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253.バカセカ番外編スレ
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28 :やっきー
2022/08/08(月) 17:40:56
《日向視点》
蘭が吐き出した飴玉は地面に吸い込まれていった。破壊された壁や床も元に戻るし、同じようなものかな。
「汚い」
私は蘭を横目で見た。あれは食べ物とは言えない色をしていたから食べ物を粗末にしたとは言わないけど、一度口に入れたものを出すのは汚い。
「あの黒髪の女の手の上に乗ってた時点であれは汚いだろ」
蘭の言い分も、まあ、理解はできる。もちろん包装はされていたけどだからといって嫌悪感がなくなるわけじゃない。
「汚い」
「だからっておれを汚物みたいに見るなよ。あー、うがいしたい」
蘭は心底不快そうな顔で忌々しそうに飴玉が吸い込まれていった床を見た。
「出来ないもんは仕方ないか。それよりさ、これ食おうぜ」
これというのは蘭がさっきベンチに座るときに置いた弁当のことだろう。まだいいと言っていたのに。やはりお腹が空いていたのだろうか。
「あいつらがこれに目をつける前にさっさと食べよう」
なるほど、そういうことか。貴重な食料だから他の人に取られたくないという心理は理解できる。でも、それなら私と食べたりなんかせずに蘭一人で食べてほしい。どうせ私は空腹を感じにくいし食べなくたって死なない。けれど蘭は違う。他の人よりも我慢ができるというだけで飢えもするし、限度を超えれば死にもする。
「変なこと考えずにちゃんと食えよ」
思考は読まれているらしい。付き合いは長いからね。
食事中、私たちは何も話さない。これはいまだけのことではない。私たちはほぼ毎日のように会っているけれど、会ったからといってベラベラと何かを話すような性格ではない。お互いが同じ空間にいるだけで満足できる。たぶんこれが幸せってことなんだろうか。よくわからない。
食べてるところをじろじろ見るのも蘭が落ち着かないかなと思って咀嚼音だけを聞いていた。蘭は食べ方が上手で咀嚼音はあまり聞こえない。
弁当はいつも二人分、東家の誰かが用意してくれている。形も色も綺麗で体のことも考えて作られていることがわかる中身。私とは違って蘭は東家に居場所がある。よかった。
「ごちそうさま。これからどうする?」
食べる速度はほとんど同じだったらしい。私が食べ終わった十数秒後に蘭が食べ終わった。蘭の問いかけに私は首を傾げる。
「することもないし、歩いてみようか」
ここで休憩するのもいいけど、ここがどういう場所なのかもう少し調べた方がいい気がする。
「じゃあとりあえずあの三角錐を目指そうぜ」
そう言って蘭は輪郭が少々ぼやけて見えるくらいの距離にある三角錐を指した。他に目印にできるものも特にないし、あれは私も気になっていた。なんだろう、呼び寄せられているとでも言おうか。助けを求める声が聞こえるわけでも手を引かれているわけでもないのだけれど。
私は頷いて了承の意を伝えた。蘭が立ち上がるのを確認して私も立ち上がる。弁当箱はいつの間にか両方消えていた。都合良いな。これにもなにか意味があるのかな。
どうでもいいや。この世界とは何なのか、その問いの答えを導き出すヒントには少なくともいまは成り得ない。後で必要になったら思い出そう。
仮の目的地が決まったので私たちは歩き出す。そして曲がり角に差し掛かったところで、異変があった。
『だめ。ちゃ……と協り……して』
老若男女の声が混ざって不協和音となった音声が頭の中に直接流れ込んできた。視覚情報が混乱してめまいと頭痛が起こる。気持ち悪い。
視界に映るモノが情報に戻されて、新たなモノを形成した。白い壁に白い床。異変が起こる前とあまり変化のない視界の中に消えているものがある。
「蘭?!」
私は叫んだ。まただ。蘭がまたいなくなった。でも前回とは違って私はセカイにいる。前回とは状況が違う。どこ? どこにいる?
「あれ? えっと、日向ちゃんでしたっけ?」
間抜けとも取れる声が正面から聞こえた。焦りのあまり存在を認識できていなかったようだ。そこにはさっき分かれたはずの霞月とルルがいた。あちらもそれぞれ一緒に飛ばされて来たと思われる人物を連れていない。話し合いでもして二手に分かれることになったのだろうか。
「なあんだ。やっぱり一緒に行く気になって待っててくれたんですね! そういえばあの男の子はどこに行ったんですか?」
少女らしい高い声が無性に神経を逆撫でする。相手にする必要は無い。私は無視して二人に背中を見せた。
「わあ、無視なんて酷いですぅ! リリもそう思うよね?」
二手に分かれたのではなくあの二人もペアとはぐれた――離されたみたいだ。でなければルルはいない人に同意を求めたりなんかしない。頭がおかしいのでなければの話だけど。
「リリ? え、どこに行ったの?」
「奏芽もいない! 一体どこに」
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