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253.バカセカ番外編スレ
 ┗19

19 :げらっち
2022/07/30(土) 01:24:36

ついに暑さで目がやられたか。そう思った。
一面がホワイトアウトした。
ルルは何度か目をしばたき、ゆっくりと周りを見回した。

真っ白の、何も無い空間。

いや、そうではない。空間は確かに広がっている。豪雪地帯で風景が銀世界になるように、全てのものが白く塗られていて、境界線が酷く曖昧なのだ。
だがよく見れば、床があり、壁があり、天井があった。消火栓があり、窓があり、真っ白い校庭があった。風景はいつまでも白く、濃淡も無いため、遠近感が掴みづらかった。どこまでも無音で、あのセミの声が懐かしかった。
ルルはスマホを見た。圏外と表示され、Wi-Fiが使えない。

ルルに異変が起きたのではない。世界が変わったのだ。
ルルが移動したのではない。セカイが動き、ルルを迎えに来たのだ。巧妙にルルの世界に溶け込み、不要なものを退けて、ルルだけをからめとったのだ。


そしてここがセカイになったのだ。


「見たことのない魔法ですね。」
ルルは少し驚いたが、キャスストーンにこびりついた邪悪や、世界のバグを倒してきた実績を思い出す。
私の魔力なら対応できないわけがない。
ルルは白い廊下を歩いた。色素は抜け落ちているが、元居た学校と同じ間取りのようだ。質感も変わらないように思える。ルルは2-3教室に入った。そこに弥吏が居る、そんな気がした。どうせ弥吏をさらった悪党もそこに居るのだろう。ブッ倒して友達を救い出し、元の世界に戻る。見え透いたオチだ。

だが白い教室には、誰も居なかった。ルルと弥吏のノートも無くなっており、白い机が整然と並んでいる。

ルルはちょっと困惑した。
敵を倒すことでエンディングを見られないなら、このゲームのタスクとは何であろう。
だがそこに敵は潜んでいた。ルルはあっと声を上げた。真っ白いエアコンがぬるぬると動き出した。下部から人体模型の様な半透明の体が生えてきて、音も無く床に着地した。人型の二本の足が生えているが手は存在せず、エアコン本体が頭部になっている。頭でっかちだ。
「わお、ダサい怪人さんですぅ!これは倒しちゃっていい系ですよね?」
ルルはスマホ――キズナフォンをタップした。

「コミュニティアプリ起動!!」

Wi-Fiが使えなくとも、変身アイテムとしては機能する。
ルルは魔力で全身をコーティングし、赤い戦士に成った。青いリボンとマントがお洒落だ。

「炎の勇者!!ガールズレッド!!」

そこに割って入る者が居た。
「どうなってゐる、猫野瑠々!」
「え?」
教室の後ろの扉をガラと開け、誰かが闖入した。ルルの知り合いではない。シンプルな顔つきだ。
「概括する。ぼくはプラスチックエンゼル、神様の部下の1人だ。おまゑを観察するのがぼくの役割だ。神の道を踏み外さないかどうかをな。」
プラスチックとは変な名だ、とルルは思った。プラスチックは机の合間を縫ってルルに近寄る。
「これはゐったい何の魔法だ?」
ふぅん、こいつ、これは私がやったと思ってるんだ。ルルは肩をすぼめた。
「さあ?私が問いたいぐらいですよ。」
「ちっ、まあゐゐさ。おまゑを連れ帰ることさえできればな。上の指示を仰ごう。神様、聞こゑますか。こちらプラスチック。神様――」
廉価版の天使はこめかみに指をあてて交信を続けたが、応答はなかった。
「をかしい。この通話が通じなゐわけはないんだが。通じなゐとすれば、ぼくが死んでゐる場合か、世界からはみ出してしまった場合だが……」

やがてプラスチックは、エアコンの化け物の存在に気付き、ひゑっと声を上げた。
白い背景に同化している上に動かず、なおかつ気配も無いため気付かなくても致し方ないが、神の部下としてはどうなのか。
プラスチックはルルをドンと押しのけた。
「どけ!!こいつは世界を外れた存在に違いなゐ、不穏分子きゑろ!!!」
プラスチックの腕がブレードに変形した。エアコンに勝負を挑む。

『おまえは、よんでない。』

ドッ、と噴出音。
「をあ!!!」
涼しげなエアコンが業火を噴いた。熱風がプラスチックエンゼルの体を貫いた。傍にいたルルも火炎に晒され、尻餅をついた。直撃を受けた天使はというと、机をなぎ倒し、黒板に打ち付けられた。そして、道端に落ちているセミのようにバラバラになった。
「神の部下が形無しですね!私が相手ですよ!!」
ルルはすかさず立ち上がると最上級の炎魔法で応射、「チート級スパイラルフレア!!!」炎と炎が押し相撲、教室は炎で一杯になり、空間が吹き飛んだ。ルルもエアコンもくるくると宙を回りながら、校庭へと落ちてゆく。
プラスチックエンゼルはというとこれに巻き込まれ完全に消滅した。最期の意識は、ルルがやはり神の名にふさわしい強さを持っているのだという、納得だった。

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