あいつに黙って書いてるから、極力あいつの特徴は記さぬよう努めていた。そうなると結果的に、俺が奴をどう想っているか、俺が何考えてるか、どんな目線で見てるのかっつうか…客観視できない穿った感情だけがどろどろ頁を濁らせてくだけになっていく。
そういう俺の面倒な性質だけやたらに開けっ広げ続けるのもな…奴の事も少しは書くか、差し障りない程度に。

…とは言うものの、俺はお前をまだ何も知らないし、お前も俺の事全然知らない。互いに口数が多くないのもあってか、微妙に他人行儀から抜け出せてないんだよな。

書き始めた当初は仕事や私生活、すれ違いもあって特に気難しくなってる時期だったから、今読み返すとどれだけ不安定だったのかと驚く。
今の落ち着きは心境の変化と言うよりは慣れ、なのだろうか。元々、あいつの前だけでは冷静さを保ちたいが為に開始した日記だから、ある意味では効果があったのか。この先の状況によってはまた思い悩んで吐き出す事もあるのだろうが。

どんなに長く共にいようと終わる時は終わるという状況は年を重ねていくと目にする事がどうしても増える。だからだろうな、どうしても一定の距離を取ろうとしちまう。勿論、そのまま添い遂げる奴等もいるわけだからやはり俺が悪い方へばかり考えているだけな気はしてる。あと、お前に失礼じゃねぇのかって感情は常にある。…まあ、そうなんだろうな。

出逢ったのがたまたま俺だっただけ。俺以外の人間をろくに知らないから共にいるだけなんじゃないか。
お前が視野を広く持って他へ目を向けたら、きっとすぐに俺の馬脚に気付いちまう。仕事ばかりで取り柄もない、地位も持たない、紡ぐ言葉も拙く物足りぬ男と。…もう既に、ただの情でいてくれてる可能性だってなくはない。妖怪と比べたら俺はどの位置付けなのだろう。
余所なんて見ないで、気付かないでくれねぇかな。人間との上手い距離を掴んで欲しいと願いつつ、同時に人間の友は俺だけでいいだろとも思っちまう。見た目だけはふわふわした爺さんだからか、人付き合いをそれなりに上手い事やってるぶん気になる。いや…いい事なんだが。あいつこの前、ご近所さんの手伝いして晩飯のおかず貰ってたからな。誑しかよ。