の悪い男がおずおずと口を挟む。続きを促すと、彼はうろ、と視線を彷徨わせてから言い放つ。「ていうかそもそも、何で契約書データ化しないの?今時紙で書類管理するとか流行んなくない?」……それは人のユニーク魔法を根底から揺るがすのだが。





その部室は西校舎の外れ、図書館よりさらに奥にまるで人を拒むようにひっそりと存在していた。
「ボードゲーム部へようこそ!」部活見学に訪れた己を出迎えた機械の体の持ち主の声は場違いなほどに明るかった。その向こうでのそりと蠢く人影、髪が燃えているこの陰気そうな男が部長なのだろうかと思ったのも束の間、訝しげに細められたその金の瞳を見た瞬間に悟った。──今の自分では、例え1522回試行を重ねようともきっとこの男の思考には届かない。


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21 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:46



これを彼から渡されてからひと月以上は経ったというのに一向に完成させられぬ情けない男とは僕のこと。説明書には完成形は数千通りと書いてあるのに普通に嘘なのでは??と消費者庁に訴えてやろうかと真剣に検討する程度には玉砕している訳だが、まあ結局は僕が下手くそなだけである。
様々な形のピースをケースにぴったりと嵌めるだけ。毎晩少しずつ時間を取って挑戦しているというのに『たったそれだけ』のことがどうしてもできない。それは酷く僕のプライドを傷付けると同時に、忘れかけていた闘争心にも火をつけてくれる。
彼はこのパズルをもう完成させたことがあるという。決して「お魚ちゃんにはこんな人類の叡智の結晶などできないでしょうなあプギャー」ではなく、「こういう時間潰しもたまには良いと思うから、よければ…」という控えめなていで渡されたものだが、彼にできて僕にできないものなどあってはならない。そう、潰すのは時間ではなく僕と彼の思考の距離だ。あの天才と肩を並べて立ちたい。
彼が知ったら「たかだかパズル如きでムキにならなくたって、僕の隣は氏だけなのに」と言うのだろう。けれど僕は一度決めたことは絶対に成し遂げる男なので。そして彼は実は素直ではない寂しがり屋の男なので。きっと無事にパズルを完成させられた時には、本当にやってくれたの、と驚きながらもその顔には抑えきれない喜色が滲んでいることだろう。共有できるものは多ければ多いほど良いのだから。あの不器用な笑顔のために、今夜も僕はパズルを取り出しては引っ繰り返している。

(2021.05.02)


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