あんたと眠りが擦れ違って、数時間と経ってしまっていたから、もう少しばかり起こさぬよう、此処へ。
此処でも数時間と経ってしまったが、……あんたとを思い返す、しあわせな時間だった。
馴れ初め、惚気
あんたとの出逢いは、鍛刀部屋だった。
ただ新たに顕現された刀と、主に付き添っていた初期刀という立場で。
あぁ、あの場にいたという事は、近侍という立場でもあったのかもしれないな。
手を取り合いたいと望む主と、慣れ合うつもりのない俺の間に割って入った、様々な苦労を経験として積んできた古参の刀。
各々の出逢いの場が、友好的に終えたとは、……傍目があったとして、決してそうは見えなかった事だろうが。
ひとまずあんたは、新刃の教育係兼同室相手として落ち着いた。
それから俺が、特付となり、今へと至るまでの間。
同位体の三振り目を含め、また複数の新たな刀が、主の元へと顕現した。
それでもあんたは、俺の同室相手だった。
慣れ合いを良しとし、融通の利かないところのある、生真面目な刀。
そういったあんたへの第一印象は変わらないが、共に時間を重ねていく中で、増えた感想はあった。
甚く素直で、素直すぎるからこそ、真っ直ぐすぎるからこそ、自身に対してまで不器用で在り続ける刀。
こころに自衛の壁を上手く作れないくせに、ひと一倍傷付きやすいくせに、それでも対峙するものから目を逸らせないと、己を曲げられないと、貫こうとするその愚直さに。
同室と押し込められた頃には、ご苦労な事だと、何処か呆れるようにも眺めていた視線が、あんたの傍にあるほどに、あんたを知るほどに、……いつしか、逸らせなくなって。
……気付けば、俺の総てが囚われていた。
冬場、日中炬燵で転寝は出来る割に、酷く眠り下手なあんたの手を取って、同じ寝床で体温を寄り添わせ。
ただ抱き締めて、言葉を連ね合い、瞼の落ち切るその時まで、あんたの瞳と見交わして、眠りに就く。
眠り下手故、一振りで過ごす事になる夜が不得手な淋しがり屋の刀は、それでも明けて新たに訪れる朝の方を怖がって。
互いが眠りに囚われ堕ちる際の、別れにも等しい言葉を苦手としていた、不思議な刀。
そんなあんたに、他とは違う、他には抱かない愛しさを覚えたのは、いつからだったか。
主と三振り目の、日常の一幕を垣間見た時から?
俺とあんたとで、互いの内面を知ろうとし始めた時から?
同じく眠り下手だった二振り目を、光忠が見つけた時から?
まだ、その時の俺には、……抱き始めた愛しさの欠片を零せても、あんたの手を、本当の意味で取る事は出来なかったから。
縋る事をやめられなかった愚かしい刀へと、注がれ続けた、あんたからのあたたかな情愛に、共に過ごしたあの日々に、……確かに、癒されていたんだ。
此処で、絆された、という言い方は、過ったとしても正しくはない。
俺が、勝手にあんたに惚れ込んだ。
そしてあんたを、俺の唯一と見定めた。
それだけだ。
俺の中に、最愛と、一番大切な者だと刻まれたあんたは、精々諦めておく事だ。
俺の総てで、これからも、……愛し続けてやるからな。
◆◇
空気を読まず、懐かしく過ったもの
こぴぺ