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┗1233.掌底と憧憬(8-12/42)

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12 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:34



彼が喋る度にきらきらと眩しく見える、と気付いたのはいつの頃だったか。もしやシュラウド家の人間は髪が燃えているだけではなく、星でも吐いているのでは?と馬鹿げたことを大真面目に考えていたことすらある。
普段のボソボソとした喋りは仄かに明るい。彼曰くの陽キャに囲まれて怯えながら吃っている時は今にも消えそうだが微かに発光している。部活中に煽り合っている時はチリチリと焦げ付くように光って見える、これは怒りのせいかもしれないが。夢中になっているものについて語る声は熱量に比例して輝きも増す。アズール氏、と名前を呼ばれると柔らかな光が降り注いでくる。恋情を伝えられると煌きの中で眩暈がするほど。
星の光は命の最期の輝きなのだと聞いたことがある。彼は自らの命を燃やして言葉を輝かせているのだろうか。だからある日突然ぽっくりと死んでしまいそうに見えるのだろうか。……死なせてたまるものか。僕は自他共に認める強欲な人間だ、彼の命の手綱でさえも自分が握っていないと気が済まない。
彼が死んだりしませんように。どうかこの眩さの海の中で僕がこれからも生きていくことができますように。そう祈りを込めて、今日も彼の名前を呼ぶ。イデアさん、大好きですよ。

(2020.09.16)


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11 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:32



「拙者はアズール氏のストーカーであるからして、この結果はおかしい」

相性診断。設問の選択肢を数回選ぶだけで二人の相性が分かるという、所謂お遊び。同級生の間で話題になっていたそれのURLを部活中に開くと、対戦相手であり恋人である彼は案外素直にやり始めた。てっきりこんなものはリア充のためのツールであり云々だとか言うものと思っていたが、どうやら自分もリア充の一員だという自覚はあったらしい。そして数分後、できたよ、という声と共に示された画面には『相性14%・ガン無視の関係』の文字。──…は??????
14%?????普通こういうものは80%くらいにはなるんじゃないのか。何だ14%って、まさか15点満点か?いや点数じゃない落ち着け、パーセントだ。しかしお遊びとはいえこの結果は受け入れ難い、確かこの診断は4択×10問、ならば100%にするためには4の10乗、1,048,576通りを試せばいずれは達成できるはず。できるか?できる。僕ならできる。混乱しつつも気の遠くなりそうな行程を前に決意を固めた僕の耳に届いたのが、冒頭の台詞である。
彼は尚も続けた。「そもそもガン無視とは何事か?診断殿におかれましては拙者のストーカー具合を舐めないでいただきたい」自信満々に言い切る彼に思わず笑いが込み上げ、そして得心が行った。事実、彼はとても細やかに僕のことを見ている。ストーカーと言ってしまうと少々、いやかなり語弊があるが、決して一挙手一投足を監視するのではなく、観察するように、そして見守るようにして僕を包んでいる。だから僕の感情の機微を掬い上げてくれるし、無自覚な不調にもすぐに気付いてくれる。彼はそうしてゆっくりと、慎重に丁寧に僕を理解していってくれたのだ。4の10乗、1,048,756回画面をタップせずとも、彼はある種の執念でもってもうとっくに14%を100%にしてくれている。
そしてそれは此方とて同じこと。もしかしたら彼には及ばないかもしれないが、僕だって彼のことはよく見ている。…そう、例えば今、彼の髪の毛先がぱちりと爆ぜて、炎がハートの形になったことだとか。

(2020.09.09)


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10 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:31



元気のない彼に、他寮生から悪口を言われたのだと打ち明けられたのは先日のこと。曰く、ロボットを弟扱いするだなんて頭がおかしい、家族ごっこなら他所でやれ、と。……ああ、これは宜しくない。
青髪のカーテンでもって顔を隠し他者を拒絶する彼は、非常に繊細なようでいて案外図太い。拙者傷付きましたわぴえんだとか言いながら0.2秒後に凶悪面して笑っていることは日常茶飯事だ。なので「髪の毛燃えてるキモーイ」系の大抵の陰口は受け流す、……ふりをして後でこっそりえげつなくやり返している。主にネット上で。だが今回のものは違う。彼の核を否定するこれは、彼にとっての確かな地雷だ。
弟、家族。これらの言葉の定義とは?同じ親から生まれていれば兄弟?腹違いという言葉もあるのに?一緒に暮らしていれば家族?それなら寮生活をしている今は家族ではないと?そもそも機械の体に魂が宿らぬなどと、どうして言い切れるのか。仮に、もしも仮にあの体に魂が入っていなかったとして、それでも『弟』をこの世に存在させることに成功した彼の苦悩と軌跡を否定する権利など、誰にもありはしないのに!
可哀想なイデアさん。僕が傍にいたら五億倍にして言い返して差し上げたのに。…あなたを理解できぬ輩のほざく言葉など、気にすることはないのですよ。あなたは周りなど気にせず研究に没頭し、極稀に傷付いたら僕のところに来ればいい。僕はあなたが弟を弟たらしめるために『何』をしたのかは正直分からないけれど、分かったふりならしてあげられる。それであなたがひととき救われるのなら、優しいあなたがこれ以上傷付かずに済むのなら。
あなたを肯定する対価に抱き締めてもらえるのなら、僕はそれでいい。大丈夫ですよ、イデアさん。僕がいます。

