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891.とりごや
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20 :
山/姥/切/国/広(刀/剣/乱/舞)
2025/01/29(水) 13:25
鏡。
頭の中の神経が、ぱちん……ぱちんと、焼き切れる音が聞こえた。伸びた爪を、切るときの音に……よく、似ている。はっきりとした、音だった。……今までは、ひとつだったはずのものが。その瞬間を、境として……ふたつに、別れてしまう音だ。
好きだと伝えたかったのに、口がうまく回らなかった。そんな余裕が、まったく……なかった。ただ……からだが、俺の近くにあった。俺の、いちばん近くに。その事実が、なによりもうれしかった。
朝には……恋しさをこらえて、送り出す相手だ。昼のあいだに、何度も思い出して。夜には、帰りを待ちわびる。焦がれる、ということばが……よく似合う。そういう生活を、送っている……が。……昨日、俺のかたなは。たしかに、俺だけのものだったと思う。
あんなにうつくしい刀でも、俺と……まったく、同じように。生きている肌からは、汗がにじむのだな……とも、思った。なんだか……しばらく、放心してしまって。部屋にかけてある、姿見の前で。ずっと……ずっと、座っていた。赤いあざの、ついていること……に。そのとき……ようやく、気がついた。鏡のなかには、俺が映っていた。……その日よりも、前の俺とは。ずいぶん、ちがう俺に見えた。
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