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19.妄想リザルト
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348 :匿名
2010/02/19(金) 01:28:34

―遠い日の記憶―

「どうも腑に落ちないな。」
  春の暖気を含んだ風が簡素な作りの家の窓から優しく吹いてくる。日の光が差し込む昼下がり。クィナが呟く。
「なぜ迷いの民が我々と混じり生活しようとする。確かにお前は私達に有益な情報を提供してくれる。だが決して居心地がいいはずがないだろう?」
  クィナの鳥類を思わせる鋭い眼光がユーリを捉える。心の深い処まで見透かさんとする目に彼女は微笑んで返す。
「ここには興味深い書物が沢山あるわ。中には概念化された技法や高度な術式を封じる物や古から伝わる物も。情報を提供するだけでそんな書物が読めるなら、全く…むしろ大満足よ。」
 違う。クィナは感じた。何となくだが、後付けのような理由。クィナは契約している翆霊―鴇羽により第六感のようなものが若干研ぎ澄まされている。
「違う。『ここに留まる理由』を聞いているんではない。『外界から逃げて来た理由』を聞いている。」
 ユーリは相変わらず微笑を浮かべている。が、彼女の目は全く笑っていなかった。冷えた、いや氷のような冷たい色が混ざっていた。
「ここはこの島の中でも孤立している。隔絶された地域、陸の孤島。外界からの干渉とは無縁。そうだろう?」
 鋭く突いてくるクィナの言葉。しかしユーリは一瞬で柔和な表情に戻す。
「あなたは少し人の心に入りすぎね。」
包み込むように言うユーリ。
「そうね…。強いていうなら、私達は迫害を受けて逃げて来た。とでも言っておきましょうか。」
 私達…?
  この村に住む迷いの民はユーリ一人。なら他の民は…。
「私達はね、元々人から…あなた達の言葉で言うなら迷いの民とは相いれぬ、でも切っても切れない関係で繋がってるの。人がいる所には私達もいる。私達がいる所に人がいる。」
 遠い何かを見るように、昔話のように語り始めるユーリ。
「そして彼等は私達を閉じ込めたわ。深い深い、とても深い所。何とか逃れた私は彷徨って…、出会った。」
 何にだ。クィナが聞き返す。しかしユーリはこちらを見ず…、聞こえているかも定かではない。
「そして恋をした。二人は愛し合い…、身篭った。私は正体を隠したわ。でもその子が十分に育った頃、私は逃げ出した。正体がバレる前にね。でも、ヒントを残したの。私を捜す手掛かりを。」
  語り始めてから初めてこちらを向くユーリ。しかしその目には憂いが宿っていた。

(ez/W52SH, ID:NWmehVldO)
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