審神者日記
つい出来心で審神者を始めた
サーヴァントの顛末
つい出来心で審神者を始めた
サーヴァントの顛末
文月 貳拾漆日
審神者はじめました
あいたぁからも時々聞いちょったがよ。
わしが貰い受けた肥前忠広やあいたぁが佩いちゅう吉行の付喪神が、わしらみたいに人の世を救う名目で使役されゆう世界があると。
ほりゃあたいぎぃ事じゃのう、ち他人事の様にしか思うちょらざったんじゃけど、ちっくと思う所があって夏の終わり頃から始めちょった。
刀の連中は自分達の審神者が誰かなんぞはびっとも知らん。知られる訳にはいかんきに、顔貌も解らん様な格好で、喋るがも国言葉で怪しまれたら難儀じゃき、一々筆談に付き合うて貰いゆう。本丸には長いこと居れんき基本は近侍頼みちや。
……一体どがな格好で審神者なんぞやりゆうか…じゃと?ほりゃあわしにはカルデアの伝手位しか無いきの。一番手軽で目晦ましが効きそうな、アサシンクラスのニトクリスに借りためじぇど様変身シーツちや。
馬鹿にしたらいかんぜよ?わしの気配遮断と不可視の神たるめじぇど様の神性が合わさって、付喪神相手でも決してバレやぁせんきにの。
最初の一振りには勿論吉行を選んだがじゃけど、どうにもバレそうで早々に遠ざけてしもうた。おかしい…。めじぇど様の神性どうなっちゅう?
近侍は早めに来てくれちょった不動に任いちょったがよ。あいたぁえい。酒飲みもって日課が出来ゆう。自分の過ちが…不甲斐なさが許せんのじゃろうな。…捻くれちょって、やさぐれゆうがもほれでえいち思いゆう。あいたぁの世の拗ね方がわしには丁度えい。
こいたぁずっと近侍で居って貰おうか……ち思うちょったに、修行で極になった途端人が変わってしもうたちや。
めっそう立派になっちょった。
ほりゃあもう、立派過ぎてわしの目が潰れてしまうかち思う眩しさで……。
不動…。近侍、今までおおきにの…。
さようなら、なまぐさな不動…。
こんにちは、志高い立派な不動…。
ほりゃあ、こがな風に吹っ切れゆうがが一番こいたぁの為になるに決まっちゅう。えい修行をして来れた様で何よりじゃ。本来あがぁに誇り高い刀が、仮にも神様が、いつまでも悔いちょる事に安心するらぁて……わしはしょうげに性根が曲がっちゅう。
不動を極にさせてやれたがはまっことえかった。
ほれだけは間違い無い。
間違い無い……んじゃけど、やっぱりわしには眩しいき。近似は今剣か包丁藤四郎の交代制で頼んじゅう。今剣のカラッとした所がえい。包丁藤四郎も子どもらしゅうてえい。皆で仰山菓子でも食おうにゃあ。
審神者就任二ヶ月目。
武市の刀目当てに小判を散財しまくっちょるけんど…、今はまだ来ん方がえい気もして来ちゅう。
本丸で一番にカンストした吉行を未だに修行に出せいで居る事や、毎月更新されゆう仕事の中で肥前が来る気配が無いのに安心しちょるのと同じちや。わしはまだちくとも心の準備が出来ちょらん…。
先生の刀は落ちん事に今、気が付いたちや…。
……おかしい。わしは何を見て勘違いしてしもうたがじゃろ?
審神者日記 その二
大阪城を掘っちゅう。
まさかあの太閤の城にこがぁな地下迷宮があったとはのう…。わしらで言う所のチェピ路城みたいなもんなんじゃろか?
わしんくの極はまだまだ数少ない。
短刀が漸う六振り揃うた以外は刀種も様々。合わせて二部隊分も顕現出来ちょらん刀も多いき89階以降はしょうげに厳しかったちや。御守り持たせちょっても危なっかしいき、転送手形に頼ってしもうた事もあったけんど……甲州金はあいたぁの財布からちょろまかしちょいたき問題無いろう。
ほれより問題ながは鬼丸と白山の来なさっぷりちや。流石に渋すぎやぁせんがか?カルデアの英霊召喚よりしっぶしぶぜよ。
粟田口の連中に頭を下げて鬼丸を追うがは堪忍して貰うたけんど、せめて白山くらいは呼んじゃりたいち思うて散々周ったんに…。目的が白山よりも皆の習合に移り変わる頃に漸うひと振り来てくれて、思わず大声出してしまう所やったちや。
「──来っっっ!!!……………ちゃぁ(小声)…」
あんまりひせくったき、「来た」の“た”を噛んでしもうたやいか。側に控えてくれちょった今剣が「何て?」ちゅう顔してこっち見ちょった辺り、バッチリ聞かれてしもうたがじゃろうなぁ…。
謎のめじぇど布の鳴き声が「ちゃあ」になる所やったがよ。
審神者日記 その三
三ヶ日も過ぎたち言うのに…本丸の中が落ち着かん。
誰も彼もがそわそわと浮足立ちゆう。わしのメジェドさま変身装束にもすっかり慣れた連中が、やたらと房総の名産を推して来ゆう。
マグロが美味いぞ
酒のアテに落花生はどうだ?
