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1407.telescope
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Dr./レ/イ/シ/オ (H/S/R)
2025/04/10(木) 23:51
スターピースカンパニーの戦略投資部がカンパニー傘下の食品メーカーからコラボ商品を発表する、という話を事前に聞いていたのは、肖像権含む各種権利関係の窓口を一任している補佐を通して「きのこ」か「たけのこ」に拘りはあるかという確認を受け取っていたためだった。さて、この現状からわかる通り僕は「たけのこ」の熱心な信奉者ではなかったので、僕の写真は十の石心たちと共に流通に乗せられているわけだ。並んで語られるふたつにチョコレート菓子として優劣はなく、つまりはどちらでもいい。以上を僕からの正式な表明とする。
以下、夜桜の日の話をのちほど。
ただ何気なく、カンパニーから「きのこ」の完成品を受け取っておけばよかったと話した夜。それはともかくとして、ギャンブラーとふたり、彼の自宅近くにあるチェーンストアまで足を運んだ。住宅エリアはすっかりと静まり返って、人の気配を感じることもない夜更けだった。
周期的に気候の変化があり、季節によって自然な風景の移り変わりが見られるというのはピアポイントの美点の一つだろう。ちょうど見頃の桜並木が心地の良い夜風に枝を揺らされ、舞い落ちる淡い花弁のひとひらに視線を誘われた。月明かりが照らす下、隣を歩く彼の金髪に桜の花が彩りを添えるものだから、その横顔が何よりも一番この季節を象徴した景色のように思えた。薄闇の中で地面に落ちた花弁は月の光を反射して白く、それは他愛もない会話をしながら少しも歩けば辿り着くチェーンストアの人工的な明かりの白さとは全く別で、砂礫に覆われようと胸の奥を擽るような美しい白だった。きっと、あの男と歩く道程だからこそ目に留めた色彩だ。
前の季節の終わり、花を見に行きたいと言っていた男との約束は果たせたことになるらしい。こんな数分の距離で、と思わなくもないが、その数分で焦れていたのが僕なのだから我ながら呆れてしまう。手を握るだけ、肩を寄せるだけでは足りなかった。足早に帰る玄関先で落とした彼に懐いた花弁は、もうどこにも見当たらない。桜はそのうち新緑の色に染まって、次の季節がやって来る。
のちほど、と言ってなかなか記録を書き起こせずにいた。これは独り言でしかないのだが、鍵の掛かってしまった愛読書の一冊に新たな名前が連名で記されているものだから勝手ながら嬉しく思う。開錠されている間、ふたりの筆で綴られるやり取りを愛情の断片を、一読者として愛読させてもらっていた。長く育まれた縁に少しばかり尊敬の気持ちも抱いて。私立探偵と古書肆の彼らに穏やかな日々があらんことを。
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