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250.ネット小説相談所・二
 ┗19

19 :樹暁
2022/01/30(日) 12:42:37

 けれど、そもそも白ウサギの体は小さい。いくら目立つピンクのチョッキを着ているとは言っても、辺りには視界を悪くする霧が立ちこめているのだ。しばらくはアリスも右往左往していたが、とうとう完全に見失ってしまい、立ち止まってしまう。
「どこ行ったんだろ?」
 アリスにそのつもりはなかった。しかしアリスの中に眠る本能が彼女の足を動かし、無意識のうちに歩を進める。

 そして。

「えっ、きゃぁぁぁあああ!!!!!!」

 アリスの足元の地面が、急に無くなった。いや、正しくは、アリスが自ら落とし穴に落ちたのだ。霧に隠れて見えなかったのだ。
 何も支えるものが無くなったアリスの体は無慈悲にも宙を舞う。穴の中は真っ暗な空間で、アリスが落ちた穴から見える光はぐんぐん細く、小さくなる。
 恐怖のあまりアリスは目を閉じた。バサバサと身に纏う服がなびく音がやけに大きく聞こえる。腹が浮くような感覚が気持ち悪い。
 穴はどこまで続いているのだろう。浅くはない、むしろ深い。このまま落ちてしまえば、自分の体は……そう思ったのも束の間。アリスはふと、違和感を感じた。

 音はすぐに収まり、静寂に包まれた。それに、アリスは『落ちている』という感覚がしなかったのだ。
 そんなことはありえない。まさか、気付かぬうちに既に死んでしまったのだろうか? いや、そんなはずはない。そうだと思いたい。目を覆う手の感触は変わらず感じるし、空気の流れも僅かに感じる。

 目にかけた手をゆっくり外し、おそるおそる目を開ける。するとなんということだろう。確かにアリスは落下している。しかしその速度があまりにも遅い。それになにより視界に映る全てが変わり果てていた。白く温かい光に覆われて、ぷかぷかと本棚やら戸棚やら服やら写真やらが浮いている。
 アリスはそれに触れてみた。アリスは写真を手に取った。黒髪の女性だけが写っている。後ろにあるのはなんだろう……文字だろうか、読めない。
「ね……るな……?」
 他にも文字らしき羅列はあるが、考えているとアリスは頭が痛くなった。そしてぷかぷかと浮いている戸棚の上に写真を置いた。元々写真は浮いていたのでそのまま手を離しても良いのでは、と思いもしたが、万一落ちて穴の下にいるかもしれない誰かにぶつかりでもしたら申し訳ないと思ったのだ。

 しばらく落下を続けていると、だんだん物が少なくなってきた。次第に辺りも暗くなり、直ぐに元の暗闇に戻ってしまった。
 さらに落下が進むと、視界の下の方で再び白い光が見えてきた。しかし今度は先程のような空間を包む強い光ではなく、弱く点々とした光が複数ある。

 ザ、ザザッ……ザッ……

 不快な音が嫌に耳に響く。アリスはその光が何なのか見極めるべく、じっと光を見つめたが、光から距離が離れているのでよく見えない。それでも辛抱強く光を睨んでいたが諦めて、自分の体が光に近づくのを待った。目を凝らしたせいか頭が痛い。

 ザザザッ……ザ、ザザッザッ……

 光が大きくなるにつれ、音も大きくなり、アリスは耳を塞ぎたくなった。心做しか、キーンというか細い耳鳴りも感じる。
「これ、なに?」
 ようやくハッキリと光の正体を確認できた。アリスは思わず呟いた。それは、映像だった。何を映しているのか、誰を映しているのか、何処を映しているのかわからない。しかしアリスは見覚えがあった。何故かは分からない。ただ、『見たことがあった』。

 耳鳴りが強くなった。頭の痛みも増してきた。

「あ、れ? 私、どうして……」

 視界がゆっくり暗くなる。見えるたくさんの映像もぼやけていく。
 消える意識の片隅で、アリスはこんな声を聞いた気がした。

『……なに……な……でやる!!!』

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