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253.バカセカ番外編スレ
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39 :やっきー
2022/09/08(木) 21:02:20
ここへ来て最初に視界に飛び込んできたのは、淡い桃色の花を咲かせる大樹。学園の正門を潜ってすぐに目に入るこの大樹は学園の生徒を見守っている、らしいがどちらかと言えば安らぎよりも圧迫感を感じる。その奥には歴史を感じるどっしりした校舎が佇み、生徒を見下ろす。こんな形でここに来ることになるとは思っていなかった。
「わあ! また変なところに飛ばされたですぅ! ここはどこ??」
ルルが叫ぶと登校したばかりの生徒たちの視線が一斉にこちらへ向いた。規定の制服を着ていないルルに向けられた奇異の眼差しは同じく制服を着ていない私にも向けられる。そして無数の目に明確な恐怖が注ぎ込まれた。慌てて踵を返す者や目を私に固定して動けずにいる者。色々いたけど、最終的にはみんな逃げるようにこの場を去っていった。
なにもわかっていない様子のルル。このまま放置していてもいいような気はする。でもある程度の情報は与えておくべきかと思い直し、ここについて説明した。
「ここは私が元いた世界、その中のある学園」
その言葉を聞いたルルは目を丸くした。
「てことは、元の世界に戻って来れたってこと? ずるい! 私も元の世界に返してくださいいい!!」
またルルは叫んだ。元気ということにしておこう。
「違う。ここは私が元いた世界じゃない」
私は首を振って言った。
「どういうことですか? さっき言ってたことと矛盾してますよ」
「同じなのは見た目だけ。私にはわかる。ここは作り物の世界」
「よくわかんないです……」
ルルは不安そうに瞳を揺らした。数回瞬きをしてルルがにっこり笑う。なんだ、気持ち悪い。
「不安がっていてもしょうがないです! とにかく先に進みましょう!!」
元気づけるために言ったのか。生憎不安なのはルルだけだ。
「がーん、スマホが圏外ですぅ! Twitterが見れない!」
校舎に入って構造もよくわかっていないはずなのに私の前に立って歩くルルは、すぐに教師に見つかった。
「あら、あなたは?」
話しかけてきたのは温和そうな女教師。
「どこのルームの子かしら、ここに勤めに来たばかりだからわからないのよ。それに」
女教師はルルを上から下まで見た。
「制服を着てくるの忘れちゃったのかしら?」
「あ、そ、そうなんですぅ。るーちゃんってばうっかりしちゃって〜」
ルルは話を合わせることにした。ふと女教師の目がこちらに向いた。やや表情が強張るのを確認した。女教師は笑顔を見せる。
「日向ちゃんだよね。あなたの担任のターシャ先生だよ。わかる?」
ターシャ先生は姿勢を低くして私と目線を合わせた。
わからない。
私が無反応でいるとターシャ先生は困り顔で笑みを保つ。ルルは私の肩をつついた。そして囁く。
「わかるって言って話を合わせてください」
嫌だ、面倒くさい。
「とにかくルームに戻ろうか。授業始まっちゃうし」
おそらく私の手を掴もうとしたターシャ先生をルルが遮り、私の背を押した。
「自分たちで戻れるので大丈夫ですぅ!!!」
逃げるように廊下を走らされて、しばらく経つとようやくルルが足を止めた。息を整えながら、ルルは恨めしそうに私を見る。
「絶対怪しまれてましたよ、もっとちゃんとしてください!」
何故。こそこそする理由がどこにある。なにを隠しているのかすらよくわからない。
「その無視もどうにかならないんですか? なんで無視するの!?」
何故。そう言われても返事はない。あえて言うならいちいち反応したくないからか。面倒くさい。
「ああもう! なんで合流したのがあなたなの? らんくんだったらよかったのに」
周囲が静かだからかルルは叫ばなかった。怒気は呆気なくすぐに消えて申し訳なさそうにルルは言う。
「ごめんなさい、言い過ぎました」
「別に」
ずっとうじうじされても鬱陶しいからそう言った。ルルの顔は晴れない、そのはずなのにルルは笑う。何故、不気味だ。ああ、年上だから明るく振舞おうとしているのか。
「そういえば、ひなたさんてここに通ってるの?」
ターシャ先生の言葉からそう予測したのだろう、でも。
「違う」
「えっ、だってさっき」
「私もそこは気になっていた。おそらく私がいた時間より進んだ場所にある」
国際立聖サルヴァツィオーネ学園。それがこの学園の名称。私はこの学園に近いうちに通うつもりだった。まだ通っていない。なのに通っていることになっている。
「もうよくわかんないですぅ……」
ルルは頭を抱えた。校舎の中にいるとまだ人に会うかもしれない。それは面倒臭い。そう考えて私は校舎を出た。後ろからルルの声が聞こえてくるけど意識から排除する。私は再び四季の木の前に立った。
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