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┗1233.掌底と憧憬(24-28/42)

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28 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 01:01



七海が寝込んだ。「この仕事が終わったら絶対にクソほど休んでやります」と言っていたのはフラグというものに他ならなかったわけだ。良かったね、待ち望んでた休暇じゃん。布団以外のどこにも行くことは叶わないけど。
それにしても自分自身のことを正しく認識してないのは困る。「ちょっと熱があるだけです」とか言って普通に動こうとしてたけど、世間ではそれを体調不良って言うんじゃないの?呪霊に分かることが人間様に分からないの?もしかして熱のせいで筋肉だけじゃなくて脳味噌までゴリラになったのか?
…俺の術式を使えばあんたの体くらいあっという間に全快にしてやれるけど。でもあんたの魂はそのままの形が一番綺麗なんだ。洗練されてるのにどこか泥臭くて、飽きない。だから早く自力で何とかして元気になって。熱に魘されてる顔なんて見ててもつまらないんだよ。

お休み、七海。心配しなくてもずっと傍にいてやるから。

(2021.09.09)


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27:削除済

26 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:54



旅に出たいらしい。元々無節操に本を買う男だったが近頃はやたらと外国のガイドブックを買い込んでいるし、今はぼんやりと虚空を眺めながら「マレーシア…クアンタン…」と独り言を呟いている。暑さで頭でも湧いたのかい?と聞いたら湧いたのは頭ではなく大量の呪霊で、忙しくてたまらないのだと責めるような目で見られたんだけど、俺のせいじゃないよなぁ。とはいえ老け顔で人相の悪い男にぶっ殺すぞオーラ全開で睨み付けられるのは普通に面白くないし面倒臭いので、視線から逃れるために床に積まれた本の一冊を手に取って頁をめくった。が、目に飛び込んできた真っ青な海の写真と『地上の天国』という謳い文句に反射的に吹き出してしまった。天国。天国だって!
発生して間もない頃に人間の勉強をしようと聖書を読んだ。世界で一番読まれている書籍だと聞いたからだ。大凡退屈極まりなかったけど、『金持ちが天国に行くよりらくだが針の穴を通る方がまだ易しい』という一節だけは覚えている。「金持ちなんだから金出してらくだよりもでかい針を作れば良くない?」と素朴な疑問をぶつけたら漏瑚に流石呪霊だとなぜか褒められたけど、そんな漏瑚は『百年後の荒野』という言葉をよく使う。そこに立つのは儂でなくていいって口癖みたいに言ってるけど絶対立ちたいんだと思う。でも、天国と百年後の荒野だったら俺も後者に行きたいなぁ。だって天国なんて人間の作り出した妄想だ。そんなものはありはしないよ、大体神様がいて人間を救済してくれるなら俺が生まれてくるはずがないだろ?
七海、七海。お疲れの七海。マレーシアも悪くないけど、旅行なら百年後の荒野に一緒に行こうよ。そんなに長く生きていられないなら寿命の直前にあんたの魂を丸め込んであげる。その頃までには俺ももっと魂の改造が上手くなるから大丈夫だろ、死なない死なない。金持ちが天国に行くより、らくだが針の穴を通るより、俺とあんたが百年後の荒野の舞台に立つ方がきっとずっと、易しいに決まってる。

(2021.08.26)


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25 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:53



七海建人、という名前を初めて聞いた時のこと。「『しちさん』だから名前も『ななみ』なのかい?」と問う俺に、彼は「名は体を表す、というやつですか」と答えた。名は体を表す。初めて聞く言葉を復唱すると、名前とその実体は相応することだと説明された。…へえ、そんな言葉があるとは。ならば俺の名前は。俺の、この名前は。
昔、まだ生まれたての頃、我々こそが人間なのだと主張する漏瑚に「でも漏瑚は目いっこしかないじゃん」と言ったらそういうことではないと激怒されたことがあった。説教されながらじゃあどういうことなんだと釈然としない思いを抱いたものだが、七海の理屈でいくと俺は間違いなく人間だ。目も二個あるし、何より俺の名前は真人。まことの、ひと。あれこれ理屈を捏ねくり回さなくたって、俺が人間であることは俺の名前が証明してくれている。何だか嬉しくなって一人で笑っていたら「人の名前を駄洒落だとでも?」と不愉快そうな声が聞こえて、そういえばまだ会話の途中だったなと思い出した。

懐かしい話はこの辺にして。さて、七海。7/3生まれ七三分け、七三術師の七海。七と三で構成されたあんたには七割の建前で接するべきなのかもしれないけど、残念ながら今から贈るのは全て嘘偽りのない十割の本音だよ。一介の特級呪霊ではなく、今日だけはただ一人の人間として。映画や本で学んだものではない、この俺の魂から湧き出る『感情』で。…どんなに頑張っても陳腐にしかならなかったんだけど、まあ大目に見てよ。

誕生日おめでとう。誰よりも何よりも、愛しているよ。

(2021.07.03)


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24 :真_人(呪 ̄術 ̄廻 ̄戦)
2023/04/30(日) 00:51



雨の日は好きだ。雨粒が地面を叩く音は聞いていて飽きないし、真っ暗な空を見ていると心が躍る。尤も人間にとっては雨天は忌まわしきもののようで、大気中にはこの空模様への嘆きと苛立ちが渦巻いている。
そしてそれは隣に座る男も同じらしい。先程から聞かされる話は全て愚痴だ。足元が汚れる、洗濯物が乾かない、気圧で頭が重い、あなたに付けられた腹の傷が痛む。ジジイみたいなこと言ってんなと思うが出来る呪霊である俺は話の腰を折るような真似はしないので、男のぼやきも止まらない。ぽつりぽつりと断続的に零されるそれは雨音と調和して不思議な音楽を奏でているようだ。
呪術師からは呪霊は生まれないのだと以前夏油が言っていた。…それはとても残念だな、と思う。ならば、この男がもしただの人間だったら。雨も労働もこの世も全てクソだと宣うこの男の呪力を核として俺が生まれることができたなら。そしたらあんたは俺の一部だったのに。…そんな頓痴気なことを夢想する程度には気分がいいので、そろそろ男の口は俺の口で塞いでやろう。唇が離れたら笑顔で揶揄ってやるからさ、不愉快そうに俺の名前を呼んでよ。雨音に混じるその三音はきっととても心地良い。

(2021.06.08)


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