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253.バカセカ番外編スレ
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15 :やっきー
2022/06/20(月) 01:36:58
《日向視点》
化け物が跳んで行った先で、人の気配がした。徐々にこのセカイにも慣れてきたらしい。感じた気配は、蘭のものによく似ていた。
偶然ではないだろう。あいつは意図的に蘭のところへ行ったに違いない。四つも八つもある方角の中で、たまたま蘭のいる方へ直線に進んだというのは考えにくい。
「ふざけるな」
低い唸り声が自分の喉から出てきた。そして私は思い切り跳躍した。高い壁も越えて、果てまで続く迷路を見渡す。灰との区別を無くしたような、最も光を反射するはずの一面の白色は、不思議と眩しいとは感じなかった。どうでもいい。私は蘭がいるであろう方向を見た。相変わらず複雑に入り組んだ迷路。問題ない。この程度なら、覚えられる。
私の体の上昇は、急に止まった。と言っても空中に停止したわけではない。非現実的なまでの頭上からの圧力に、私の体は押しつぶされ、落下する。
ドゴォンッ!!
激しい音と砂埃にまみれ、私は床に叩きつけられた。頭から突っ込んだらしく、猛烈な痛みが上から下へと駆け巡る。けれどそれは私の運動を妨害しない。私はゆっくり立ち上がった。
私は死なない。丈夫を通り越したこの体を忌み嫌う大人がどれほどいたことか。ああ、違うな。大人だけじゃない。私もこの体が嫌いだ。死にたくても死ねない。彼らの恐れるこの白眼も、何度抉られ再生したことか。無駄なことだと知りながら、それでも消え去りたいと思うほど、世界に疎まれる白眼を消し去りたかったんだろう。
後頭部を撫でると痛み共に、ぬちゃ、と嫌な音がした。手の平からは真っ赤な液体が滴っている。ちょっと悩んで、蘭が見るとうるさいから、一応魔法で治しておく。そして先程確認した迷路を思い出しながら、蘭の元まで駆け出した。
○○○
私は化け物の後頭部を蹴った。助走もしたけど、この体格差だ。ダメージは期待できない。実際、ビクともしなかった。まあ、いい。化け物の意識を蘭から背けさせる方が重要だ。
「ひなたっ?!」
蘭の驚いた声が聞こえた。姿は見えない。でも私が蘭の声を聞き間違えることはありえない。
化け物は私を見た。私がさっきまで見ていた化け物の面影を残しながら変わり果てたその姿に顔をしかめつつ、観察する。
化け物は相変わらず巨大だ。しかし体色に変化があった。背景に同化しそうなほどに白に染まっていた体は、いまは黒が混じって灰色になっている。白と黒の中間よりは白く、ねずみ色よりは黒い。毛むくじゃらの体は肉が削ぎ落とされ、手足は粘液に覆われた触手に変わっていた。首だけ骨がむき出しで、その上にミイラを連想させる、醜くしぼんだしわくちゃの顔が乗っている。その顔は眼球が外れ、歯が抜かれ、鼻が削がれた、私たちとは似ても似つかぬ容貌だった。
突然化け物の触手が伸びてきた。一秒足らずで私の目の前に到達したそれを横に飛び退いてかわすと、横から別の触手が襲いかかってきた。
この小さい体では、これを避けることは難しい。そう判断して、私はこの攻撃を一度受けることにして、顔の前で腕を交差させた。しかし、痛みが私を直撃することはなかった。その代わりに、激しいオレンジの光が視界に侵入する。
突如現れた炎の球は、化け物の体の中央部分に当たる。化け物はぐらりと体を傾け、倒れた拍子に粘液がびちゃりと飛び散った。
「大丈夫ですか?!」
駆け寄ってくる、男の声。見ると、後ろにもう一人、女がいた。さっきまでいなかったはず。いつの間に?
男女は別れて、女が蘭の元へ行った。男が私のところへ来たけれど、そんなものは無視する。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな蘭に近づくな誰だ誰だお前は誰だ近づくな近づくな私たちに――
「ちかづくな」
ほぼ無意識に出た音に、女の肩はびくりと震える。
「大丈夫だよ。私たちは怪しくない。……なんて言っても、信用出来ないかもしれないけど」
子供である私を安心させるためか、女は微笑む。いらないいらないそんなのいらない。
「蘭に近づくなッ!!」
私は怒鳴った。当然だ。得体の知れない奴が、蘭に何をするかわからない。油断出来ないわけではない。こんな奴、敵ではない。ただ、蘭に近づく行為そのものに嫌悪感を生じる。
化け物はむくりと体を起こした。怒りを表すように、「ギーー」とおそらく鳴き声を上げて、触手をしならせ、またも懲りずに襲い来る。
面倒くさい。手の平を開いて、化け物に向けた。紙をぐしゃぐしゃに丸めるように手を閉じる。化け物の体は段々縮まりながら、一部が異常に膨れ上がり、そして破裂した。
この魔法は使うつもりもなかったし、使えるとも思ってなかった。どうして使えたのか、その疑問は投げ捨てて、痛む右腕を抑えながら、私は男女を睨んだ。
「あなた達は、だれ」
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