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212.小さな殺し屋さん
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56 :ねむねむ
2022/01/24(月) 14:23:06
No.2 『赤色』
そうして若干引いた僕と山本は職員室の前に立った。
どちらが扉を開けたのだろう……たしか山本だった気がする。
扉を開けた途端に聞こえた怒声と悲鳴、そして真っ赤に染まった床……それらに僕らは硬直してしまった。
先生たちの混乱が僕らにも伝わり、僕の頭は何があったのか整理しようとする。
先生たちは怯えている。何にだ?
「やめろ!やめるんだ!!落ち着け!!!」
先生たちの恐怖が混じった視線の先に、ポツンと一人で立っている女子生徒がいた。
彼女だった。
だが彼女は制服を着ていなかった。
……いや、違う。アレは制服だ。
でも、でも……色は真っ赤だ。
あの色は……まさか……
先生たちの方を見る。
男の先生たちの後ろで、保健室の先生が『何か』を必死に冷やしたり布を巻いたりしていた。
アレは、人だ。布じゃなくて、包帯だ。
彼女の方に視線を戻す。
危ない。逃げろ。
頭の中ではそうしなきゃいけないと思っているのに、体が石のように固まったまま動かない。
金縛りにでもあったかのようだ。
先生たちもそうなのだろう。
皆、手の先が震え、目を大きく見開いている。
「大人なんて、信用できない。」
うっすらと笑みを浮かべて彼女は言った。
あの時彼女はたぶん、悲しい、寂しい表情をしていた。
どこか諦めたような、それでも縋り付きたいような、そんな自分を抑え込むような、そんな顔だった。
でも、その時は身の危険に気を取られて、そんなことはもちろん考えられなかった。
怖い。逃げなきゃ。危ない。
彼女は自身の左手にあるものを自分のハンカチでこすった。
キラリと、それは光った。
赤で光があまり反射していなかったのだろう。
今までは目立っていなかったが、彼女よりも、刃物の方に目が向く。その場で最も存在感を放つものが、彼女から刃物に変わった。
拭き取り切れなかった赤を、彼女はペロリと舐めた。
一回やってみたかった、とでもいう風に。
「まず。」
顔をしかめる。
きっとあれは、彼女の赤じゃない。
アレは……。
保健室の先生が懸命に手当てをしていた人のことが頭をよぎった。
どくん、どくん
胸の鼓動がやけにうるさい。
彼女に聞こえたら殺されるかもしれない。
息が苦しい。
知らず知らずのうちに呼吸を止めていた。
震えながら、浅く息を吐き、薄く息を吸う。
彼女から目が離せない。
誰も、何も言わない。
ただ、重苦しい緊張感だけが、その場を支配していた。
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