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253.バカセカ番外編スレ
 ┗13

13 :やっきー
2022/05/13(金) 22:20:31

《蘭視点》

 一体おれはどこを歩いているんだろう。遠くに見える建物を目印にしてるけど、全然役に立たない。迷路だから仕方ないと理解していても、どうしてもイライラしてしまう。

「ったく。日向を探さなきゃだってのに」

 日向に危機が訪れることはない。それはわかってる。でも、合流するに越したことはない。
 何か手がかりはないかと空を見上げてみる。のろしでも上がってるとわかりやすいんだけどな。無いか。そもそも日向は燃やせるようなものを持ってないな。あ、おれもだ。魔法は使えるかわかんねーし。試してみるか? もしそれが原因で行動不能になるといけない。まずは日向を探してからだな。
 それが出来ないから魔法を使おうとしてるんだって!!


 ……なにか、聞こえた。遠く、でも辿り着けないほど距離が空いているわけでもない。 なんの音だ? 破壊音?
 わからない。音が鳴ったということは、そこに動くものがあるということだ。それが生物なのか無生物なのかはさておき。

 おれはその音源が日向であることを期待して、そこを目指すことにした。実際に辿り着けるかはわからないけど。
 なにか目印になるものはないかと、いまから向かおうと思っている方角を改めて見る。奥の方に、細長い、塔のようなものが見えた。ちょうどいい。あれを使おう。
 そう考えて足を進める。それにしても、本当なにもないところだな。遠くに建物が複数見えはするけど、近くにあるものなんて白い壁くらいだ。いままで進んで来た道の途中にもなにもなかった。どうしてだろうか。

 ドオォンッ
 
 音が、鳴った。遠くから? 違う。すぐ近くだ。音とともに振動が体に伝わるほど、近く。視界に音源らしきものは見当たらない。
 おれは後ろを見た。いた。なんだ、こいつ。

 本物の灰色よりは白に近い色、いわゆるねずみ色の体。おれの五倍くらいの大きさの、構造は人間とよく似た骨格に皮だけが張り付いている。手足の指はナメクジのような形で、にゅるにゅると常に動いている。頭はない。首の骨はある。頭だけが、ない。

 恐怖を感じるくらい、そいつからは何も感じられなかった。殺気も敵意も戦意も何も。そんなことってあるのか? さっきの近い場所からの音の正体は間違いなくこいつだろう。だったらこいつは動けるはず。なのに動く気配すらない。触手はうねうねしているけど。
 ――バケモノだ。直感で、そう感じた。

 ヒュッ

 耳元で、風を切る音がした。目の前から、バケモノが消えた。
 え、と思う前に、背後から大量の触手に絡め取られた。
 いつの間に後ろに?! まさかさっきの風は、こいつの移動によるものか? どんだけ速いんだよ!!
 だんだん体を締め付ける力が強くなる。粘液に覆われているのにこんなに強い摩擦力が生じるなんて。って、現実逃避してる場合じゃない!

 もう、魔法を使うしかないのか? 気にしていられる状況じゃないよな。
 そう自分に言い聞かせ、おれは体内で魔力を練り上げた。練り上げたと言ってもそれにかかる時間はほぼ一瞬。火魔法を、まずは弱い魔力で放つ。体の周りに火を出現させるだけの初歩的な魔法だ。
 結果、バケモノはびくともしなかった。でも、『発動は可能だった』。おれの体にも異変は起こっていない。この場所では魔法が使いにくいのかもしれない。使いにくいだけなら、魔法発動に使う魔力を増やせばいいだけだ。

 体を締め付けられているせいで、肺の中にはほとんど酸素は残っていない。息苦しい。骨もさっきからミシミシと嫌な音が鳴っている。
 恐れる必要はない。こんなやつ、恐れるに値しない。なぜなら、おれは。

「なにがしたいのか知らねえけどな、おれを倒したいなら、そんなんじゃ足りねえよ」

 はあっ、と大きく鋭い息を吐く。ため息なのか嘲笑なのか、おれ自身にもよくわからなかった。
 体内から、熱い何かが噴き上がった。心臓から皮膚へ、皮膚から外気へ。熱い何かは、空気を、触手を、そして燃えた触手の灰すらも燃やし尽くす。
 触手から解放されたおれは、素早くバケモノから距離を取った。バケモノは触手から体に炎が広がり、頭がないから表情があるわけじゃないけど、なんとなく焦っているように見えた。

「おい」

 呼びかけるが、反応はない。聞こえていないのだろうか。どうでもいい。

「じゃあな」

 炎で作りあげた弓を引き、矢を放つ。ドッ、と重い音。バケモノの皮膚は裂け、灰色の骨が露出する。バケモノの体が、ゆっくりと傾いた。静かに、倒れた。

 ふう、と改めて息を吐く。
「うわっ、弁当潰れた! てか体痛えな。骨折れたか?」
 そんな独り言を呟いていると、唐突に、ぞわりと嫌な気を感じた。

 倒れたバケモノの向こうに、また違った姿のバケモノが立っていた。

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