お前には毎回「遠慮をするな、気遣うな」と言い続けていた。
「もっと我儘を言え」とも話したが、なかなか踏み出してくれなかった。言えたとしても必ず、大丈夫であったか、本当に問題ないかと此方の顔色を窺ってきた。
自然と「遠慮せずにいてくれる方が、嬉しい」と伝えるようになっていった。

俺がはっきり物を言い過ぎるのも悪いのだと思う。 嫌いなものは嫌い、興味が無ければ知らん、そうやって端的に返答してしまうからお前を不安にさせ一歩引かせてしまっているのかもわからん。その分、素直に何でも話しているとは思うんだが。

水羊羹切ったぞ、とか、倅に菓子を渡しておくれ、とか、外食先でもたんと食えとやたら世話を焼かれる事があるが、後から思い出すんだよ。これ全部俺の財布から出てんだったなって。家事を任せてるから何も言わんが。
何も要らんと遠慮され続けるよりは余程いい。金ならやるから煙草だけは吸ったら買い足せ、切らすな。

日記を認め始めた時と随分状況が変化した。お前はどうして俺でいいんだろう。
特別な事は何もできないし、優しくできてるとも思えない。甘やかし方もわからないし、「欲しいものがあれば言え」と声をかけてもこれ以上は必要ないと返される。繫ぎ留める方法が何もわからないから、大して綺麗でもない身一つを差し出すしかなくなってる。こんな中年の身体を飽くまで貪る気が知れない。
不健全だ。家に子供がいるんだぞ、俺ら。

色惚け爺め、絶対にわざとやってる。わざと俺を怒らせて楽しんでる。可愛いところもあると思ってたが全然可愛くない。
覚えてろよ。いややっぱり覚えるな、全部忘れろ。畜生。