夢の国と呼ばれるテーマパークがあるらしい
旅は好きか?
遠出しないか?
本丸に常駐する事も叶わん審神者に何を言うちゅうがじゃ。
ほれにしても房総…房総…?どういてやにわにそがな所へ行かせたがる様になりよったがよ?
審神者日記 その四
エラい事じゃ。
大事ちや。
この日は何が何でも本丸に顔を出して貰わんと困るち、近侍にしちょったハセーベに言われちょったがじゃけど、まさかこがな事になるとは思わざった…。
ノッブを間近に見ちょるせいでヘシkillヘシkill呼んじょったら、流石にブチ切れられたきハセーベ呼びで落ち着いちょるけんど、未だに発音がどうの、どういて半端に伸ばすかとうちゃうちゃ言われちゅう。一度染み付いてしもうたもんはどうにもならんちや。ハセーベにはこの際諦めて貰うしか無いろう。これも皆ノッブのせいじゃきに。
……らぁて近侍の呼び方をどうこう言うちょる場合や無かった。
ガチャガチャ、ガチャガチャと矢鱈に喧しい。
普段廊下を走らん連中まで腕いっぱいに刀を抱えて行き過ぎゆう。おまんらそれ何往復目じゃ?まだ?まだ運ぶがか…?どうなっちゅう…?ドロップ大盤振る舞いなマップでも見付けたかち聞いたら、ハセーベと歌仙と、どことのうわしに当たりのキツい壬生狼縁の刀らぁにドヤされてしもうたちや。
男士の姿で顕現させぇ、と。鍛刀部屋の隣に据えられちょる神降しの間にわし共々押し込まれたるやざっくり百本超の刀、刀、刀…。
阿呆ぬかせ。
こがなん全部降ろしちょったらわしが魔力切れ起こして干からびるろ。只でさえ露ほども無い霊力を魔力で誤魔化しちゅうがに、滅多な事を言いないや。
事の真相は時の政府やらが記念に贈って寄越した“プレゼント”ちゅう事じゃったけんど、今日までの皆の奮闘のおかげもあって本丸に初顕現する刀は20振に届かん程じゃと知れたきに、そっから手を付けていく事にしたちや。まずは刀種別に分けて……、と刀の山から適当に掴んだ一振の感触にゾッとするもんを覚えて咄嗟に手を離s……離…、は、離れん…っ!?手が離れん!わしの手が言う事聞かんちや…っ!!
一振りの脇差しを掴んだままドッタンバッタン転げ回った挙句、腹を括って顕現させてみたらば……
みたらば……
──後の事は言いとうない。
武市の刀も来ちょるち言うき、南海も降ろした所でわしはカルデアに逃げ帰って来てしもうた。暫く本丸に顔を出し辛い…。
つらい…。
種火を食うだけでえかったわしらに比べてこいたぁらは
強うなるだけの事にもまっこと命懸けなんじゃのう…
練度上げっちゅうがは…こがぁに手間暇の掛かるもんながか?
育成計画らぁて、あれもこれも考えゆう事が多うてまっことわしには向かんちや。マスターも日々あれこれと頭を悩ましながらわしらと向き合おちょったんじゃろうか?……いや、ほれは無いのう。わしんくは箱イベの度に溢れゆう種火とQPの消化目的で片っ端から注ぎ込まれちょっただけじゃきに。
本丸運営そのものも、刀派で固まりがちかと思えば元の持ち主繋がりで固まる事もある…男士らぁの関係性はわしにはよう解らんき、部屋割りじゃとか当番の組ませ方じゃとか、各々暮らし易い様に好きにして貰うちょる。その辺りは前田や一期、長谷部に目配りを任いちょけば問題無い事が解ってきたちや。
何を誰に任せば上手くいくか、ほれさえ掴めばもうこっちゃのもんぜよ。こいたぁらが強うなって特段の不自由なく暮らせる様になりさえすれば、わしらぁて居らいでも……、…
そがなわしの浅知恵は完全包囲されつつありゆう…。
辛うじてこのメジェドさま変身セットは手放さずに済んじゅうけんど、あの日以来わしの側から離れん刀がある。どこへ行くにも付いて来ゆう…らぁて、そがな可愛らしい話やない。わしを見張っちゅう。わしが妙な真似をせんか、じっとりした目で睨め付けゆう。
わしを関わらせとうないなら心配せいでえい。チラッと覗いてチャチャッと弄くったらすぐに去ぬるだけ。元よりそのつもりで居りゆうがに、本丸に腰を落ち着けようとせん、そがなわしの態度も無責任で気に食わんらしい。
あいたぁは一言も喋りゃあせんし、わしも何一つ言えちゃあせんきに全部わしの想像でしかないけんど……めっそう気まずい。兎に角気まずい。あの主命第一、主の世話が三度の飯より大事に見えゆう長谷部ですら肥前がわしに張り付く様になってからは近付こうともせんのじゃもんな…。
すまんちや長谷部。ハセーベらぁて茶化したわしが悪かった。今度ノッブに借りてカルデアのヘシkillハセーベ見せちゃるき助けとうせ…。