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1407.telescope
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Dr./レ/イ/シ/オ (H/S/R)
2025/04/24(木) 22:40
幾つかの本棚を擁するこの書庫で、どこかの頁を発端として話題に昇る議題は気が付く限りいずれも興味深く目を通している。最近見かけたものは試し行為如何、それに愛情の秘訣だとかいうものだ。……が、どちらも僕が語るには分不相応、実態を伴わない言葉は上滑りするばかりだろう。こういう話題は、僕よりもこの日記で「彼」と称されるあの男の方がよっぽど語る理屈を持っているはずだ。
という話を何故今更に記しているのかといえば、この夜に僕は彼に思いを馳せるしかない。学会の伝手で足を運んだ惑星はピアポイント基準によるところの一日で帰還するには些か難しく、まあついでとばかり諸々興味を満たす為の予定を詰め込んだもので、今晩は同行の学者と共にこの星で夜を越すことになる。名目として立てた視察もその他散策も滞りなく済ませた。明日の朝からも少し、別エリアでの行動予定が入っている。カンパニーがこの星と関係を結ぶにあたって無益なものと取り落とした技術について、語る機会はまたいずれ訪れるだろうというのが僕の見立てだ。……つまり、ゆっくりと風呂に浸かる暇が無くとも然程問題を感じない程度には、自適な時間を過ごしている最中というわけだが。
静かな夜に、思考の海は凪いでいる。「彼」からの連絡も途切れた。どうやらいつもとは逆に、僕と代わってあの男が長湯をしているらしい。端末のフォルダには、身を寄せ合って眠る男と創造物3匹の姿、それから僕を一泊の宿の前で出迎えた黒い猫の写真が並んでいる。足元に寄りつく正真正銘猫の毛並みを見て覚えた気持ちを、恋しい、と呼ぶのだろう。それを今この時にも抱えているから、こうしてペンを握っている。
さて、冒頭の話題に戻るとしよう。僕は自分が語る言葉を持つ範囲を飛び越えて何かを記すつもりはないものの、捲った頁に記された思いから思考を触発されるというのは儘あることだ。だから、ここで僕の好きな言葉について綴る。本来なら引用の要件を満たすべきだが、この場所のルールに抵触する可能性を鑑みて軽く触れるのみとする。――広い宇宙、遥か過去のある詩人曰く、だ。人というのは、それぞれが個々人である限り、孤独から逃れることはできない。けれどもしかし、根底には同一のものが流れている。社会に於いてその共通項を知ったとき、つまりは道徳や愛と呼べる感覚を知ったとき、その孤独は永久ではない。
詩情を抜いて要約すればなんとも陳腐な言葉だ。本来ならば、原典に忠実であらんとするならば、詩情を抜き去ることがまず愚鈍極まりない。このあたりの文学は僕の専攻ではなく、ここでは深く語りもしないことで妥協点とする。だがこの結論に辿り着く一つの文章を、僕はなんとなく、漠然とした道標のように抱えている。そんな序文から始まる詩集をよすがにして、ただ一席の不在を埋めるように繰り返し捲っていた夜も、今となっては随分懐かしい。
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