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193.『戦隊学園』制作スタジオ
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2021/07/19(月) 20:16:27
案の定遅刻した。
8:51、七海はE校舎にある魔法クラスにようやっと到着した。
七海は重大なハンデを負っている。それは名前が「あ」で始まることだ。
出席番号1番であるがために遅刻判定になった授業も少なくない。
七海はそのたびに、自分の苗字が「渡辺」や「亘」だったらどんなに楽かと夢想した。
恐る恐る扉を開ける。
西洋的な家具や小物が置かれた、薄暗いエキゾチックな空間。とても教室とは思えない。
幸運にも――というより、奇跡的に――先生の姿はなかった。つまり出席はまだ取られていない。
生徒たちはまばらに座っていた。
魔法クラスは全クラスの中でも1、2を争う少人数。2041年になっても、魔法や超能力を使える人は多くないのだ。
勿論このクラスに友達は居ない。七海は1人、教室の一番後ろの席に着いた。
すると前から誰かがこちらに歩いて来た。
七海は弱視のため視認できなかったが、滅多に見ることのできない金色を感じた。それだけで大体誰かわかる。
分厚い黒ぶちメガネをかける。授業中はこのメガネを欠かせない。
パッと視界が開け、巫女の衣装を着た金髪の女子生徒が見えた。
「ごきげんよう。」
「おはようございます、金閣寺先輩。」
3年生魔法クラス首席・金閣寺躁子(きんかくじ そうこ)である。
金閣寺は机にもたれかかり、髪をなびかせて言った。
「小豆沢サン、あなたみたいな熊を何ていうのかしらね?」
「私がくまですか?」
七海はチョット考えたが、金閣寺の意図がわからなかった。
「何でしょう?穴ぐらで寝てるとか言いたいの?」
「ちこくま。ギャッはっはっ!!」
金閣寺は机をバンバンと叩いて笑った。けっこうな美人なのにそれが台無しになるくらいには笑った。
「もっとスピード感を持って行動しなさい。」
七海は先輩相手にも不敬な返答をする。
「スピード感って変です。必要なのはスピードそのものであって、感は不要だと思う。それに後で後悔ってのも、凄く変。」
「あら、おナマ。」
金閣寺は七海の顔をじっと見て。
「ドスコイジャーへの大金星、おめでとう。祝福するわ。」
――佐奈の暴挙により、メカ之助は4つの戦隊を踏み潰し戦闘不能にした。
これによりオチコボレンジャーの得点は7pts、戦-1の決勝進出まであとたったの3ptsとなっている。
反則と思われそうだが戦隊学園に於いては勝つことが全てなので問題はなく、破壊行為も許されるのだ。
七海の祈りが通じたのか死者が出なかったのが唯一の救いだ。
「コボレンジャーの決勝進出を願って、“気”を送ります。」
金閣寺は両の手のひらを七海の顔に向けると、念じた。
「むん――」
七海は自分の中に、熱い何かが流入してくるのを感じたが、それも気のせいかもしれない。
魔法クラスの首席であろうともこの程度で、本格的な魔法を使える生徒はほぼ居ないのだ。
「あなたに折り入って御願いがあるの。」
折り入って、つまりサシで話すという意味だが、この言葉が使われた場合は大抵不都合な話が始まるものだ。
金閣寺は七海の白い、髪の毛を撫で上げて。
「一束くれない?」
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