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253.バカセカ番外編スレ
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31 :げらっち
2022/08/10(水) 15:47:12

ひなたの右腕は、黒ずんでいた。痛んだバナナのように。
「ひなたさん、大丈夫?」
年下相手であるに関わらず、私は彼女をさん付けで呼んでしまった。よそよそしいかな。
彼女は無表情で私の眼を見た。青と白のオッドアイ。それは少しだけ、リリを想起させた。

「心配いらない」

ひなたはそれだけ言って、そっぽを向いてしまった。なにそれ、感じ悪い。せっかく心配してあげているのに。
それに、納得いかない。私の魔法は通じないのに、他の2人は戦えるなんて。

それとは別に、妙案が浮かんだ。
「霞月さんって、電気の魔法使えるんですね!Wi-Fi出してくださいよー!!」
体についた泥をハンカチで拭いていた霞月さんは、びっくりした顔で言った。
「えっ。僕の魔法は電気そのものを生み出すだけで、Wi-Fiとか、複雑なものが出せるかはわからないなあ。」
「いいからやってみましょうよ!Wi-Fiほしいです~!Twitterもチェックしたいですし!」

霞月さんはちょっと呆れた目で私を見た。いやーっ、そんな目で見ないで!!何で?

「まあ、とにかくやれるだけやってみる。案ずるより生み出すが易しだ。」
霞月さんは両手をうにょんと動かした。空気であやとりをしているようだった。

「Wi-Fi開通!」

ポンと間の抜けた音がして、私のスマホの電波アイコンが、Wi-Fiをキャッチしたことを示した。
「成功ですよ!流石ですぅ!」
私はすぐさま、リリに通話を発信した。LINE交換しといてよかった。
ほどなくしてリリが出た。
「あ、嘘?つながるんだ。」
「リリ、やほー!霞月さんがWi-Fiつないでくれたんですよ!そっちはどう?」
「こっちは奏芽、蘭くんと一緒。」
「よかった、奏芽は無事か。」霞月さんは大きく息を吐いた。どうやら、余程心配していたらしい。

「多分これもセカイの仕掛けの一種。変わったことは無かった?」とリリ。
私は、バケモノ相手に、魔法が通じなかったことを伝えた。

「それは当然。あっちの世界とこっちのセカイじゃルールが違うもの。」

私は憤慨する。
「でも私の魔力は強いのに!私の魔力は変わっていないのに!!私は“神様”ですよ!」
神様というフレーズは霞月さんたちには聞こえないよう小声で言った。神であることが知られるとマズイ。

リリはクスッと笑った。明らかに、私を小馬鹿にするひびきだった。私はムッとした。
「魔法をセカイに“適応”させて。でないと強い魔力も役に立たないよ?じゃあね、“神様”。円錐で合流しよう。」

通話を一方的に切られた。
「ああもう!!!」
私は叫んで、ハッとした。霞月さんが、ドン引きしていた。
「あ……ああもうっ!私ったらお馬鹿ですう!こんな簡単なことをしくじるなんて!と、とにかく先に進みましょ!」
私は誤魔化すのが上手だ。


冷静なルルが、私自身に囁く。
あなたは万能ではないの。神は神でも、それはひとつの世界の「神」でしかない。他の世界に来れば、その称号は、たちまち役に立たなくなるの。


すると突然、ひなたが私の目の前に現れた。私はひえっと悲鳴を上げるところだった。
彼女は私のスマホをじろじろ見ていた。
「ひなたさんも、スマホ置いて来ちゃったの?」

「わからない。それはなに」

「え?」
えっ。
スマホがわからない?
スマートフォンを知らないの??
もしかして、そっちの世界にはスマホは存在しないの?インターネットも?グーグル翻訳も?
嘘だっ!検索ができないなら、どうやって世界のことを知るの?TwitterやインスタやTikTokが無い世界なんて、有り得ない。有り得ないよ!!

一方で私の中に、意地悪な気持ちも芽生えた。
おすまししているひなたちゃんを、驚かせてやろう。
「へへーん、これはスマホっていうすごいアイテムなんですよ!知らないの?この中に何でも情報が入っていて……遠くの人とも会話できるし!」
だがひなたは、仔細には興味ないというふうだった。
「へえ、やっぱり魔法具の一種か」

冷静な私は心の中で呟いた。
ああ、哀れなるーちゃん。文明の利器に依存しているね。Z世代だね。
私は悪くないもん。そういう世界なんだもん。仮想世界を巡らす網目にとらわれて、もがけばもがくほどハマっていく沼に落ちて、藁のような人間関係にすがって、そうしないと生きられない世界、そういう世界にしたのは大人たちだもん。
そこに疑問符。
その大人が子供の頃は、その更に上の大人に、運命を決定づけられたのか?
だとしたら、私は次の世代に、苛烈な宿命を、押し付けていないか?腐敗した世界の後片付けを、投げ出していないか?私が大人になった時、子供たちに、恨まれてしまうのではないか?

私は娘であるリリや、幼い子供であるひなた、蘭のことを思った。そして少し恥ずかしくなった。

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