Oct. 30

　私は悩み事が多い人間だ。その多くはベロブルグに関することで、「大守護者」である私はこの街のことを一番に考えなければいけない。お母様が、過去の「大守護者」たちが守ってきたベロブルグという歴史を、未来を、存護できるのは私しかいないのだから。
　……でも、余りに考えることが多すぎて、悩み事の解決策を頭の中で考えるうちに眠るタイミングを失ってしまうことがある。一度考え出して、結論が纏まらないうちに寝ようと思うと目を瞑った時にその事について考えてしまう……この悪癖のせいで、翌日に体に無理を働かせることも多い。彼女……ゼーレは私のこの体質のことに理解があって、私が眠れない日があれば何よりも心配してくれる。彼女にも地炎としての責務や成すべきことがあるはずなのに……心配をかけてごめんなさい。でも、私のことを心配してくれるのがゼーレで良かった。だって私はあなたが傍に居てくれれば、その時だけは安心して眠りにつくことが出来るから……きっとこれは、どんなに暖かい毛布や寝心地のいいベッドを用意しても、ゼーレの存在には敵わないものだと思う。いつもありがとう、ゼーレ。今はしっかりと休んで、また元気になった時に私に会いに来て欲しい。お互い時間がある時にゆっくり話しましょう。
Bronya

Oct. 27

　夢というものは、とても繊細ではかない幻覚のようなものなの。
例えば、とある水辺を歩いているあなたはサウマラタ蓮を眺めているとしましょう。そのサウマラタ蓮はとても綺麗で、これを持ち帰りたいと思ったあなたは水からサウマラタ蓮を掬いあげた。そして何事もなく家へ帰って、いつもと変わらない日常を過ごし、一日を終える。就寝時間になって眠りについた時、お昼と同じように水辺で綺麗なサウマラタ蓮を掬いあげる経験をしたのなら、それはあなたの脳があなたへ見せた記憶を整理するための夢よ。
でも、夢はこの一種類だけじゃないの。今説明した記憶整理の夢の他に、起こりうる未来の出来事を夢として予測する「予知夢」や、非現実な内容の夢、過去の嫌な思い出や心に残るトラウマが夢に現れてしまう「悪夢」……それから、「自分が夢を見ている」もしくは「目の前で起きていることは夢だ」と夢の中で自覚している状態の「明せき夢」なんかもあるわ。夢一つでもこれだけの種類があるくらい、人の脳というのは複雑な作りになっているのでしょうね、きっと。
　笠っち、あなたなら今頃「また長い話が始まった」とでも思っているんじゃないかしら。でも、あなたにもきちんと夢というものを実感して欲しいからこそ私はこうして文字にして書き残しているの。だから、途中で読むことを放棄したりせず──いえ、こんなことを書いておかなくてもあなたはちゃんと最後まで読んでくれるわね。口では文句を言うけれど、あなたは案外素直だもの。ふふ、強がらなくたって私には分かっているのよ。

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　あなたがこの前見たと言っていた私と会話をする夢、これはきっとあなたが自覚していないだけで過去に何度も見てきていると思うわ。私とあなたはほぼ毎日顔を合わせて話していて、私にとってもあなたにとってもそれが「当たり前」で「日常」だから……夢の中でもあなたは私と話して、あまりに現実感のある経験を「現実」として受け入れていたのでしょうね。あの時も話したけど、あなたが私の夢を見てくれていることは本当に嬉しいの。感覚としてお互いの存在が当たり前だと分かっているなら、それが事実として重なればより一層嬉しさは増すものでしょう？
　ねえ笠っち、もっと私と話す夢を見てちょうだい、とは言わないけれど、もし夢だと自覚した日があれば私に教えてくれるかしら。夢を現実だと勘違いする癖を直すとも言っていたし、あなたの夢に私が現れるその度に、今まで何回私に関連する夢を見てきたかの回数を数えてメモに書いておくのはどう？もしこれが面倒だと思うなら、私が書き記しておくから……遠慮は要らないわ。
Nahiida