(2020.08.21)


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9 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:30



暑い。あまりにも暑い。飛行術の授業中、珊瑚の海出身の人間二年目にはこの暑さはきついと零すと、僕の指導役のクラスメイトから熱砂の国出身の人間十七年目にもこの暑さはきついぞと返ってきた。砂漠の民ですら汗を止めどなく流しているのだから、半分魚(蛸は正確には魚ではないが)の自分はそろそろ干からびてもおかしくないのでは。あまりの暑さとあまりの飛べなさに思わず天を仰いで、そして太陽を盗み見た。きっとまともに見たら眩しさで目が死ぬのだろう、そのくらいに照り輝いている。──…そういえば昔のあの人は、一目見たら死んでしまうと言わんばかりに僕の目を見ようとしなかった。それがいつしかうっかり目が合っても飛び退かなくなり、きちんと正面から僕を見据えるようになった。あの金色とも檸檬色ともつかぬ瞳をゆっくりと細めて微笑まれるのが、僕はとても好きだったりする。ああ、何だかとても会いたい。……というか会いに行っても良いのでは?この授業が終わったら放課後だし、きっと僕は今日も飛べないし、それに阿呆のように暑いのだ。暑いのが悪い。
「ジャミルさん、僕熱中症だと思いませんか?」唐突な問い掛けにクラスメイトの彼はハァ?と素っ頓狂な声を上げたが、すぐに「分かった。先生には言っておくからお大事にな」と片手をひらめかせた。彼の聡さはとても好ましい。早く友達になりたいが今はそれどころではない。熱中症といえば、以前フロイドが「ホタルイカ先輩にゆ〜っくり熱中症って言ってごらんよ、きっと愉快なことになるよぉ」と言っていた。しかしあの人はいつだって愉快だし、今日に限っては僕の頭も愉快なことになっている。あの人は今日も今日とて自室に引きこもっているだろう。さあ、会いに行こう。行き先は保健室ではなく鏡の間。

(2020.08.09)


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8 :ア_ズ_ー_ル・ア_ー_シ_ェ_ン_グ_ロ_ッ_ト(t ̄w ̄s ̄t)
2023/04/30(日) 00:28



元来彼は腰が重く、そして慎重である。
賢い人なので、価値が無いと判断したものは極力排除しようとする。飛行術の授業など最たるものだ。科学分野において時代の最々々々先端を行く彼にとっては『箒に乗って空を飛ぶ』という根本が理解できないらしく(まあ僕もだが)、補習に連れ出そうとすると凄まじい勢いで抵抗してくる。それはもう大雨の中の散歩を断固拒否するポメラニアンのように。
更に熟考する人なので、中々動かない時がある。例えば部活の息抜きにババ抜きをしていて、僕が数字とジョーカーのカードを持ち、彼が数字を引けば上がりの場面。右か左か、フェイントを掛けたり煽ったりしつつ延々と悩んだ末に「ねぇ、右かなぁ?右だと思う…?」と心底困ったように聞かれた時は逆に此方が困ったものだ。いや僕に聞くんかい。
そういう次第なので、考えた末に実行に移さないこともあったりする。今回も、恐らくそうだろうと思っていたのだ。……彼の日記を見付けた時僕がどれだけ驚いたか、きっと彼は分からないだろう。「アズール氏が作ってくれたのが嬉しかったから、僕も作りたいな」と言われた時は正直そこまで期待していなかったけれど、……ああそうだ、彼の本質は別のところにあった。
0と1と弟の魂しか信じていないような彼にとって、日々の出来事の書き留めなど必要無いと判断してもおかしくないだろうに。いざペンを執ったとして、何を書こうか散々迷った挙句冊子ごと破り捨てたとしても不思議ではないのに。だが彼は、自分の中で一度こうと決めたら絶対に成し遂げる人だ。そしてその理由が僕の為だなんて、そんなの嬉しくないわけがない。そういえば飛行術の補習は僕を置いて追試に合格していたし、ババ抜きは左を選んで勝っていた。

ねえ、イデアさん。あなたの綴る、冬から春に変わる湿度の低い薄曇りの日のような文章が好きですよ。それでいて隠し切れないゆるキャラ感があるところも。恥ずかしくなったら鍵を掛けても構わないから、日記は消さないでくださいね。

(2020.07.28)


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