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253.バカセカ番外編スレ
 ┗4

4 :やっきー
2022/03/08(火) 23:19:10

《蘭視点》

 太陽が昇りきってしばらく経った、昼前でもなく朝とも言い難いこの時間。おれはいつものようにこの東家の外へ出る準備をしていた。とは言っても持ち物は特にない。大体の物は【アイテム・ボックス】に収納してあるから、わざわざ身につけて持ち運ぶ必要がないのだ。

「兄様、おはようございます」

 部屋の扉をノックする音と共に、彗星(さとせ)の声が聞こえた。
「今日も昼食を持っていかれますか?」
 実の兄に対するものとしては声音も口調もやや堅い。ある意味仕方ないとはいえ、緊張なんてしなくていいと言っているんだけどな。それでも、「入っていい」という許可なしに扉を開けるようになっただけ良いのかな。
 開いた扉から彗星がひょこっと顔を覗かせる。ふわふわとした、しかしくせ毛とは形容できないさらさらの金髪。少し怯えるように、こちらを伺い見る橙色の瞳。おれよりも僅かに小さな──同年代と比べても栄養が足りていないように思う体。体を壊すほどではないにしろ、もっと食べた方がいいな。

「お弁当をお持ちしました。どうぞ」
「ありがとう」
 おれが笑顔で受け取ると、彗星はようやく緊張が緩んだのだろう、微笑んだ。

「じゃ、行ってくる」
「はい。行ってらっしゃいませ」

 正妻とその子であるおれたち兄弟には、味方は少ない。少ないだけで、いないわけではない。この弁当を作ってくれた誰かもその一人だ。おれたちの味方をしているせいで肩身の狭い思いをしているのに。
 それ以前に、毎日毎食を作ってくれていること自体に感謝しないといけないな。

 家から正門を使って出ると、母屋で過ごしている奴らと顔を合わせる可能性がある。それは面倒臭いので、おれはいつも裏庭を通って裏口から出るようにしている。それでもたまに会いたくない奴に会うことはあるけど、向こうを使うよりはマシだ。名前の通り、おれたちが過ごす『離れ』と母屋は距離がある。わざわざあいつらがこちらへ来ることはあまりない。

 幸い今日も人はあまりいない。遠目に人影は見えるが、それだけだ。この大陸ファーストは危険も少なくそもそもおれたちは蔑ろにされているので見張りもほとんどいない。いても『見張り』というのは名目で、実際は『監視』に近いしな。

 手入れだけはきちんとされている裏庭の、石畳の上を歩く。今日もせっせと働く老いた庭師を横目に、おれは外へと急いだ。

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