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253.バカセカ番外編スレ
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24 :やっきー
2022/08/02(火) 07:28:02

《蘭視点》

 日向の黒く変色した右腕を見て、だんだん怒りが込み上げてきた。あの力はたったあれだけのことで使っていい力ではない。変色部分は力を使う度に大きくなり、右腕はとっくに侵食されている。この黒が日向の全てを覆い尽くしたとき、日向はどうなってしまうんだろう。
 日向に向ける感情は、とっくに怒りから心配へと変わっていた。苦笑したい気持ちを抑え、おれは怒っているんだと日向を睨む。
「平気」
 おれの視線に気づいたのか、日向はそう言った。
「そんなわけないだろ」
「ただの呪いだもの。それより、どうしてこの力がここで使えたのかな」
 日向の問いにおれも首を傾げた。たしかに。あの日向の力はあの世界でのみ――あの時空でのみ適用されるもののはずだ。ここは明らかにおれたちが元々居た世界ではない。
「考えたって仕方ないだろ。とにかく、もう使うなよ」
「うん」
 守る気のない約束を結んで、このわけのわからない迷路をただ歩く。出口を探しているわけではない。一刻も早く帰りたいとは考えていないし、それは日向も同じらしい。
「そういえばこれどうする?」
 おれは片手を持ち上げて、持っていた弁当を日向に見せた。潰れたところは魔法で再生した。問題なく発動されるとわかった以上、魔法の使用は当然行動の選択肢の一つに組み込まれる。折角食べるなら潰れたものより綺麗なものがいい。その方が食べやすい。
「お腹空いたの?」
「ちょっとな。でも、やっぱりまだいいか」
 おれはさっきの四人を思い出す。まともな食料を持っているようには見えなかった。たかられても面倒だしあいつらが完全に見えなくなってから食べよう。ずっと持っていても邪魔だ。アイテムボックスに入れとくか。
「アイテムボックス・オープン」
 いつもならここで橙や黄が混ざったような色の、既にしまってある物の一覧の画面が出てくるところだ。だけどそれが表示されなかった。
 あれ? なんで出てこないんだ?
 数秒考えて思い出す。アイテムボックスに物を収納出来る理由は『世界に情報を保存しているから』だ。このセカイじゃ使えないんだ。マジか。魔法が使えないよりマシか? 魔法が使えるならアイテムボックスが使えてもいいと思うんだが。

「待って!」
 背後から声がした。無視しようかとも思ったけど、走り寄ってくる音も聞こえる。近づかれたくないな。返事するか。
「はい?」
 おれは半身だけを動かして後ろを見た。日向は顔だけを後ろに向けた。それも首を限界まで回したわけじゃなくギリギリ声の主が視界に入る程度。
 声の主は女だった。茶髪の女。奏芽とか言ってたか?
「このよくわからないセカイで、小さい子二人だけで行くのは危ないよ。一緒に行こう?」
「そうですよ! それに、みんなで協力すればもっと早く帰れるかもですし!」
 黒髪の女も便乗しておれたちを諭す。
 あ、そうか。おれたちは見た目だけは子供だしな。そう思われるのも無理ないか。正直言って、あいつらは居ても邪魔なんだよな。囮にも使える気がしない。
 確認するまでもなく日向の意思は分かりきっている。おれは茶髪の女に視線を固定したまま言った。
「いいえ、平気です。ご心配ありがとうございます」
「で、でもっ」
 しつこいな。
 茶髪の女だけじゃない。おれたちに心配とか不安とかの色が浮かんだ目が向けられる。だけど一人だけ、怪訝そうというか明らかに他の目とは違う目があった。違うのは目だけではなく、全体の見た目も異色だった。おれたちの世界では、そしておそらくあいつらの世界でも珍しい色素の薄い白髪に青眼の外見。さっき聞こえてきた話からしてあいつらはどうやら似たような世界から来たらしい。それがどこなのかは聞き取れなかった。
 日向と同じ、白の見た目を持った少女。名前はリリだったか。
 いいな。外見だけで好感を持ったりはしないけど、とりあえずほかの三人よりはましだ。日向とほんの少しだけ雰囲気が似てるからかな。それともあの異質さに少なからず興味を抱いたからだろうか。どちらでもないかもしれない。

「奏芽」

 男が女の肩に手を置いた。女が男を見ると、男はゆっくりと首を横に振る。
「心配な気持ちはわかるけど、助け合う気がない人達が居ても意見が衝突するだけで危険だ。もし助けが必要になったら向こうから来てくれるよ」
「何言ってるの! 私達はヒーローよ? あの子たちを見捨てることなんてできない!」
「それはそうだけど。でもここがどんな場所かわからない以上余裕なんてないのはわかるだろ?」
「それは……!」
 女を言いくるめようとする男だが、あいつもやっぱりおれたちを案ずる顔をする。いらない心配だっての。
「もし助けが必要になったら遠慮なく来てください」
 男が言う。やっと終わったか。

「はい。ありがとうございます」

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