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253.バカセカ番外編スレ
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38 :やっきー
2022/09/08(木) 21:01:31
《日向視点》
未知のものに遭遇することは面白い。
私は全てを知り尽くしている。しかしそれは私がいた世界での話。違う世界には、違う時空には、私が知らないことがあるらしい。
「これ、ビクトリーのVマークですよ!敵に勝った時とか、嬉しい時にするジェスチャー!やってみて!」
私はそれを真似してみた。指を曲げたり伸ばしたりする。でもルルの手の形とはなにか違う。私にできないことがあるなんて思っていなかった。面白い。しかしこれをいまする必要もないだろう。私はここへ降りてくるときに使った梯子を使って地上に出た。私が踏みしめるそれは地面ではないので床上と表現するのが正しいのかもしれない。とにかく私は上に行き、何故かある住宅街に戻った。ずっと同じような道ばかりが続いていたのにどうしてこんなところがあるのか。一度上空から見たときもこんなところは見つけられなかった。単純に私が見落としていたのか? それも考えづらい。ルルやリリが来てから、元からおかしかったセカイがまたおかしくなっている気がする。あの二人がセカイになんらかの影響を及ぼしているのだろうか。
考えていても仕方ない。とりあえず、ああ、そうだ。霞月を回収しないと。どこかの道の途中で放置してきたんだった。
「ちょっと、置いていかないでくださいよ!」
私が来た道を辿っていると、ルルが追いついて私に怒りを表明した。待つ理由なんてない。どうせあとから追いかけて来ることはわかっていたから先に行っただけ。
「もー、また無視ですか。人を無視しちゃダメなんですよ!」
何故。
問いかけたって、答えが返ってくることは滅多にない。このルルになにかを尋ねたところで返事は期待できないな。
理解できないことを無条件に飲み込む必要はない。私はルルを無視した。
私を諌めることに諦めたルルも黙って、しばらく沈黙を抱えたまま道を歩いた。来た道を戻るだけ。視界に入るものは全部既視感のあるものばかり。そのはずだった。私は見つけた。元の世界では見ることのなかったはずのものが見えた。
そろそろこの辺りで霞月の姿が見えるはずだった。しかしそこに霞月は居らず、代わりに大きな白色直方体があった。見たことはない。しかしその存在は知っていた。名前は知らないし用途もよくわからない。存在だけをただ知っている。六面あるうちの一面に白い画面が取り付けられた機械とやらだ。
「洗濯機の次はテレビですか? これも真っ白ですね」
ルルが呟いた。疑問の音はついているが私に向けられた疑問ということはないはずだ。
そうか、これはテレビという名前なのか。
「しかもこれ、かなり前のブラウン管テレビですぅ。なんでこんなところに……」
きっと私は物珍しそうにテレビを見ていたのだろう。ルルは私に言った。
「もしかして、テレビも知らないんですか?」
今度は私に向けられた疑問だった。私が頷くとルルは意地悪く笑った。
「ほんとになにも知らないんですね。もしかしなくとも世間知らずですか?」
「違う」
私は少なくとも元いた世界のことなら全てを知っている。私がルルの常識を知らないのは、単純に私がいた世界とルルがいた世界とが違うからだ。
「そうですか? だってスマホも洗濯機もテレビも知らないんでしょ? だったらきっとTwitterも知らないんだろうし。人生損してますよ!」
ルルの言葉がちょっと引っかかった。損な人生ということは不幸な人生ということか。私は数秒間自分のいままでを振り返って、小さく頷いた。
「あなたの言うことも、あながち間違っていないかもしれない」
「えっ? あの、それは、どういう」
急にしどろもどろになったルルをよそに、視線をテレビに向ける。するとテレビに異変を発見した。さっきまで白かった画面に色がついている。私はテレビに近づいて画面をよく見てみた。その絵は、よくある絵よりは細かく描かれているけど、輪郭が変にぼやけていてなにが描かれているかをはっきりとは明言できない。でも多分。
「私が元いた世界だ」
私は吸い寄せられるように画面に触れた。これがどこかわからないわけじゃない。自信が持てないだけ。きっとあそこだ。
急に画面が眩く光った。白い光が私の腕を絡め取り、やがて全身にまとわりつく。
「ひなたさんっ!?」
後ろを見ると、驚いた顔をしているルルがいた。ルルもまた、光に絡みつかれている。
私たちはそのまま、画面の中に引きずり込まれた。
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