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193.『戦隊学園』制作スタジオ
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2021/06/04(金) 23:17:38

生還した私への反応は冷ややかなものだった。


文学クラスの授業は、10日分遅れている私に何の遠慮も無く進められた。
志布羅一郎に変わって文学クラスの担任となったのは、村田という、とっくにリタイアしたような教師だった。
若かりし頃はとある戦隊の司令官として腕を鳴らしたらしいその老教師の呪文のような授業を聞きながら、40居るクラスメート達は黙々とノートを取っている。

私はというと、新品でなかなか開いたまま固定できない教科書を押さえながら、何とか授業について行こうとしていた。
「先生!」
私は挙手した。
しかし耳の遠い老教師は、黒板を向いたまま答えない。
私は立ち上がって叫んだ。

「先生!!あの!!!」

「えぇ~・・・」
やっと気が付いた。老教師は名簿と私の顔を3回ほど交互に見た後。
「アズキさん。」

「アズサワです。すいません先生。私目が悪いので、一番前の席に変えてもらえないでしょうか?」

私は授業用に、分厚い黒ぶちメガネをかけていた。

アルビノは目が悪い。
日常生活に支障が出るほどではないが、小さい文字などは読めない。そしてこの老教師ときたら、豆粒ほどの文字を黒板にびっしり書くのだ。

「そりゃぁね~、生徒が1人なら、いいんですよ。」
老教師はゆっくり喋って私をイラつかせた。
「目が悪い子は他にもいるんですよ。みなさん前の席には行きたいわけですし、1人だけ贔屓するなんてことは、私の教師としての、ぷらいどって言うものが許さないわけですよ。それに最近の子は、ネットの使い過ぎなんですよ。あんたも、やるでしょ?ゲーム?それで、目が悪くなっちゃうわけですよ。アズキさん。」

「アズサワです。」
私は着席した。
と同時に、隣の席の男子生徒から声を掛けられる。

「まさか生きていたとはな。」

天堂茂である。
私は無視して、辛うじて読み取れた字をノートに書いていく。

「聞いているのか?なあ、LRが全滅したのはお前が足手まといだったからではないか?お前だけのこのこと逃げ帰って、恥ずかしくはないのか?」

私は無視を決め込む。
だが耳は塞げない。天堂茂の小声の嫌味は私の耳に入り、私の思考を釘づけにしてしまった。
気付くと私は、ノートに一度書いた文章を何度も何度も書いていた。

「聞けよ!」

天堂茂は私の筆箱を机から払い落とした。
筆箱の中身がばらばらと散らばる。
私は黙ってしゃがみ込み、それらをかき集める。

振り向いて笑う男子生徒、ひそひそ話をする女子生徒。老教師は見向きもしない。

「やはりお前がLRになるのが間違いだったんだ。僕が入っていれば、全てうまく行っただろう。」

筆箱の中に入れていた先生の形見の指揮棒が、コロコロと転がった。
手を伸ばして取ろうとすると。天堂茂はわざわざ立ち上がり、指揮棒を踏みつけた。

「志布羅一郎は人の見る目が無い馬鹿だ。死んだのも、当然かもな。」

「返してよ!!」
私は天堂茂を突き飛ばした。
「よせ!いきなり手が出るとは頭がおかしいのか?」
私は指揮棒を拾い相手の額に突き付ける。冷静になれと心の声が言う。だが止まれない。

「ぶっ殺す!!」

「品が無いな。」
天堂茂は目を細めて笑うと、ガクセイ証を取り出し顎に当てた。
「変身。」
真っ赤な戦士に姿を変える。

「見ろよ、選ばれし者だけがこのカラーを手にするんだ。お前みたいな色の無い奴とは誰もチームを組まないだろうな。」

「そっちこそ。そんなに性格悪きゃ、友達出来ないんじゃない?」

天堂茂は「聞いたか今の!」と大げさに言い、クラスから嘲笑が湧き上がる。
「僕は学年一のエリートだ。誰もが僕とユニットを組みたがる。まあ僕は選び抜かれた相手としか組まないが。僕を敵にすれば、クラス全部を敵にするぞ。」

「それ脅し?」

「お前は戦隊にはなれない。ならせないぞ。」

「マズルフラッシュ!」
指揮棒の先端から炎が噴き出す。天堂茂は悲鳴を上げて飛び退き、椅子ごとひっくり返った。
老教師はようやくクラスの誰一人として授業を聞いていないことに気付き声を上げた。

「何してる!アズキさん!」

「先生。私、文学クラスやめます。」

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